長年連れ添ったパートナーがいても、婚姻届を出していない内縁関係では法的な相続権がありません。「一緒に築いた財産なのに、自分が先に逝ったらパートナーには何も残せないの?」そんな不安を抱える内縁カップルは少なくありません。

実は、内縁関係でも適切な対策を取れば、大切なパートナーに財産を残すことができます。本記事では、内縁関係の法的な位置づけを整理し、遺言書や生前贈与、生命保険など、パートナーに確実に財産を残すための具体的な方法を詳しく解説します。

二人の絆を法的に守る方法を一緒に考えていきましょう。

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あなたの状況はどれに当てはまりますか?

内縁関係での相続対策は、状況によって優先順位が異なります。以下からあなたの現状を確認してください。

□ 長年連れ添っているが婚姻届は出していない
→ まずは法的な位置づけを理解してから対策方法を検討

□ パートナーに確実に財産を残したい
遺言書による遺贈が最も確実です

□ 親族との関係が心配
遺留分対策をしっかり検討しましょう

□ 今すぐできる対策を知りたい
必要書類の準備から始めましょう


1. 内縁関係と法律婚の違い:相続における決定的な差

内縁関係は、どんなに長く一緒に暮らしていても法的には配偶者ではないため、相続権がありません。これは日本の相続制度が法律婚を前提としているためです。しかし、内縁関係でも財産分与請求権や一部の社会保障は認められており、完全に無権利ではありません。この章では、内縁関係の法的地位を正確に理解し、相続において何ができて何ができないのかを明確にします。まず現状を正しく認識することが、適切な対策の第一歩となります。

1-1. 内縁関係には相続権がない理由

日本の民法では、相続人は「配偶者」と「血族」に限定されています。ここでいう「配偶者」とは、婚姻届を提出した法律上の夫婦のみを指します。

法的根拠

  • 民法第890条:配偶者は常に相続人となる
  • 「配偶者」=婚姻届を提出した者のみ
  • 内縁関係は「事実上の夫婦」でも法的には他人

最高裁判所も一貫して、内縁関係に相続権を認めていません。これは法的安定性と明確性を重視した結果です。

重要:どんなに長く一緒に暮らしていても、婚姻届を出していない限り法定相続人にはなれません。

1-2. 内縁関係でも認められる権利と認められない権利

内縁関係でも、長年の判例により一定の権利は認められています。

認められる権利

  • 財産分与請求権(関係解消時)
  • 遺族年金の受給権(要件を満たす場合)
  • 賃借権の承継(公営住宅など)
  • 慰謝料請求権(不当な関係破棄)

認められない権利

  • 法定相続権
  • 配偶者控除(税制上)
  • 配偶者居住権
  • 成年後見の申立権

この違いを理解することで、どこに対策が必要かが見えてきます。

1-3. 事実婚と内縁関係の違いを理解する

「事実婚」と「内縁関係」は、法的には同じ意味で使われます。しかし、社会的な認知度には違いがあります。

住民票での証明方法

  • 「妻(未届)」「夫(未届)」と記載可能
  • 同一世帯として登録
  • 続柄欄で関係性を明示

公的証明の重要性

  • 遺族年金申請時の証明書類
  • 生命保険の受取人指定
  • 賃貸借契約の同居人証明

こうした証明は、後の手続きで重要な役割を果たします。

相続の基本的な仕組みについては、相続手続きの全体像を解説した総合ガイドでも詳しく説明しています。


2. 内縁パートナーに財産を残す5つの方法

内縁パートナーに財産を残すには、法的な手続きが必要です。最も確実なのは遺言書による遺贈で、公正証書遺言なら効力も安心です。生前贈与は計画的に行えば税負担を抑えられ、生命保険は受取人指定により確実に渡せます。この章では、それぞれの方法のメリット・デメリット、具体的な手続き、注意点を詳しく解説します。複数の方法を組み合わせることで、より確実にパートナーの生活を守ることができます。

2-1. 遺言書による遺贈:最も確実な方法

遺言書で内縁パートナーに財産を遺贈することが、最も確実な方法です。

遺贈の基本

  • 相続人以外の人に財産を残す方法
  • 「遺贈する」という明確な文言が必要
  • 特定遺贈(特定の財産)と包括遺贈(割合指定)

公正証書遺言を推奨する理由

  1. 公証人が作成するため無効になりにくい
  2. 原本が公証役場に保管される
  3. 家庭裁判所の検認が不要

遺言書の文例

第○条 遺言者は、遺言者の有する下記の財産を、
内縁の妻○○○○(昭和○年○月○日生)に遺贈する。

2-2. 生前贈与:計画的な財産移転

生前に計画的に財産を贈与することで、確実に財産を渡せます。

贈与税の基礎控除活用

  • 年間110万円まで非課税
  • 毎年継続して贈与可能
  • 贈与契約書の作成が重要

不動産の生前贈与

  • 贈与契約書の作成
  • 所有権移転登記
  • 不動産取得税・登録免許税に注意

注意点

  • 定期贈与と認定されないよう工夫
  • 贈与の都度、契約書作成
  • 振込記録を残す
  • 贈与税の申告(110万円超の場合)

