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法律豆知識

誹謗中傷は犯罪です。もちろんインターネット上でも

 女子プロレスラーの木村花さんが2020年5月23日にお亡くなりになりました。22歳という若さだそうです。死因を含めた真相はまだ不明のところもありますが、インターネット上では誹謗中傷が一因ではないかとされ、芸能人の方々がTwitter等のSNSを通じ、誹謗中傷に対する意見表明をなさっています。
 少し前には、KARA元メンバーのク・ハラさんも28歳の若さでお亡くなりになりました。こちらも詳細はわかりませんが、SNS上での誹謗中傷が起因しているのではないかとされています。元AKB48のタレント兼実業家の川崎希さんも誹謗中傷に悩まされ、法的手段をとられたと先日発表していました。

 こうした悲しいニュースを受け、弁護士として自分に何ができるだろうと考えた時、「インターネット活動は犯罪になりうる」とお伝えするだけではなく、倫理観をもったインターネット活動の必要性を今一度お伝えしたい思い、今回このコラムを書くことにしました。私見も多分に含まれていますが、最後までお読みいただければ嬉しいです。

インターネットの普及による多大なるメリット

 少し前までは、インターネットで意見表明をすることは容易ではありませんでした…というよりは、皆消極的だったと思います。どちらかといえば、インターネットは、「意見表明の場」というよりは「情報収集の場」であり、一部の企業や著名人という「発信者」から一方通行の情報や意見の発信がなされ、私たちはそれを「情報」として受け取る「受け手」の立場でした。

 しかし、次第にTwitterやブログ等のSNSツールが進歩し、私たちは単なる情報の「受け手」から、情報の「発信者」になることが容易になりました。発信することに対するハードルが劇的に下がったのです。そうした時代の変化を示すように人気ブロガー、人気YouTuberが出現し、インフルエンサーと呼ばれる方々も出てきました。
お子さんのなりたい職業の第1位がアイドルから人気YouTuberに変化するほどに、インターネットが自己の表現活動の場であるという考えは世の中に浸透してきました。

 インターネットを用いて情報を受信することも発信することもできるようになると、これまで以上に多くの情報がインターネット上に存在することになり、生活の利便性も質も格段に上昇しました。たとえば、おなかがすいたとき、インターネットを用いて、お店を検索します。これまでも当然検索によって近くのお店を探すことはできていました。しかし、今ではそれにプラスで、口コミまで見ることができるようになりました。口コミを見れば皆がおいしいというお店を探すことができ、おいしいご飯を食べることができます。Amazonで何かを買うときも、書籍を買うときも、映画を見るときも…私たちは多くの意見を参考にすることができるようになったわけです。外れクジを引く場面が減ったんですね。

 とても便利です。

 しかし、そうした利便性とは裏腹にインターネットには多くの危険が潜んでいます。
 誰かを傷つけ、ひいては命まで奪いかねない危険がそこにはあります。

面と向かって誹謗中傷をしないのはなぜ。

 ここで、インターネットという媒体を一旦度外視して一般社会、Face to Faceの社会で考えてみましょう。みなさんご存じのように誹謗中傷は、犯罪です。脅迫罪や名誉毀損罪、侮辱罪等に問われる可能性があります。

刑法第222条(脅迫)
1 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
2  親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。

刑法第230条(名誉毀損)
1 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

刑法第231条(侮辱)
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

 法律を勉強したことのない方でもこれらの罪については、聞いたことがあると思います。
 誹謗中傷はその内容によって脅迫罪にも名誉毀損罪にも侮辱罪にもなりえるのです。

 もちろんこうした刑事手続きの他にも民事事件として損害賠償請求をされる可能性があります。

 こうした法律が先か、あるいは倫理観が先か…通常は倫理観が先行し、それにあわせる形で法律が作成されたのだと思います。そして、この倫理観(あるいはそれに基づいて作成された法律)に従って行動する結果、私たちは、面と向かって他人に対し、誹謗中傷をすることはそう多くないと思います。例えば、「死ねよ」「生きている価値ないよ」「消えろ」「殺す」等の発言をおふざけの場ではないところで直接誰かに言う機会はそう多くないでしょう(もちろん、おふざけなら許されるといういう意味ではありません。)。

 これはなぜですか?と尋ねたら皆さんはどのようにお答えになりますか。

 相手が傷つくから、自分がされて嫌なことは人にしちゃいけないと思うから、犯罪だからといったところでしょうか。
もっと踏み込んだ回答としては、「そんな事をいう人だと周りに思われたくないから」、「ひどいことを言って皆に嫌われたくないから」というのもあるかもしれませんね。

