解雇の正しい進め方|不当解雇と言われないための手順と注意点
従業員の解雇を検討している経営者の方にとって、「不当解雇」と言われるリスクは大きな懸念事項ではないでしょうか。解雇が無効と判断されれば、解雇期間中の賃金を遡って支払う必要が生じ、場合によっては数百万円以上の損害を被ることもあります。
解雇は従業員にとって生活の基盤を失うことを意味するため、法律上厳しい制限が設けられています。しかし、正しい手順を踏めば、適法に解雇を行うことは可能です。この記事では、不当解雇と言われないための具体的な手順と注意点を、企業側の視点から解説します。
解雇権濫用法理とは
解雇権濫用法理(正当な理由のない解雇は無効とするルール)は、企業が従業員を解雇する際に知っておくべき最も重要な法理です。労働契約法第16条では、解雇は「客観的に合理的な理由」があり、「社会通念上相当」と認められる場合でなければ無効とされています。
客観的に合理的な理由とは
「客観的に合理的な理由」とは、第三者から見ても「解雇されてもやむを得ない」と判断できる理由のことです。単に「気に入らない」「社風に合わない」といった主観的な理由では、この要件を満たしません。
具体的には、業務命令への違反、著しい能力不足、経歴詐称、会社の経営悪化などが該当します。ただし、これらの事由があったとしても、程度が軽微であれば解雇理由としては不十分とされるケースが多いです。
社会通念上の相当性とは
「社会通念上の相当性」とは、解雇という処分が問題行為に対して重すぎないかどうかの判断基準です。たとえば、数回の遅刻程度でいきなり解雇することは、一般的な社会常識からして重すぎる処分と判断されます。
相当性の判断にあたっては、従業員への注意指導の有無、改善の機会を与えたかどうか、他の従業員との処分の均衡なども考慮されます。このため、解雇に踏み切る前に十分な改善指導を行い、その記録を残しておくことが重要になります。
解雇の種類と要件
解雇には「普通解雇」「懲戒解雇」「整理解雇」の3種類があり、それぞれ満たすべき要件が異なります。適切な種類を選択し、各要件を満たすことが適法な解雇の前提となります。
普通解雇
普通解雇は、従業員の能力不足、勤務態度の問題、心身の故障などを理由とする解雇です。最も一般的な解雇の形態ですが、有効と認められるためには高いハードルがあります。
普通解雇が有効と認められるためには、就業規則に定められた解雇事由に該当すること、解雇権の濫用にあたらないことが必要です。能力不足を理由とする場合は、どのような指導を行ったか、改善の機会を与えたか、配置転換などの代替手段を検討したかが重要なポイントになります。
懲戒解雇
懲戒解雇は、従業員の重大な規律違反に対する制裁として行われる解雇です。横領、暴力行為、重大なハラスメント、長期の無断欠勤などが典型的な事由として挙げられます。
懲戒解雇を行うためには、就業規則に懲戒事由と懲戒解雇の定めがあること、従業員の行為が懲戒事由に該当すること、処分として相当であることが求められます。また、弁明の機会を与えることも手続き上重要なポイントです。
整理解雇
整理解雇は、会社の経営悪化に伴う人員削減を目的とした解雇です。いわゆる「リストラ」がこれにあたります。従業員側に落ち度がないにもかかわらず行われる解雇であるため、最も厳格な要件が課されています。
整理解雇が有効と認められるためには、人員削減の必要性があること、解雇回避努力を尽くしたこと、被解雇者の選定基準が合理的であること、従業員への説明・協議を行ったことという「整理解雇の4要件」を満たす必要があります。
解雇の正しい手順
解雇を適法に行うためには、事前の準備から通知まで、段階を踏んで進めることが重要です。焦って解雇を強行すると、後から不当解雇として争われるリスクが高まります。
事前対応と証拠化
解雇を検討する段階では、まず問題となる事実を正確に把握し、証拠として記録に残すことから始めます。口頭での注意指導だけでは、後から「そのような指導はなかった」と争われる可能性があるためです。