2-3. 生命保険の活用:受取人指定で確実に

生命保険は相続財産に含まれないため、確実に渡せる方法です。

内縁パートナーを受取人にする条件

  • 保険会社により対応が異なる
  • 同居期間や生計同一の証明が必要
  • 住民票の「未届の妻(夫)」記載が有効

必要書類の例

  • 住民票(続柄記載あり)
  • 同居期間を証明する書類
  • 生計同一の証明書

2-4. 死因贈与契約:生前の約束

死因贈与は、贈与者の死亡によって効力が生じる契約です。

メリット

  • 双方の合意で成立
  • 公正証書にすれば確実性向上
  • 受贈者の同意があるため安心

デメリット

  • 撤回される可能性
  • 相続人との紛争リスク
  • 登記手続きが複雑

2-5. 共有名義での財産取得

生前に共有名義で財産を取得する方法もあります。

不動産の共有

  • 持分割合を明確に
  • 共同でローンを組む場合の注意点
  • 将来の相続を見据えた持分設定

預金口座

  • 共同名義口座は作れない
  • それぞれの名義で管理
  • 生活費口座の工夫
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3. 遺言書作成の実践ガイド:内縁カップル向け

内縁パートナーへの相続では、遺言書の作成が最重要です。特に公正証書遺言は、法的効力が確実で、後日のトラブルを防げます。遺言書には財産の特定と遺贈の意思を明確に記載し、なぜ内縁パートナーに残したいのかという想いも付言事項で伝えることが大切です。また、法定相続人の遺留分に配慮することで、円満な相続を実現できます。この章では、実際の文例を示しながら、トラブルを防ぐ遺言書の作成方法を具体的に指導します。

3-1. 公正証書遺言が推奨される3つの理由

内縁関係では、特に公正証書遺言の作成を強く推奨します。

理由1:法的効力の確実性

  • 公証人が内容を確認
  • 形式不備による無効リスクなし
  • 証人2名の立会いで信頼性向上

理由2:紛失・改ざんリスクの回避

  • 原本は公証役場で保管
  • 謄本・正本の再発行可能
  • 遺言書の存在を検索可能

理由3:相続人からの無効主張への対抗力

  • 作成時の意思能力を公証人が確認
  • 本人確認が厳格
  • 録音・録画による記録も可能

3-2. 遺言書に書くべき内容と文例

内縁パートナーへの遺贈を確実にする記載方法を紹介します。

基本的な遺贈条項の文例

第1条 遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、
内縁の妻○○○○(昭和○年○月○日生、
住所:○○県○○市○○町○丁目○番○号)に遺贈する。

第2条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として、
下記の者を指定する。
[遺言執行者の住所・氏名・生年月日]

付言事項の文例

私と○○は、平成○年から○年間、夫婦同然の生活を
送ってきました。法律上の夫婦ではありませんが、
苦楽を共にし、支え合ってきた大切なパートナーです。
残された○○が困らないよう、全財産を遺贈します。
相続人の皆様には、私の意思を尊重していただくよう
お願いいたします。

3-3. 遺留分対策:親族との調整方法

法定相続人がいる場合、遺留分への配慮が必要です。

遺留分の基本

  • 配偶者・子・直系尊属に認められる
  • 遺留分割合は法定相続分の1/2(直系尊属のみは1/3)
  • 兄弟姉妹には遺留分なし

対策方法

1. 事前の話し合い
  • 内縁関係の説明
  • 遺言の意図を伝える
  • 理解を求める
2. 遺留分を考慮した遺言
  • 法定相続人に一定額を残す
  • 遺留分相当額の現金準備
  • 生命保険の活用
3. 遺言執行者の指定
  • 中立的な専門家を指定
  • 円滑な手続きの実現
  • トラブル時の対応

遺言書の作成方法については、公正証書遺言と自筆証書遺言の比較解説でさらに詳しく説明しています。


4. 生前対策と死後の手続き:実務的なアドバイス

内縁関係では、生前の準備と死後の手続きの両方に配慮が必要です。共同生活の証明書類を整備しておくことで、各種手続きがスムーズになります。財産管理では、将来を見据えた名義の選択が重要で、共有名義には一長一短があります。また、葬儀や死後の諸手続きについても、死後事務委任契約で内縁パートナーに権限を与えることができます。この章では、実務的な観点から、内縁カップルが今すぐ始められる具体的な対策を提案します。

4-1. 共同生活の証明:必要書類の準備

内縁関係を証明する書類は、様々な場面で必要になります。

重要な証明書類

1. 住民票
  • 「妻(未届)」「夫(未届)」の記載
  • 同一世帯での登録
  • 定期的に取得し保管
2. 賃貸借契約書
  • 連名での契約
  • 同居人としての記載
  • 更新時の書類も保管
3. 公共料金の領収書
  • 長期間の同居を証明
  • 両名の名前が記載されたもの
  • 最低3年分は保管

