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不倫慰謝料

広まるか?婚前契約(プレナップ)!

婚前契約(プレナップ)って何ですか?

婚前契約(プレナップ)というのは,婚姻前に婚姻当事者が協議を元に約束した事項を正式に契約書面としたものをいいます。プレナップというのは英語ですが,正確には,prenuptial agreementといいます。ちなみにプリナップという表記もあります(どっちかというとこちらの表記の方が英語には近い気がしますが,日本語的に「プレ」というのが「前もって」的な意味で定着している気がするので,このコラムではプレナップと表記します。)。

婚前契約(プレナップ)の内容としては,家事の分担についてであるとか,財産分与や離婚の条件についてなどを取り決めることが多いようです。

欧米では一般的な制度だといわれていますが,日本ではまだ馴染みは薄い制度ですよね。特に,物事をあえて明確にしない日本的な文化では,結婚というおめでたい温かみの中に,「契約」という無慈悲で冷たいものを持ち込むことに抵抗感があるのかもしれません。

そんな中で,歌手のSILVAさんが「婚前契約のススメ」というタイトルでブログを更新し,婚前契約を結んだ上で結婚していることを明らかにし,「結婚して四年、無駄な喧嘩や言った言わないの言い争いは特になく、大変わかりやすい、過ごしやすい風通しの良い結婚生活を送れています。」と述べています。

個人的には,婚前契約(プレナップ)は日本でも広まるべき制度ではないかと思います。大きな理由としては,離婚の条件を明確にできる,離婚の際の財産分与や慰謝料の算定方法を明確にしておける,婚姻生活で守って欲しい事柄を明確に言葉にして伝えておくことで婚姻後の無用なトラブルを防げる,などがあります。

え?もう好きじゃないのに離婚できないの?

私が日本の婚姻制度で一番の問題だと思っているのがこれです。「もう一緒にいたくない!」,「別れたい!」と思っても,簡単には別れられないのが日本の法律です。

民法では,離婚原因がなければ離婚できないことになっていて,この離婚原因というのがとにかく厳しいんですね。見てみましょうか。

(裁判上の離婚)
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

民法

民法770条は,裁判上の離婚原因を定めた規定です。裁判上の離婚ってことは,裁判にならない場合なら関係ないんじゃないのと思う方もいると思いますが,当事者で合意できるのであればその通りですね。

ただ,一方が離婚したい,もう一方が離婚したくない,という場合には結局上記の離婚原因があるかどうかが問題になってしまいます。

一応,民法770条1項5号に「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」というのがあるのですが,一方が離婚したがっているというのはこれに当たらないというのが判例通説です。

本当にそれでいいのか?と思いませんか?しかも,ご丁寧にも,民法770条2項は,「裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。」としているんですね。

裁判所,お節介すぎませんかね?

そんな制度で,本当に誰かが幸せになるのか,不幸から逃れられるのか,個人的にはかなり疑問です。当事者の関係だけ見ても幸せになるとは思えないし,子供の福祉の観点からいっても,嫌々一緒にいる両親の近くで育つことが幸せとは思えないんですよね。

生活基盤などの経済的問題は,離婚とは切り離してその補償について考えるべき問題だと思います。人が誰と生きていくかを法が強制していいのかという素朴な疑問があります。

離婚できない問題をプレナップで回避できる?

じゃあ,片方が離婚したいっていった場合には離婚に応じることをあらかじめ合意しておけば,離婚できるのかという点,気になりますよね。

正直にいうと,今は多分できません。

いざそういう問題が裁判所に持ち込まれたような場合に,上記のような自由離婚の合意は公序良俗に反して無効であるというような判断がされる可能性が高いと思います。というか,実際に次のように判断している裁判例があります。

 本件誓約書においては、本文冒頭である第1項に、「将来」原被告「お互いにいずれか一方が自由に申し出ることによって、いつでも離婚することが出来る。」との文言が記載されているところ、その文言の内容、わざわざ別項を設けていること、申出が原被告のいずれかで財産分与額を異にして規定していることからすると、本件誓約書は、定められた金員を支払えば、原被告のいずれからも離婚を申し出ることができ、他方、その申し出があれば、当然相手方が協議離婚に応じなければならないとする趣旨と解される。
 そうだとすると、本件誓約書は、将来、離婚という身分関係を金員の支払によって決するものと解されるから、公序良俗に反し、無効と解すべきである。

東京地裁平成15年9月26日判決

地裁レベルですし15年以上前の判決ですが,今でも同じような判断がされる可能性は正直いって高いでしょう。ただ,あらかじめそういう合意をしていたのだからという感じでそもそも紛争にならないケースは増えるでしょうし,もしかしたら将来的には有効と判断される日がくるかもしれないので,その意味では取り決めをしておく価値はあると思います。

離婚の際の財産分与などについての定めは有効?

