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時事問題

養育費の基準が16年ぶりに値上げ改正!

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古すぎ=安すぎだった養育費基準

さる12月23日,ようやく養育費の基準が改正されました。業界内ではもちろん大きニュースですが,世間一般にも大きなニュースといえるのではないでしょうか。

というのも,養育費については社会問題化しているといって良い状態にあります。その問題の1つは金額が安すぎるのではないか,もう1つは約束したのに支払われないことへの実効的な救済策がないことの2点です。

これについて,最近やっと,国が動き出しました。

そのうちの1つが,この養育費の基準の改正です。もう1つの未払いへの対策も2020年4月施行予定の法律によって,簡単に言えば勤め先を探し出して給料を差し押さえできるようにできるようになります。逃げ得を許さないという当たり前といえば当たり前のことですが,養育費は子供の養育にとって極めて重要なものであることや養育費を受け取っていないシングルマザーが70%などの調査結果がある中で,とても重要な法改正です。

今回は,逃げ得を許さない法改正に先んじて,養育費の額に関する基準が改正になりましたので,これをわかりやすく説明していきたいと思います。

そもそも養育費の基準って何?誰が作っているの?

この養育費の基準を作っているのは裁判所です。正確にいうと,東京及び大阪の家庭裁判所所属(当時)の裁判官を研究員とする司法研究の成果として,最高裁司法研修所がまとめたものです。

基本的には,養育する子供の人数・年齢と,養育費を請求できる人の年収,払う義務を負う人の年収で,月々いくら払うべきという形で定められています。

この基準,法的な拘束力はなくて,あくまで個々の事例ごとに定めるべきとされているんですけど,実務上はとっても絶大な力があって,ほとんど法的拘束力に近いレベルのもの。

その基準が,実に16年ぶりに改正されたと。遅すぎやしませんかね?

10年1昔といいますが,お金に関する16年前の基準って,古すぎるだろと思いませんか?実際,物価変動が全く考慮されないまま古い基準が使われているなどの批判はあったんですね。

実は,日弁連はそういう問題意識から,一足先に新基準というのを打ち出していたんですが,実務ではほぼ無視されているという悲しい状態でした。日弁連作成の基準を持ち出しても調停委員や裁判官は全然相手にしてくれなかったんですね。。。

基準を改定するのは本当に大変だとは思うんですけど,5〜6年に1回とか,長くても10年に1回くらいは見直して欲しいものです。

養育費の新基準,どれくらい値上がりした?

例えば,14歳以下の子供が二人いる夫婦が離婚して,母親が親権者となった場合,父親の年収が550万円で母親の収入が0だとすると,父親が払うべき養育費は,古い基準では8〜10万円だったのが,新基準では10〜12万円となっています。

今のは一例ですが,概して,1〜2万円は増額するケースが多いようです。

まあ,安すぎるという批判があった中での基準改正なので,増額するのは当然と言えば当然ですね。今後,養育費を受け取ることになるシングルマザーやシングルファザーには朗報と言えるでしょう。

合意済の養育費について,新基準に合わせた額に変更できる?

「あれ,待てよ,いまもう古い基準があったからそっちで約束しちゃってるんだけど?新しい基準でもらえるようになるの?(払わなきゃいけないの?)」と思う人もいるかもしれません。

これについては,今回の基準改正の中でも触れられていて,この基準が発表されたこと自体は,すでに取り決めた養育費の額を変更すべき事情には当たらないとされています。

ただ,何か客観的な事情の変更があって,養育費の額の変更を申し立てるような場合には,新基準の方を使うとなっているので注意してください。

例えば,養育費を払う側が,収入が減ったので減額請求したい,と言っても,新基準を前提にすると逆に増額になるじゃんということも考えられなくはないので,気をつけましょう。

成人年齢18歳になることと養育費支払い期間の関係は?