 いずれにせよ「誹謗中傷はしてはいけないこと」という倫理観は皆さんの中にあると思います。

インターネットで外れるタガの正体

 Face to Faceの世界でこうした倫理観というタガを持ち合わせている人が(同一人物が!!)、行っているはずのTwitterやInstagram等のSNSでは絶えず喧嘩が起こっています。

 最近では「#さよなら安倍総理」「#さよなら福島みずほ」などというハッシュタグをつけた投稿を議員さんが行い、それを受けた一部の一般市民の方が誹謗中傷のコメントにこのハッシュタグを添えて投稿をし、次第に政治の本筋と外れた投稿まで行われ、Twitter上で誹謗中傷合戦が繰り広げられています。
 芸能人がブログ等に料理をアップロードすれば、それに対して「手抜きだ」「子どもの栄養考えてるのか」「まずそう」などのコメントが殺到します。お笑い芸人のスマイリーキクチさんは、過去のある殺人事件の犯人(関係者)だと言うデマをインターネット上に流され、誹謗中傷や脅迫を受け続けていました。

 こんなことがFace to Faceの世界で起こりえますか。
 会社の社長に対して「さよなら社長」といきなりお伝えしますか。
 あなたの知人の誰が食卓のお写真を見せてくれたとき「手抜きだね」「まずそうだね」などと言いますか。
 見ず知らずの人に対して、事実に反し「お前あの殺人事件の犯人だろ」などと言いますか。「あいつ人殺しだから」なんて噂を流しますか。

 言いませんよね。

 Face to Faceの世界で誹謗中傷をストップさせているタガ(倫理観)が、インターネットの世界になると途端に外れてしまうのは何故でしょうか。明確な答えはわかりません。これだ!という正解はないかもしれません。しかしながら大きな原因となっているのは「匿名性」ではないでしょうか。

匿名性

 先ほどFace to Faceの世界で誹謗中傷がなぜ少ないのかという問いに対する答えとして、相手が傷つくから、自分がされて嫌なことは人にしちゃいけないと思うから、犯罪だからという答えを挙げました。
 本当にこれだけであれば、インターネット上の誹謗中傷も存在しないでしょう。本当にそう思っている方は、インターネット上でも誹謗中傷はなさらない方だと思います。

 では、その後に挙げた理由である「そんな事をいう人だと周りに思われたくないから」、「ひどいことを言って皆に嫌われたくないから」という点はいかがでしょうか。

 インターネットの世界は匿名で情報の発信を行うことができます。要するに「あの人あんなこと言う人なんだね、ひどい」と指さされることがないのです。誰に「死ね」と言おうが「あなたの作ったご飯まずそうだね」と言おうか「おまえ殺人事件の犯人だろ」と言おうが、それを言っているのがあなただということが、一見すると誰にもわからないのです。
 そして、わからないのならば、誰に何を言っても、自分の評価を下げることはありませんから、言いたい放題になるわけです。

 そもそも他人を攻撃する方の心理というのは、他人に影響を与えたいという自己顕示欲だったり、攻撃されるまえに他人を攻撃しておこうという自己防衛本能だったりするようですが、少なくともインターネット上では自己防衛本能というよりは、自己顕示欲が強く影響していそうですよね。

 インターネットの普及によって、色々な情報が発信できるようになると、いくら情報を発信しても自分が発信した情報は、その他の情報の中に埋もれていきます。その中で、エッジの効いた発言をすれば、誰かが自分の意見に目をとめてくれる、自分が存在していることを実感することができる、と考えるようです。年功序列から実力社会に変化していく中で、現実世界で自然淘汰されかねない自分の存在をなんとか「あるもの」として残すためにすがるような思いでインターネットで発信をしているのかもしれません。

 そしてその発信は「匿名性」という防護服で守られているのです。
 そう考えると多少の過激発言の真意は理解できる気がします(決して許されることではありません。)

 もちろん法律上、その匿名性はいとも簡単に丸裸になるわけで、そういうお話は別のコラムで記載させていただいているので、そちらをお読みください。
意気揚揚と身にまとっている匿名性という防護服はいとも簡単に脱がされてしまいますよ、というお話です。

