取引基本契約書の作成・見直しガイド|自社を守るポイント
継続的な取引を行う際に欠かせない取引基本契約書。しかし、ひな形をそのまま使用したり、取引先から提示された契約書に安易にサインしてしまうケースも少なくありません。取引基本契約書は継続的取引の基盤となる重要な書類であり、一度締結すると長期間にわたって自社を拘束します。本記事では、取引基本契約書の基本から、個別契約との優先関係、必須記載事項、自社を守るための作成ポイント、そして既存契約書の見直しタイミングまで、経営者の方が押さえておくべき実務的なポイントを解説します。
INDEX
取引基本契約書とは
取引基本契約書とは、同じ取引先と反復継続して取引を行う場合に、あらかじめ共通するルールを定めておく契約書です。製造業における原材料の継続仕入れ、小売業における商品の定期購入、業務委託の継続的な発注など、企業間で繰り返し発生する取引において締結されます。
取引基本契約書を締結する最大のメリットは、取引の効率化です。毎回の取引ごとに詳細な契約書を作成する手間が省け、発注書と請書のやり取りだけで個別の取引を成立させることができます。また、支払条件や品質基準、トラブル発生時の対応方法などを事前に明確化しておくことで、認識の相違によるトラブルを予防できます。
取引基本契約書は、単発の取引ではなく継続的な取引関係を前提としている点が特徴です。そのため、契約期間は1年〜3年程度に設定され、自動更新条項が設けられることが一般的です。一度締結すると長期間にわたって効力を持つため、契約内容は慎重に検討する必要があります。
なお、取引基本契約書は「売買取引基本契約書」「業務委託基本契約書」「継続的売買契約書」など、取引内容に応じてさまざまな名称で呼ばれることがありますが、継続的取引の共通ルールを定めるという本質は同じです。
取引基本契約書と個別契約の優先関係
取引基本契約書を締結した後、実際の取引は個別契約によって行われます。ここで重要になるのが、基本契約と個別契約の優先関係です。両者の内容に矛盾が生じた場合、どちらが優先されるかを明確にしておかないと、トラブルの原因となります。
優先関係を明記する重要性
基本契約と個別契約の優先関係について、法律上の明確なルールはありません。優先条項がない場合、一般的には後から締結された個別契約が優先すると解釈されますが、当事者間で見解が分かれることも少なくありません。そのため、取引基本契約書には必ず優先条項を設けておくことをおすすめします。
基本契約優先のメリット・デメリット
基本契約を優先させる場合、取引全体のルールに統一性を持たせることができます。現場担当者が個別契約で不用意に基本契約と異なる条件を記載してしまった場合でも、基本契約の内容が適用されるため、法的なリスク管理がしやすくなります。ただし、取引の実情に応じた柔軟な対応が難しくなるデメリットがあります。
個別契約優先のメリット・デメリット
個別契約を優先させる場合、取引ごとの特殊事情に柔軟に対応できます。たとえば、特定の取引だけ支払条件を変更したい場合にも、個別契約で定めるだけで対応可能です。一方で、個別契約の内容によっては、慎重に作成した基本契約の意義が損なわれるリスクがあります。
中小企業においては、基本契約を原則としつつ、重要な事項については基本契約優先、それ以外は個別契約優先とするハイブリッド型の条項を設けるケースも見られます。自社の取引実態に合わせて検討することが大切です。
取引基本契約書の必須記載事項
取引基本契約書には、継続的取引を円滑に進めるために必要な事項を漏れなく記載する必要があります。主な記載事項は以下のとおりです。
契約の目的・適用範囲
契約の目的を明確にし、どのような取引に本契約が適用されるかを特定します。適用範囲が曖昧だと、想定外の取引にまで契約が適用されるリスクがあります。
個別契約の成立方法
発注書・請書のやり取りで契約が成立するのか、それとも別途個別契約書の締結が必要なのかを明確にします。注文の承諾がない場合に契約が成立するとみなす条項(みなし承諾条項)を設けるかどうかも検討が必要です。
納品・検査に関する条項
納品場所、納品期限、検査方法、検査期間、不合格品の取扱いなどを定めます。検査期間を経過しても通知がない場合は合格とみなす条項を設けることが一般的です。
支払条件
代金の支払時期、支払方法、振込手数料の負担者を明確にします。月末締め翌月末払いなど、締め日と支払日を具体的に記載します。遅延損害金の利率も定めておくことで、支払遅延への抑止力となります。
所有権の移転時期
商品の所有権がいつ買主に移転するかを定めます。納品時、検査完了時、代金支払時など、いくつかのパターンがあり、売主と買主で利害が対立しやすい条項です。
契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)
納品物に契約内容との不適合があった場合の責任範囲と期間を定めます。民法改正により「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」に変更されていますので、古い契約書は見直しが必要です。
秘密保持義務
取引を通じて知り得た相手方の機密情報について、第三者への開示を禁止する条項です。秘密情報の定義、保持期間、例外事由を明確に定めます。
契約期間・更新
契約の有効期間と、期間満了後の自動更新の有無を定めます。更新を希望しない場合の通知期限も明記します。
解除条項
契約違反、支払停止、破産手続開始などの事由が生じた場合に、催告なしで契約を解除できる条項を設けます。解除後の損害賠償請求権についても規定します。
反社会的勢力の排除
反社会的勢力でないことの表明確約と、違反時の無催告解除を定める条項です。コンプライアンスの観点から必須の条項といえます。
合意管轄
紛争が生じた場合の管轄裁判所を定めます。自社の最寄りの裁判所を指定することで、訴訟対応の負担を軽減できます。
取引基本契約書作成の5つのポイント
取引基本契約書を作成する際、自社を守るために意識すべきポイントを5つご紹介します。
ポイント1:ひな形をそのまま使わない
