故人が所有していた自動車の相続手続きは、不動産や預貯金と比べて見落とされがちですが、放置すると税金や保険の問題が生じます。相続した自動車は、そのまま使用する、売却する、廃車にするいずれの場合も、まず相続人への名義変更が必要です。
本記事では、運輸支局での手続き方法から必要書類、費用まで、自動車相続の流れを詳しく解説します。手続きを怠った場合のリスクや、複数の相続人がいる場合の対処法についても説明します。
なお、相続の基本から具体的な手続きまで徹底解説した相続総合ガイドでは、相続手続き全体の流れについて詳しく解説しています。
目次
1. 自動車相続の基本知識と手続きの概要
自動車も相続財産の一つで、所有者が亡くなると相続人に承継されます。車検証の名義変更は法的義務ではありませんが、そのままでは売却や廃車ができず、自動車税の納税義務も故人名義のまま残ります。手続きは管轄の運輸支局で行い、相続人が確定してから15日以内が目安です。普通自動車と軽自動車では手続き先が異なり、必要書類も若干違うため注意が必要です。
1-1. 自動車相続で必要な手続きの種類
自動車を相続した際に必要となる手続きは、今後の使用方法により異なります。基本となるのは相続による名義変更(移転登録)で、これを完了させてから次の手続きに進みます。
主な手続きの流れ
- 相続による名義変更(移転登録)- すべての基本
- 継続使用する場合:自動車保険の名義変更、車庫証明の取得(必要な場合)
- 売却する場合:買取査定、譲渡手続き
- 廃車にする場合:一時抹消登録または永久抹消登録
車検が切れている場合は、仮ナンバーを取得して運輸支局まで運ぶ必要があります。仮ナンバーは市区町村役場で申請でき、最長5日間使用可能です。
1-2. 手続きを怠った場合のリスク
自動車の名義変更を怠ると、以下のような問題が発生します。
法的・経済的リスク
- 自動車税の納税通知書が故人宛に届き続け、相続人に納税義務が発生
- 任意保険の適用に問題が生じ、事故時に補償を受けられない可能性
- 売却や廃車ができず、維持費だけがかかり続ける
- 車検切れのまま使用すると、無車検運行で罰則対象(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)
実務上の問題
- 駐車違反などの通知が故人宛に届く
- リコール通知などの重要な連絡が届かない
- 相続人が複数いる場合、後の手続きがさらに複雑化
1-3. 普通自動車と軽自動車の違い
普通自動車と軽自動車では、手続きの場所や必要書類が異なります。
項目 | 普通自動車 | 軽自動車 |
---|---|---|
手続き場所 | 運輸支局または自動車検査登録事務所 | 軽自動車検査協会 |
必要な印鑑 | 実印(印鑑証明書も必要) | 認印で可(印鑑証明書不要) |
手数料 | 移転登録500円、ナンバー変更約1,500円 | 無料(ナンバー変更は約1,500円) |
車庫証明 | 必要(一部地域を除く) | 地域により必要(東京23区など) |
軽自動車の方が手続きは簡素ですが、基本的な流れは同じです。どちらも平日の受付時間内に手続きする必要があります。
2. 相続による名義変更の必要書類
自動車の相続手続きには、相続関係を証明する書類と自動車関連の書類が必要です。基本的には、被相続人の戸籍謄本、相続人の戸籍謄本・印鑑証明書、遺産分割協議書(単独相続の場合)、車検証、車庫証明書などです。相続人が複数いる場合や、査定額が100万円を超える場合は追加書類が必要となります。書類の有効期限にも注意が必要で、発行から3か月以内のものを求められることが多いです。
2-1. 相続関係の証明書類
相続による名義変更では、相続関係を証明する以下の書類が必要です。
基本的に必要な書類
単独相続の場合の追加書類
- 遺産分割協議書(相続人全員の署名・実印)
- 相続人全員の印鑑証明書(発行から3か月以内)
その他のケース
- 遺言書がある場合:遺言書(検認済み)と遺言執行者の印鑑証明書
- 相続放棄者がいる場合:相続放棄申述受理証明書
- 法定相続情報一覧図がある場合:戸籍謄本の代わりとして使用可能
2-2. 自動車関連の必要書類