具体的には、問題行動があった日時・場所・内容を記録し、注意指導を行った際の書面(指導書、始末書など)を保管しておきます。メールでのやり取りも重要な証拠となりますので、削除せずに保存しておくことをおすすめします。改善の機会を与え、一定期間様子を見ることも、解雇の相当性を裏付ける重要な要素となります。
解雇予告と解雇通知
解雇を行う場合、原則として30日前までに予告する必要があります(労働基準法第20条)。30日前までに予告できない場合は、不足する日数分の平均賃金を「解雇予告手当」として支払わなければなりません。
解雇の意思表示は、口頭でも法律上は有効ですが、後のトラブル防止のため、必ず書面(解雇予告通知書または解雇通知書)で行うべきです。書面には、解雇の日付、解雇理由を明記します。また、従業員から請求があった場合は、解雇理由証明書を交付する義務があります。
即日解雇の場合の注意点
横領や重大な暴力行為など、即日解雇が必要なケースもあります。この場合、30日分以上の解雇予告手当を支払うか、労働基準監督署の除外認定を受ける必要があります。
ただし、除外認定の審査には時間がかかることが多いため、実務上は解雇予告手当を支払って即日解雇を行い、必要に応じて後から認定を受けるケースが一般的です。なお、解雇予告手当を支払っても、解雇自体の有効性が認められるわけではない点には注意が必要です。
解雇が無効となるケース
過去の判例から、解雇が無効と判断されやすいパターンを学んでおくことは、リスク回避のために非常に有効です。同じ失敗を繰り返さないよう、代表的なケースを把握しておきましょう。
注意指導が不十分なケース
最も多いのが、十分な注意指導を行わずに解雇したケースです。「何度言っても直らない」と感じていても、その「何度」が口頭での軽い注意だけでは、裁判では「指導が不十分」と判断されることがあります。
書面での注意、改善計画の策定、定期的な面談の実施など、段階的かつ記録に残る形での指導が求められます。
解雇以外の手段を検討していないケース
配置転換や降格など、解雇よりも軽い措置で対応できるにもかかわらず、いきなり解雇に踏み切ったケースも無効とされやすいです。
特に能力不足を理由とする場合、「他の部署であれば能力を発揮できたのではないか」「教育訓練の機会を与えたか」といった点が問われます。解雇は最後の手段であるという姿勢を示すことが重要です。
手続きに瑕疵があるケース
就業規則に定められた手続きを踏んでいない場合も、解雇が無効とされることがあります。たとえば、就業規則で「懲戒委員会の審議を経る」と定められているにもかかわらず、委員会を開催せずに解雇した場合などです。
自社の就業規則を確認し、定められた手続きを漏れなく実施することが大切です。
解雇前に検討すべき選択肢
解雇は会社にとってもリスクの高い選択です。訴訟に発展すれば、弁護士費用や解決金の支払いに加え、対応に要する時間と労力も相当なものになります。解雇を決断する前に、他の選択肢も検討することをおすすめします。
退職勧奨
退職勧奨とは、会社から従業員に退職を促し、合意のうえで雇用契約を終了する方法です。解雇と異なり、従業員の同意を得て退職に至るため、後から争われるリスクが大幅に低減します。
退職勧奨を行う際は、退職を強要しないことが重要です。執拗に退職を迫ったり、退職届を書くまで部屋から出さないといった行為は違法となり、損害賠償請求の対象となる可能性があります。あくまで従業員が自由な意思で判断できる環境を整えることが大切です。
退職勧奨に応じてもらうために、退職金の上乗せや再就職支援を提示することも有効な方法です。詳しくは「問題社員への対応方法」をご覧ください。
配置転換・降格
能力不足や職場での人間関係が問題となっている場合、配置転換によって状況が改善することもあります。また、職責に見合った能力がない場合は、降格を検討することも選択肢の一つです。
ただし、配置転換や降格も、本人への説明なく一方的に行うとトラブルの原因となります。本人と面談のうえ、なぜその措置が必要なのかを丁寧に説明し、理解を得ることが重要です。
懲戒処分(解雇以外)
問題行為に対しては、解雇以外の懲戒処分で対応することも検討しましょう。戒告、けん責、減給、出勤停止など、解雇よりも軽い処分を段階的に行うことで、改善の機会を与えるとともに、後に解雇が必要となった場合の正当性を高めることができます。