次に,今回の改正では,養育費の値上げだけでなく,成人年齢が18歳になることとの関係にも触れられています。

2022年4月から成人年齢は20歳から18歳に引き下げられます。そうすると,養育費も18歳まででいいのか?という疑問が出てくるのは当然と言えば当然ですね。

これについて,新基準では,まあ基本的には20歳まででいいんじゃないというスタンスを取ってます。

もう少しいうと,まず成人年齢を引き下げる法律改正までに成人に達するまで支払うと約束した場合には,成人が18歳に引き下げられても,20歳までと見るべきですよ。というのが前提になっています。

約束した時点での成人=20歳だから,ということで,これはまあわかりますよね。

面白いのは,2022年以降においても,20歳までを原則とするかのような意見が書かれているんですね。引用すると

「養育費の支払義務の終期は未成熟子を脱する時期であって,個別の事案に応じて認定判断される。未成熟子を脱する時期が特定して認定されない事案については,未成熟子を脱するのは20歳になる時点とされ,その自練が養育費の支払義務の終期と判断されることになると考える。」

http://www.courts.go.jp/vcms_lf/gaiyou_592KB.pdf

つまり,2022年以降は,「成人するまで」という形で当事者双方が合意できれば養育費を支払うのは18歳までということになるのでしょうが,権利者側が,いや20歳までにしてよって話をすることも十分可能ということです。

この基準を前提にすれば,未成熟子を脱する時期が特定して認定されない限り20歳までということになりますが,10歳とかの子供が未成熟子を脱する時期が特定して認定されることってまずないのではないでしょうか。

というか,未成熟子を脱するというのが成人という意味じゃないのか?と素朴に疑問に思う。あれかな,少子化だし少しでも手厚く!ってことですかね?

何れにしても,個人的な推測だけど,成人年齢が引き下げられる2022年以降も,権利者側がしっかりと主張しさえすれば,養育費支払義務の終期は20歳までで決まることがほとんどになるんじゃないでしょうか。

権利者側は,漫然と「成人まで」というので同意せず,「未成熟期を脱する時期を特定して認定されない限り20歳まで払え!」と主張すべきでしょう。弁護士としても要注意の部分です。

子育て支援の鑑!明石市の養育費立替方針が素晴らしい。

最後に,未払い養育費がある場合に行政が立て替えてくれることがあるという噂について話します。

これは,あります。正確にいうと,まだ行政自体が立て替えるという形ではなく,民間の保証会社を使って立て替えをするという施策を明石市が既に行なっています。

このパイロット事業では,民間の保証会社を利用して,養育費未払いになった時に民間の保証会社から養育費相当額を支払ってもらい,民間の保証会社が支払義務者から回収するという建てつけになっています。

これをさらに押し進めて,市自体が立て替えをして義務者から回収する方針を示しています。

この件に関する明石市長である泉さんのインタビューも是非ご覧ください。

明石市,養育費だけでなくて子育て支援政策が充実しているみたいですね。

本当に素晴らしい。

2020年4月以降,勤め先を探し出して給料を差し押さえできるようにできることと相まって,この事業がうまくいき,全国に広がるといいなと思います。

養育費基準改正のまとめ

・養育費の新基準は旧基準より値上げ,多くは月額1〜2万円の増額

・ただし旧基準で合意済の場合は新基準が出たというだけでは変更難しい

・何か客観的な事情で養育費を変更する場合んは新基準ベースで

・成人年齢18になっても基本的には20歳まで支払うべきと考えられている

・明石市は,既に行なっている保証会社が養育費を立て替えるというパイロット事業を更に進めて養育費立替方針を示している。

・2020年4月以降は勤め先を探し出して差し押さえをする逃げ得を許さない民事執行法の改正がある

養育費は子供の養育にとって本当に大切なものです。

シングルマザーの7割が養育費を受け取っていないともいわれる現状は異常であり社会問題以外の何者でもないでしょう。せめて7割以上のシングルマザーやシングルファザーが養育費を最後まできちんと受け取れるようになるといいですね。

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小島 紗理 弁護士
弁護士法人 エース
パラリーガル小島 紗理