自動車特有の書類も準備する必要があります。
必須書類
- 自動車検査証(車検証)原本
- 自動車保管場所証明書(車庫証明)※新所有者の住所地で必要な場合
- 自動車税納税証明書(最新のもの)
車庫証明について
- 警察署で申請(申請手数料約2,000円、交付手数料約500円)
- 自宅から2km以内に駐車場を確保
- 申請から交付まで3〜7日程度
- 発行から40日以内のものが有効
注意事項
- ナンバープレートは管轄が変わる場合のみ変更
- 車検証の住所と被相続人の最終住所が異なる場合は、住民票の除票や戸籍の附票が必要
2-3. 査定額による必要書類の違い
自動車の査定額により、手続きの簡略化が可能です。
査定額100万円以下の場合
遺産分割協議成立申立書を使用することで、以下のメリットがあります:
- 相続人の一人が単独で手続き可能
- 他の相続人の印鑑証明書が不要
- 手続きが大幅に簡素化
査定額の確認方法
- 日本自動車査定協会で査定証明書を取得(手数料5,000〜7,000円)
- 中古車買取業者の無料査定を利用
- インターネットの相場検索サイトを参考
申立書の記載内容
- 査定額が100万円以下であることの申告
- 遺産分割協議が成立し、申請者が相続することの申立て
- 相続人全員の署名は不要(申請者のみ)
3. 運輸支局での具体的な手続きの流れ
運輸支局での手続きは、①必要書類の準備、②申請書類の作成、③窓口での申請、④新しい車検証の交付という流れです。平日の午前中は混雑することが多く、手続きには1〜2時間程度かかります。手数料は移転登録で500円、ナンバー変更がある場合は追加で1,500円程度必要です。車庫証明は事前に警察署で取得しておく必要があり、申請から交付まで3〜7日かかります。
3-1. 事前準備と車庫証明の取得
運輸支局に行く前に、しっかりと準備を整えておくことが重要です。
車庫証明の取得手順
- 管轄の警察署で申請書類を入手(警察署HPからダウンロードも可)
- 必要事項を記入し、駐車場の図面を作成
- 賃貸駐車場の場合は、管理者の使用承諾書を取得
- 申請手数料(約2,000円)を支払い申請
- 3〜7日後に交付手数料(約500円)を支払い受領
車庫証明が不要な地域
- 人口10万人未満の市町村の一部
- 軽自動車は多くの地域で不要(東京23区、大阪市などは必要)
3-2. 運輸支局での申請手順
運輸支局での手続きは以下の流れで進みます。
当日の手続き
1. 用紙の入手と記入
- 移転登録申請書(OCRシート)
- 手数料納付書
- 自動車税申告書
2. 印紙の購入と貼付
- 移転登録手数料500円の印紙を購入
- 手数料納付書に貼付
3. 窓口での申請
- 必要書類一式を提出
- 不備があれば指摘を受け、修正
- 問題なければ番号札を受け取り待機
4. 新車検証の交付
- 通常30分〜1時間程度で交付
- 内容を確認し、誤りがないかチェック
ナンバー変更が必要な場合
- 古いナンバープレートを返納
- 新しいナンバープレートを購入(約1,500円)
- 封印(普通自動車のみ)の取り付け
3-3. 手続き完了後の確認事項
名義変更が完了したら、関連する手続きも忘れずに行います。
必須の手続き
- 自動車保険(任意保険)の名義変更
・保険会社に連絡し、契約者変更
・等級の引き継ぎ可否を確認
・補償内容の見直しも検討 - 自賠責保険の名義変更
・保険会社の窓口で手続き
・車検証と印鑑を持参
その他の確認事項
- ETCカードの名義変更または新規申込み
- 自動車税の納付先変更(自動的に変更される)
- 定期点検記録簿への記載
- スペアキーの確認
これらの手続きを含めて、すべて完了して初めて自動車の相続手続きが終わったと言えます。
4. 売却・廃車を選択する場合の手続き
相続した自動車を使用しない場合、売却または廃車を選択することになります。いずれの場合も、一旦相続人名義に変更してから手続きを行うのが原則です。売却の場合は買取業者に依頼すれば手続きを代行してもらえることが多く、廃車の場合は一時抹消登録または永久抹消登録を選択します。手続きを放置すると自動車税が課税され続けるため、早めの決断が重要です。
