労働審判・労働訴訟への対応|企業側の準備と弁護士の役割
突然、裁判所から届いた「労働審判」の呼出状。解雇した従業員から申し立てられた、残業代を請求された——こうした事態に直面して、何から手をつけてよいか分からないという経営者の方は少なくありません。労働審判(3回以内の期日で解決を目指す裁判手続き)は、準備期間がわずか3週間程度と非常にタイトな手続きです。第1回期日までの対応が結果を大きく左右するため、早期に弁護士へ相談することが重要です。この記事では、労働審判を申し立てられた企業側が知っておくべき手続きの流れ、準備すべきこと、そして労働訴訟に発展した場合の対応まで、経営者の視点から詳しく解説します。
INDEX
労働審判とは|制度の概要と通常訴訟との違い
労働審判とは、個々の労働者と会社との間で発生した労働トラブルを、迅速かつ適正に解決するための裁判所の手続きです。平成18年に制度が開始されて以来、年間約3,500件前後の申立てがあり、解雇トラブルや残業代請求の解決手段として広く利用されています。
労働審判の最大の特徴は、原則3回以内の期日で審理が終結する点です。通常の労働訴訟では判決まで1年以上かかることも珍しくありませんが、労働審判は平均して2〜3か月程度で決着がつきます。
審理を担当するのは「労働審判委員会」と呼ばれる3名の合議体で、裁判官1名(労働審判官)と労働問題の専門家2名(労働審判員)で構成されます。労働審判員には、労働組合の推薦者と使用者団体の推薦者が1名ずつ選ばれるため、職場の実情を踏まえた判断が期待できます。
通常訴訟との主な違い
| 項目 | 労働審判 | 通常訴訟 |
|---|---|---|
| 期日 | 原則3回以内 | 回数制限なし |
| 期間 | 2〜3か月程度 | 1年以上かかることも |
| 審理方式 | 口頭主義(その場でのやり取り重視) | 書面主義 |
| 代理人 | 弁護士が強く推奨される | 弁護士が必須に近い |
企業側にとっては、短期間で紛争を解決できるメリットがある一方、準備期間も極めて短いため、迅速な対応が求められます。
労働審判を申し立てられた場合の流れ
労働審判の手続きは、以下の流れで進みます。企業側がいつ、何をすべきかを把握しておくことが重要です。
申立書の受領
従業員(または元従業員)が裁判所に労働審判申立書を提出すると、裁判所から会社宛てに申立書の写し、証拠書類、「期日呼出状及び答弁書催告書」が郵送されます。呼出状には、第1回期日の日時と答弁書の提出期限が記載されています。
申立書が届いたら、まず第1回期日の日時を確認し、関係者のスケジュールを確保してください。期日は原則として変更できませんので、社長や人事担当者など、事実関係をよく知る方の出席が必要になります。
答弁書・証拠の提出
第1回期日の約1週間前までに、会社側の主張をまとめた答弁書と証拠を提出しなければなりません。申立書の到着から提出期限まで、実質的には3週間程度しかないことがほとんどです。
この答弁書の出来が、労働審判の結果を大きく左右します。労働審判委員会は、提出された書面と証拠を精査したうえで第1回期日に臨み、おおよその心証(解決の方向性)を形成します。
第1回期日
第1回期日は、申立てから40日以内に設定され、通常2〜4時間程度行われます。期日では、書面だけでは確認できない点について、労働審判委員会から当事者に直接質問がなされます。会社側からは、事実関係を把握している担当者や経営者が出席し、その場で回答する必要があります。
質問への対応次第で心証が左右されるため、想定問答を準備しておくことが大切です。弁護士に依頼している場合は、弁護士が同席してサポートを受けられます。
第2回・第3回期日と調停
第1回期日で調停(話し合いによる解決)がまとまらない場合は、第2回、第3回の期日が設定されます。ただし、実務上は第1回期日で調停が成立するケースも多く、第2回以降は条件調整が中心となります。
調停が成立すれば、調停調書が作成され、判決と同じ法的効力を持ちます。
審判と異議申立て
調停が成立しない場合、労働審判委員会が「審判」を下します。審判に不服がある場合は、審判書を受け取った日の翌日から2週間以内に異議を申し立てることができます。異議申立てがあると、審判は効力を失い、自動的に通常訴訟に移行します。