その他の証明方法

4-2. 財産管理の工夫:共有名義と単独名義

財産の名義は、将来を見据えて慎重に決める必要があります。

不動産の名義

名義形態 メリット デメリット
単独名義 管理が簡単 名義人死亡時に相続権なし
共有名義 持分は確保 処分に両者の同意必要

預金口座の管理

  • 生活費口座:どちらかの名義
  • 貯蓄口座:それぞれの名義で管理
  • 緊急時用:両者がキャッシュカードを保有

実務上の工夫

  • 重要な財産はリスト化
  • 通帳・印鑑の保管場所を共有
  • パスワード管理の方法

4-3. 葬儀・埋葬の権利と死後事務委任契約

内縁パートナーには、葬儀の喪主となる法的権利がありません。

死後事務委任契約でできること

  • 葬儀・埋葬に関する事務
  • 医療費・入院費の支払い
  • 行政官庁への諸届出
  • 遺品整理

契約書の主な内容

  1. 委任事項の明確化
  2. 費用の負担方法
  3. 報酬の有無
  4. 契約の効力発生時期

公正証書にするメリット

  • 確実な執行
  • 親族からの異議に対抗
  • 金融機関での手続き円滑化

身寄りのない方の終活については、死後事務委任契約の詳しい解説もご参照ください。


5. Q&A:内縁関係の相続でよくある質問

内縁関係の相続については、多くの疑問や不安があります。遺族年金は要件を満たせば受給可能ですが、証明書類の準備が重要です。内縁パートナーの連れ子への財産承継も、適切な方法を選べば可能です。同性カップルの場合は、パートナーシップ制度の活用も検討できます。この章では、実際によく寄せられる質問に対して、具体的で実践的な回答を提供します。個別の事情に応じた最適な解決策を見つける手がかりとなるでしょう。

Q1. 内縁関係でも遺族年金はもらえる?

A. はい、一定の要件を満たせば受給可能です。

遺族年金の受給要件
  • 生計維持関係があったこと
  • 事実上の夫婦として共同生活
  • 住民票の記載や同居の事実
必要な証明書類
  • 住民票(未届の記載)
  • 民生委員の証明書
  • 第三者の証明書(2名以上)
  • 同居期間を証明する書類
申請のポイント
  • 死亡後速やかに申請
  • 書類は事前に準備
  • 年金事務所で事前相談

Q2. 内縁パートナーの連れ子への相続は?

A. 連れ子も法的には他人ですが、対策は可能です。

財産を残す方法

1.遺言書での遺贈
  • パートナーと同様に遺贈
  • 具体的な財産を指定
2.養子縁組
  • 法的な親子関係を作る
  • 相続権が発生
3.生前贈与
  • 教育資金贈与の活用
  • 暦年贈与の計画的実施

Q3. 同性カップルの場合の注意点は?

A. 基本的には異性の内縁関係と同じ扱いです。

パートナーシップ制度の活用
  • 一部自治体で利用可能
  • 公的な関係証明
  • 相続権は発生しない
特有の配慮事項
  • 理解ある公証人の選択
  • 親族への説明方法
  • 遺言書での明確な意思表示

Q4. 特別縁故者として財産分与を受けられる?

A. 可能性はありますが、確実ではありません。

特別縁故者の要件
  • 相続人が存在しない場合のみ
  • 被相続人と特別の縁故があった
  • 家庭裁判所への申立てが必要
認められやすいケース
  • 長期間の同居と介護
  • 生計を同一にしていた
  • 療養看護に努めた

Q5. 内縁関係の解消時の財産分与は?

A. 判例により認められています。

財産分与の対象
  • 共同生活中に形成した財産
  • 実質的な貢献度で判断
  • 法律婚に準じた扱い

離婚や再婚が絡む相続については、離婚後の相続権に関する解説もご覧ください。

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まとめ:愛する人の未来を守るために

内縁関係には法的な相続権がないという現実は、確かに厳しいものです。しかし、適切な対策を取ることで、大切なパートナーに財産を残すことは十分可能です。

重要なポイントのおさらい

1. 遺言書の作成が最優先
  • 公正証書遺言で確実性を高める
  • 遺留分に配慮した内容にする
  • 付言事項で想いを伝える
2. 複数の方法を組み合わせる
  • 生前贈与で段階的に財産移転
  • 生命保険で確実な保障
  • 死後事務委任契約で手続きを委任
3. 生前の準備が大切
  • 内縁関係の証明書類を整備
  • 財産の名義を適切に管理
  • 家族や親族への説明

今すぐできる行動チェックリスト

内縁関係は、法律婚とは異なる形の愛情と信頼で結ばれた関係です。その絆を守るために、今からできることを一つずつ実行していきましょう。専門家への相談も含め、二人にとって最適な方法を見つけてください。

愛する人の未来を守ることは、今を大切に生きることにもつながります。

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竹内 省吾
竹内 省吾
弁護士
慶應大学法学部卒。相続・不動産分野のスペシャリスト弁護士。常時50社以上の顧問・企業法務対応や税理士(通知)としての業務対応の経験を活かし、相続問題に対して、多角的・分野横断的なアドバイスに定評がある。生前時から相続を見越した相続税対策や事業承継にも対応。著書・取材記事多数。
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