どうすればいいのか

 これまで、インターネット上での誹謗中傷の実態とその背景について考察してきました。それでは私たちはどうすればいいのでしょうか。

被害者に対する理解

 匿名性に守られて(いる気になって)、言いたい放題をしている状態について、相手にするな、放っておけ、相手にするから調子にのるんだ等というのは簡単です。
 でも言われている方の身になってみましょう。
 本当は1人が何人にもなりすまして書き込んでいるかもしれないのにも拘わらず、受け手としては不特定「多数」に非難されているような気持ちになります(実際は、ほんの数%の方の書き込みのようです)。自分の行動がこんなにも世間に否定されてしまうのか、よかれと思ってした行動がこんなにも批判されてしまうのか、止まらない「多数」による誹謗中傷…
 心身ともに疲弊してしまいます。それを放っておけ、相手にするなというのはあまりにもかわいそう過ぎます。

 直接何かを言われた場合には、私は「○○さんに嫌われているんだな」と認識することができます。あるいは、同じ「殺すぞ」という言葉でも本気なのか、ふざけているのかは直接ならばわかります。もちろん直接誹謗中傷されるということもとても辛い出来事なのですが、インターネットでの誹謗中傷は誰に言われているのか、何人に言われているのか、どんなテンションで言われているのか、全くわからないのです。

 自分の味方はいないんだ、自分は皆に嫌われているんだ、自分の居場所なんてないんだ…そんな心理状態になってしまうことも十分にありうると思いませんか。

 インターネット上での誹謗中傷は、Face to Faceの誹謗中傷よりもある意味残酷です。

 今回の木村さんの件に限らず、芸能人の方に対する誹謗中傷については、「テレビに出ているから仕方がない」「傷つくくらいならでるな」などの反論があるようです。
 芸能人の方も人間です。テレビに出ていると、傷つかない心を手に入れることができると思っているのでしょうか。仮に不快に感じたとしても、それをご本人に直接お伝えする意味がどこにあるのでしょう。傷つける意味がどこにあるのでしょうか。芸能人の方々と私たちは、テレビ等のメディアに出ているか、そうではないかの違いであって、傷つけて良い人とそうではない人という違いはありません。そもそも傷つけていい人間などいません。

加害者側の心理

 他方で加害者側は、匿名性に守られた気になって、お相手がどんなに傷ついていてもその様子を見ることはありませんし、自分以外の方も同様の書き込みをされていることがわかると、そのお相手が命をおとされたとしても、自分のせいじゃない、と殺した意識すらもたないのです。

 リモートによる行動がゆえに、自分が行った行動の重さを認識することができないのです。

法の不備

 現在、匿名性のインターネットでの発言を罰するためには警察による発信者情報開示か、裁判所で発信者情報開示請求の手続きをする必要があります。
 実際、権利侵害性のある書き込みに対しては、誰が書いたのか一般の方が思っている以上に簡単に丸裸にすることができますが、手間はかかります。また、専門的な分野なので、取り扱っている弁護士も限られていますし、弁護士に依頼すれば(通常、依頼が必要でしょう。)費用もかかります。
 ようやく加害者本人にたどり着いたとて、損害賠償請求をした結果、金銭的な解決で終了…傷ついた心はいえません。

 私たちの行動を制御している倫理観というものは、長い歴史の中で醸成されてきた賜物です。しかし、あまりにもすごい勢いで時代が変化しているがゆえに、この時代の流れに倫理観が追いつかず、倫理観が醸成されていないがために法による規制も追いついていません。

 通常は確立した倫理観に基づいて法律を作成するという流れなのでしょうけれども、インターネット犯罪に対しては、それでは遅すぎます。倫理観の醸成を待っていると、その間にもより多くの犠牲者が出てしまいます。そうした事態を防ぐためには、法による刑罰規定を強化し、倫理観を鍛えていくという通常とは逆の流れをとるべきなのではないかと思います。

 例えば、インターネット上での誹謗中傷に対する刑罰を通常よりも重くする、あるいは、損害賠償として支払うべき金額の相場をより高くする等です。

 現在匿名性のある書き込みから個人を特定する手続きは、多くの場合、発信者情報開示請求の手続きによる必要があります。これはプロバイダー責任制限法という法律にもとづいて行われる手続きなのですが、現在、より簡易に発信者情報を取得することができるようにするためにこの法律の見直し(法改正)が検討されているようです。

 この法改正が一刻も早く実現し、より容易に個人の特定が可能となる社会、そしてそれによって、インターネット上での発言の重みを皆が認識する社会、そういう倫理観が醸成される社会、その実現を願ってやみません。

 そして私自身、単にその実現を願うだけではなく、少しでも皆さんにインターネット上での誹謗中傷が犯罪であることをおわかりいただけるよう、情報発信を続けていこうと思います。

 お亡くなりになった木村花さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。

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鹿野 舞 弁護士
弁護士法人 エース
代表弁護士鹿野 舞
所属弁護士会第一東京弁護士会