企業側が準備すべきこと
労働審判で会社側の主張を通すためには、限られた時間内で効果的な準備を行う必要があります。
証拠の整理と収集
まず、申立書の内容を精査し、争点となる事実について証拠を整理します。解雇の有効性が争われているケースでは、就業規則、雇用契約書、問題行為を記録した報告書、指導記録、始末書などが重要な証拠となります。残業代請求であれば、タイムカード、勤怠記録、賃金台帳、36協定(サブロク協定:時間外労働に関する労使協定)などを準備します。
証拠は早期に収集することが重要です。時間が経過すると、データが削除されたり、関係者の記憶が曖昧になったりするおそれがあります。申立書が届いたら、すぐに証拠の所在を確認してください。
答弁書の作成
答弁書には、申立人の主張に対する認否(認める・否認する・不知)と、会社側の反論を記載します。法的な争点を整理し、会社に有利な事実を説得力のある形でまとめることが求められます。
答弁書作成のポイントは、結論を先に示し、根拠となる事実と証拠を簡潔に記載することです。労働審判委員会は多くの事件を担当しているため、分かりやすい書面が好印象につながります。
和解条件の検討
労働審判では、約7〜8割が調停(和解)で解決しています。第1回期日の段階から和解に向けた話し合いが行われることも多いため、事前に和解条件の落としどころを検討しておくことが重要です。
解雇トラブルであれば、解決金の金額や退職日の設定、残業代請求であれば支払額の上限などを、経営判断として決めておく必要があります。期日当日に決裁権限を持つ方が出席できない場合は、すぐに連絡が取れる体制を整えておいてください。
労働審判への対応でお困りの場合は、お早めに弁護士へご相談ください。当事務所では、答弁書の作成から期日への同席まで、迅速にサポートいたします。
労働訴訟に発展した場合の対応
労働審判で解決しない場合、通常訴訟に移行することがあります。
訴訟移行の2つのケース
訴訟移行には、主に次の2つのパターンがあります。一つは、当事者のいずれかが審判に対して異議を申し立てた場合です。異議申立てがあると、審判は効力を失い、訴訟手続きに移行します。
もう一つは、「24条終了」と呼ばれるケースです。事案が複雑で労働審判での解決に適さないと判断された場合、労働審判委員会の決定により手続きが終了し、訴訟に移行します。
長期化リスクへの対応
訴訟に移行すると、解決まで1年以上かかることも珍しくありません。解雇事案では、訴訟期間中の賃金(バックペイ)の支払いリスクが増大するため、訴訟移行の可否は慎重に判断する必要があります。
一方で、会社側の主張に理があり、労働審判の調停案に納得できない場合は、訴訟でしっかり争うことも選択肢となります。経営への影響、レピュテーション(企業の評判)、他の従業員への波及などを総合的に考慮して判断してください。
和解と判決
訴訟においても、判決に至る前に和解で解決するケースが多くあります。裁判官から和解案を提示されることもあり、判決リスクを回避しつつ紛争を終結できる点でメリットがあります。
判決となった場合は、その結果を受け入れるか、控訴して争うかの判断が必要になります。判決内容によっては、他の従業員から同様の請求がなされるリスクもあるため、慎重な検討が求められます。
よくある争点と企業側の対応
労働審判で争われることの多い典型的な争点と、企業側の対応ポイントを解説します。
解雇無効
労働審判で最も多い争点が解雇の有効性です。解雇権濫用法理(正当な理由のない解雇は無効とするルール)により、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない解雇は無効となります。
企業側としては、解雇に至った経緯(注意指導の履歴、改善の機会の付与など)を時系列で整理し、解雇が相当であったことを立証する必要があります。詳しくは「解雇の正しい進め方」をご覧ください。
残業代請求
固定残業代(みなし残業代)の有効性、管理監督者該当性、労働時間の算定方法などが争点となります。
固定残業代が有効と認められるためには、基本給との区別が明確であること、対象となる時間外労働の時間数が明示されていることなどの要件を満たす必要があります。要件を満たさない場合、固定残業代が割増賃金の支払いとして認められず、追加の支払いを求められる可能性があります。残業代請求への備えについては「残業代請求への企業側の対応」で詳しく解説しています。