4-1. 売却時の手続きと必要書類
自動車を売却する場合、以下の手順で進めます。
売却手続きの流れ
- 相続による名義変更を完了
- 買取業者で査定を受ける(複数社で比較推奨)
- 売却先を決定し、必要書類を準備
- 売買契約を締結し、車両を引き渡し
売却時の必要書類
- 自動車検査証(名義変更済みのもの)
- 印鑑証明書(発行から3か月以内)
- 委任状・譲渡証明書(買取業者が用意)
- 自賠責保険証明書
- 自動車税納税証明書
- リサイクル券
多くの買取業者では、相続手続きから売却まで一括で代行するサービスを提供しています。手数料はかかりますが、手間を大幅に削減できます。
4-2. 廃車手続きの種類と選び方
廃車には2つの方法があり、状況に応じて選択します。
種類 | 特徴 | 手数料 |
---|---|---|
一時抹消登録 | ・一時的に使用を中止し、ナンバープレートを返納 ・再登録すれば再び使用可能 ・自動車税の課税が停止 |
350円 |
永久抹消登録 | ・自動車を解体し、二度と使用しない場合 ・解体証明書が必要 ・重量税の還付あり(車検残存期間に応じて) |
無料 |
廃車買取業者の活用
- 不動車でも無料引き取り可能な場合が多い
- レッカー代無料のサービスもあり
- 解体費用を負担してくれることも
4-3. 手続きせずに放置した場合の問題
自動車を相続後、手続きせずに放置すると以下の問題が発生します。
経済的損失
- 毎年4月1日時点の所有者に自動車税が課税(故人名義でも相続人に納税義務)
- 自賠責保険料の無駄(返戻可能な期間を逃す)
- 駐車場代の継続的な支出
- 車両価値の低下(年式が古くなり売却額が下がる)
法的リスク
- 自動車税の滞納による延滞金
- 放置車両として撤去される可能性
- 事故や犯罪に使用された場合の責任問題
使用予定がない場合は、早めに売却か廃車の手続きを進めることが賢明です。
5. 複数相続人がいる場合の対処法
相続人が複数いる場合、自動車を誰が相続するか遺産分割協議で決定する必要があります。共同相続のまま放置すると、売却や廃車の際に全員の同意が必要となり手続きが煩雑になります。査定額が100万円以下なら遺産分割協議成立申立書で簡略化できますが、高額車の場合は正式な遺産分割協議書が必要です。トラブルを避けるため、早めに話し合いを行いましょう。
5-1. 遺産分割協議での決定事項
自動車に関する遺産分割協議では、以下の点を明確にする必要があります。
協議すべき内容
- 誰が自動車を相続するか
- 維持費(駐車場代、保険料、税金)の負担者
- 売却する場合の代金分配方法
- 使用者と所有者を分ける場合の取り決め
協議のポイント
- 実際に使用する人が相続するのが合理的
- 売却して代金を分配する選択肢も検討
- 維持費を考慮した現実的な判断
- 感情論ではなく実用性を重視
5-2. 共有名義のリスクと解消方法
自動車の共有名義は、実務上多くの問題を引き起こします。
共有名義のデメリット
- 売却時に共有者全員の印鑑証明書が必要
- 車検や修理の意思決定が困難
- 事故時の責任関係が複雑
- 任意保険の契約が難しい
解消方法
- 特定の相続人の単独名義に変更
- 売却して代金を法定相続分で分配
- 一人が買い取り、他の相続人に代償金を支払う
実用性を考えれば、早期に単独名義にすることが望ましいです。
6. まとめ:自動車相続を確実に進めるために
自動車の相続手続きは、継続使用、売却、廃車のいずれを選択する場合も、まず相続人への名義変更が必要です。普通自動車は運輸支局、軽自動車は軽自動車検査協会で手続きを行い、必要書類を揃えれば即日完了します。
査定額100万円以下の自動車なら、遺産分割協議成立申立書により手続きを簡略化できます。手続きを放置すると、自動車税の課税や保険の問題が生じるため、相続後は速やかに対応しましょう。
相続人が複数いる場合は、早めに協議を行い、単独名義にすることをお勧めします。自動車は維持費もかかるため、使用予定がなければ売却や廃車も検討してください。
自動車の相続は、手続きが明確で比較的短期間で完了します。放置せずに早めに対応することが大切です。