では,離婚するしない問題ではなく,財産分与などの離婚に付随する問題をプレナップで決めておくことは,法律的には有効でしょうか?

付随する問題としては,財産分与,親権,慰謝料などがあります。

財産分与に関する取り決め

これは有効になり得ます。

ただし,一口に財産分与といっても,なかなか奥が深く,「絶対有効!」とは言い切れないところがあるので,法的に有効にしたい場合には事前に弁護士等の専門家に相談しておいた方が良いでしょう。

親権に関する取り決め

これはまず無効でしょうね。

日本の法律や裁判所は身分法についてはかなり厳格な取り扱いをしていますので,どちらに親権がいくかの最大の要因は「子の福祉」にあり,それは子の年齢や子どもと親の具体的な関係性にも寄るところが大きいので,予めどちらが親権者になると定めておくような取り決めは無効とされる可能性があります。

そもそも単独親権ってどうなのよ?

という意見もあると思いますが,この点について争われた裁判で最高裁は,「上告理由なし」という簡単な判決をしており(最高裁平成31年2月28日),現時点では特に憲法問題として認識していないようです。

慰謝料に関する取り決め

これは有効となる可能性が一番高いです。

例えば,不貞行為をした場合の慰謝料を定めておくと,それは損害賠償の予定として有効になる可能性が高いです。ただし,あまりに高い慰謝料の設定は,やはり公序良俗違反として無効とされてしまうでしょう。

お勧めとしては,こういう不法行為となる行為による慰謝料の額をギリギリ公序良俗に反しない程度に定めておき,その請求に必要となった弁護士費用についても不法行為をした方の負担とすることを定めておくことです。

日本版プレナップ?夫婦財産契約とは?

実は,日本の民法にも「夫婦財産契約」といって,プレナップのような(?)制度が定められています(民法755条,756条)。

民法は,夫婦の財産関係について,夫婦財産契約がされていない場合には次のように夫婦別産となる旨を定めています。

すなわち,夫婦の一方が婚姻前から有していた財産、および婚姻中に自分の名前で得た財産は、その者の個人的財産となります(民法762条1項)。
但し、夫と妻のうち、どちらの物か分からないときは、共有となります(民法762条2項)。また、費用についても、夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担します(民法760条)。

夫婦財産契約は,上記と異なる合意をすることを認めるものなのですが,その契約は婚姻前にしなければならず,更に婚姻前に登記をしなければ第三者に対抗できないとされています。これはかなり厳格な要件で,実際にはほとんど使われていません。ですが,この要件をクリアする限り,夫婦の財産について特別な定めをすることができますので,プレナップにおいて夫婦の財産についての定めをするなら,登記することで法的には第三者にも主張することができるということになります。

こんな制度誰が使うんだろう・・・と思ったら,一応,毎年10件前後は登記されているようです。平成27年の婚姻届出数は63万件以上なので,かなりレアではありますね。

なお,婚姻後の夫婦間の契約はいつでも取り消すことができる(!)とされており(民法754条),契約の拘束力はほぼないものといってよいので,婚姻後に夫婦間で契約を結ぶことは法的にはほとんど意味がありません。夫婦関係に契約なんて相応しくないよ,ということなんでしょうかね。

プレナップは意味なし?!

こうしてみると,プレナップにはほとんど法的意味はないといえそうです。

ただ,これは個人的見解ですが,先ほど述べたように日本の裁判所は離婚原因についてかなり厳格です。プレナップで約束していたことをことごとく破られているとすれば,それは夫婦関係が破綻している(=離婚原因あり)と判断する方向に動きやすい。。。かもしれません。

じゃあプレナップって意味ないのかというと,私はそうは思いません。法的意味がなくても意味のあることって,たくさんあります。

プレナップを作ろうとなれば,お互いに未確認だったことが分かることはかなり多いと思います。

相手がどういうことを求めているのか,あるいは自分が相手にどういうことを求めているのか,その求めに対して,相手や自分はどのように感じるのか。そういうことを正面から話し合う機会って,なかなかないですよね?子どもが欲しいのか欲しくないのかというセンシティブな問題から,お小遣いはこれくらいは欲しいとか年に一回は旅行に行こうとか,ありがちなことでも,プレナップいうそれなりのものを作る際に約束したり話し合ったり意見表明したりすることは,今後,長い間一緒に暮らしていく二人の関係構築の上でとても大事なことなんじゃないかと思います。

まあ,結論的には,日本の法律的にはプレナップほとんど意味ないです・・・

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馬場 龍行 弁護士
弁護士法人 エース
代表弁護士馬場 龍行
所属弁護士会第一東京弁護士会