ハラスメント損害賠償
パワーハラスメントやセクシャルハラスメントを理由とする損害賠償請求も増加しています。会社は、使用者責任や安全配慮義務違反を問われることがあります。
ハラスメント案件では、被害申告があった時点での会社の対応が重要です。事実調査を適切に行ったか、加害者への処分は相当であったか、被害者へのケアを行ったかなどが問われます。「職場のハラスメント対応」も併せてご確認ください。
弁護士に依頼するメリット
労働審判への対応は、弁護士に依頼することを強くおすすめします。
迅速な対応
労働審判は時間との勝負です。申立書が届いてから答弁書の提出期限まで3週間程度しかないなか、事実関係の調査、証拠の収集、法的主張の組立て、書面の作成を行う必要があります。
弁護士に依頼することで、限られた時間を有効に活用し、効果的な反論を準備できます。当事務所では、複数の弁護士とスタッフがチームで対応し、迅速にサポートいたします。
答弁書作成と法的主張の構築
答弁書は、会社側の主張を労働審判委員会に伝える最も重要な書面です。法的な争点を的確に把握し、証拠に基づいた説得力のある主張を展開するには、専門的な知識と経験が不可欠です。
弁護士は、過去の裁判例や実務の動向を踏まえ、会社に有利な結論を導くための戦略を立案します。
期日への出席・代理
労働審判の期日には、弁護士が代理人として出席し、会社側担当者へのサポートを行います。労働審判委員会からの質問に対して、適切に回答できるよう事前の打ち合わせを行い、期日当日も隣でフォローします。
和解交渉の場面でも、弁護士が間に入ることで、感情的な対立を避けながら冷静に条件を詰めることができます。
当事務所では、グループ内に社労士法人を有しており、就業規則の見直しや労務管理体制の整備まで一貫してサポートが可能です。労働審判への対応だけでなく、再発防止に向けた体制づくりもお任せください。
まとめ
労働審判は、企業にとって突然のことであり、短期間での対応を迫られるため、経営者の方にとって大きな負担となります。しかし、適切な準備と対応を行えば、会社側の主張を認めてもらえる可能性は十分にあります。
労働審判対応のポイントは次のとおりです。
- 申立書が届いたら、すぐに弁護士へ相談する
- 証拠を早期に収集・整理する
- 答弁書で会社側の主張を説得力をもって伝える
- 和解条件の落としどころを事前に検討しておく
- 期日には事実関係を把握した担当者が出席する
第1回期日までの初動対応が、労働審判の結果を大きく左右します。「まだ大丈夫」と思っているうちに、貴重な準備期間が過ぎてしまうこともあります。
弁護士法人エースでは、労働審判を申し立てられた企業からのご相談を随時受け付けております。答弁書の作成から期日対応、さらに訴訟移行した場合の対応まで、経験豊富な弁護士がチームでサポートいたします。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
労務問題全般については「労務問題の対応・解決」をご覧ください。
監修者プロフィール
弁護士法人エース 代表弁護士
竹内 省吾
- 経歴
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慶應義塾大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2011)
弁護士登録(2012)
第一東京弁護士会・こども法委員会 委員(2020まで)
三田法曹会 会員
日本交通法学会 会員
東京都子供の権利擁護調査員(2020まで)
静岡県弁護士会 会員(2020から2023まで)
第一東京弁護士会 会員(2023)
監修者プロフィール
弁護士法人エース 代表弁護士
成田 翼
- 経歴
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明治大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2012)
弁護士登録(2013)
神奈川県弁護士会 所属
刑事弁護委員会 委員
三田法曹会 会員