解雇を弁護士に依頼するメリット
解雇は労務問題の中でも特に法的リスクが高い分野です。自社だけで判断・対応するのではなく、弁護士に相談することで多くのメリットが得られます。
解雇要件の適切な検討
弁護士は、具体的な事実関係をもとに、解雇が法的に有効と認められる可能性を判断します。「このケースで解雇すると裁判で争われた場合にどうなるか」という見通しを立てることで、経営者の方が適切な判断を下すための材料を提供できます。
当事務所では、解雇要件の検討だけでなく、経営判断としての最善の選択肢についてもアドバイスしています。法的には解雇が可能でも、訴訟リスクやコストを考慮すると退職勧奨の方が得策というケースも少なくありません。
手続きのサポート
解雇予告通知書の作成、解雇理由証明書の作成、従業員への説明の立会いなど、解雇手続き全般のサポートを受けることができます。書面の文言一つで後のトラブルを防げることもありますので、専門家のチェックを受けることをおすすめします。
訴訟リスクの回避
解雇後に従業員から不当解雇を主張された場合でも、弁護士が関与していれば、交渉段階での解決を図ることができます。労働審判(3回以内の期日で解決を目指す裁判手続き)や訴訟に発展した場合も、代理人として対応いたします。労働審判・訴訟への対応については、「労働審判・労働訴訟への対応」で詳しく解説しています。
当事務所は、グループ内に社労士法人を有しており、解雇手続きから就業規則の見直し、退職後の社会保険手続きまでワンストップで対応可能です。また、所属弁護士は全員が通知税理士登録済みですので、退職金の税務処理などについてもご相談いただけます。
解雇に関するお悩みは、問題が大きくなる前に早めにご相談ください。初回相談は無料で承っております。
まとめ
解雇は従業員の生活に重大な影響を与える行為であり、法律上も厳格な要件が課されています。不当解雇と判断されれば、解雇期間中の賃金支払いや復職を余儀なくされ、企業に大きな損害が生じます。
適法な解雇を行うためのポイントは以下の通りです。
- 解雇権濫用法理を理解し、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」を満たすことが必要
- 解雇の種類(普通解雇・懲戒解雇・整理解雇)に応じた要件を確認する
- 事前の注意指導と証拠化を徹底し、改善の機会を与える
- 解雇予告は30日前まで、または解雇予告手当を支払う
- 解雇前に退職勧奨や配置転換など、他の選択肢も検討する
解雇は最後の手段です。計画的な対応と専門家のサポートを受けることで、リスクを最小限に抑えることができます。
労務問題全般については「労務問題の対応・解決」で詳しく解説しています。解雇を含む労務トラブルでお困りの経営者の方は、弁護士法人エースまでお気軽にご相談ください。電話相談受付は年中無休で8:00〜22:00まで対応しております(0120-419-155)。初回相談は無料です。
監修者プロフィール
弁護士法人エース 代表弁護士
竹内 省吾
- 経歴
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慶應義塾大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2011)
弁護士登録(2012)
第一東京弁護士会・こども法委員会 委員(2020まで)
三田法曹会 会員
日本交通法学会 会員
東京都子供の権利擁護調査員(2020まで)
静岡県弁護士会 会員(2020から2023まで)
第一東京弁護士会 会員(2023)
監修者プロフィール
弁護士法人エース 代表弁護士
成田 翼
- 経歴
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明治大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2012)
弁護士登録(2013)
神奈川県弁護士会 所属
刑事弁護委員会 委員
三田法曹会 会員