インターネット上で公開されているひな形や、取引先から提示された契約書をそのまま使用することは危険です。ひな形は汎用性を重視して作られているため、自社に不利な条項が含まれていたり、必要な条項が抜けていたりすることがあります。また、取引先から提示された契約書は、相手方に有利な内容になっていることが一般的です。自社の取引実態に合わせて、条項を精査・修正することが重要です。
ポイント2:責任範囲を明確にする
契約不適合責任の範囲や期間、損害賠償の上限など、責任に関する条項は特に注意が必要です。「一切の責任を負う」といった包括的な表現は避け、責任の範囲を具体的かつ限定的に定めることで、予測不能な損害賠償リスクを軽減できます。
ポイント3:解除条件を整備する
取引先の経営状況が悪化した場合や、重大な契約違反があった場合に、速やかに契約関係を解消できるよう、解除条件を整備しておくことが大切です。催告なしで即時解除できる事由を具体的に列挙しておくことで、リスクの高い取引先との関係を迅速に清算できます。
ポイント4:不可抗力条項を設ける
天災地変、感染症の流行、戦争など、当事者の責めに帰さない事由により履行が困難になった場合の取扱いを定めておきます。新型コロナウイルスの影響で、この条項の重要性が改めて認識されました。不可抗力発生時の通知義務や、契約の変更・解除の可否について明確にしておくことをおすすめします。
ポイント5:優先関係と適用範囲を明確にする
前述の基本契約と個別契約の優先関係に加え、契約の適用範囲を明確にしておくことも重要です。どの取引に本契約が適用されるのか、関連会社との取引にも適用されるのかなど、曖昧さを残さないようにします。
契約書の条項を一つひとつ検討し、自社に有利な内容に修正していく作業は、法的な専門知識が求められます。契約書作成やリーガルチェックにお悩みの方は、お気軽に弁護士法人エースにご相談ください。
既存契約書の見直しタイミング
一度締結した取引基本契約書も、定期的に見直しを行うことが重要です。以下のようなタイミングでは、契約内容の見直しを検討することをおすすめします。
法改正があったとき
民法や商法、下請法などの関連法令が改正された場合、契約書の内容がそれに適合しているか確認が必要です。2020年の民法改正では、瑕疵担保責任が契約不適合責任に変更され、消滅時効のルールも大きく変わりました。古い契約書を使い続けていると、意図しない法的効果が生じる可能性があります。
取引実態が変化したとき
取引開始時と比べて、取引量が大幅に増加した、取引内容が多様化した、新しい商品・サービスの取扱いが始まったなど、取引実態に変化があった場合は見直しのタイミングです。当初の契約書では想定していなかった事態に対応できるよう、条項の追加・修正を検討します。
トラブルが発生したとき
支払遅延、品質クレーム、情報漏洩など、何らかのトラブルが発生した場合は、契約書の内容で対応できたかを検証し、必要に応じて見直しを行います。トラブルの経験を契約書に反映させることで、同様の問題の再発を防止できます。
自動更新のタイミング
契約の自動更新時期は、見直しの好機です。更新前に契約内容を再確認し、取引先と協議のうえで必要な修正を行います。更新を希望しない場合の通知期限に注意しながら、計画的に対応することが大切です。
→ 契約書の見直しについては、リーガルチェックとは?必要性・費用相場・依頼の流れを解説で詳しく解説しています。
弁護士法人エースの取引基本契約サポート
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→ 顧問弁護士の費用相場と料金体系もあわせてご覧ください。
取引基本契約書に関するご相談は、初回無料で承っております。銀座・横浜・鎌倉・津田沼・浜松の各オフィスでの面談のほか、オンライン・電話での相談も可能です。全国対応しておりますので、お気軽にお問い合わせください。
まとめ
取引基本契約書は、継続的取引の基盤となる重要な契約書です。本記事で解説したポイントを整理すると以下のとおりです。
取引基本契約書は、反復継続する取引の共通ルールを定める契約書であり、取引の効率化とトラブル予防に役立ちます。基本契約と個別契約の優先関係は必ず明記し、矛盾が生じた場合の取扱いを明確にしておくことが重要です。
必須記載事項としては、契約の目的・適用範囲、個別契約の成立方法、納品・検査条項、支払条件、所有権移転時期、契約不適合責任、秘密保持義務、契約期間、解除条項、反社会的勢力排除条項、合意管轄などがあります。
自社を守るためのポイントとして、ひな形をそのまま使わない、責任範囲を明確にする、解除条件を整備する、不可抗力条項を設ける、優先関係と適用範囲を明確にすることが挙げられます。
既存契約書は、法改正時、取引実態の変化時、トラブル発生時、自動更新のタイミングで見直しを検討することをおすすめします。
取引基本契約書の作成・見直しは、専門的な法的知識が求められる分野です。ひな形の利用や自己判断での対応には限界がありますので、契約書に関するお悩みは、ぜひ弁護士法人エースにご相談ください。初回相談無料、全国対応で、経営者の皆様のビジネスを法務面からサポートいたします。
監修者プロフィール
弁護士法人エース 代表弁護士
竹内 省吾
- 経歴
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慶應義塾大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2011)
弁護士登録(2012)
第一東京弁護士会・こども法委員会 委員(2020まで)
三田法曹会 会員
日本交通法学会 会員
東京都子供の権利擁護調査員(2020まで)
静岡県弁護士会 会員(2020から2023まで)
第一東京弁護士会 会員(2023)
監修者プロフィール
弁護士法人エース 代表弁護士
成田 翼
- 経歴
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明治大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2012)
弁護士登録(2013)
神奈川県弁護士会 所属
刑事弁護委員会 委員
三田法曹会 会員