養子縁組は、血縁関係がなくても法的な親子関係を作る制度です。相続においても養子は実子と同じ権利を持ちますが、「本当に実子と同じ扱いなの?」「相続税で不利になることはない?」といった疑問を持つ方は多いでしょう。

また、養親側も「養子の数に制限があると聞いたけど」「実子がいる場合といない場合で違うの?」と不安になることがあります。

本記事では、養子縁組が相続に与える影響について、民法と相続税法の両面から詳しく解説します。養子も養親も安心できる相続の知識を身につけましょう。

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あなたの状況はどれに当てはまりますか?

養子縁組と相続に関するご相談は、立場によって異なります。以下からあなたの状況を確認してください。

□ 養子として相続権について知りたい
養子の相続権を確認して安心してください

□ 養子縁組を相続対策として検討している
相続税法の人数制限注意点を理解しましょう

□ 孫や連れ子の養子縁組を考えている
パターン別シミュレーションで具体的なイメージを

□ 手続き方法を知りたい
普通養子縁組の手続きをチェック


1. 養子の相続権:実子とまったく同じ扱いです

養子縁組により法的な親子関係が成立すると、養子は実子とまったく同じ相続権を持ちます。法定相続分も遺留分も、実子と養子で区別されることはありません。普通養子縁組では実親からの相続権も維持されるため、養親と実親の両方から相続できる可能性があります。この章では、民法における養子の相続上の地位を明確にし、実子との比較で不安に思われがちな点を解消します。養子であることを理由に相続で不利になることはないという安心感を提供します。

1-1. 民法上の養子の地位と相続分

民法において、養子は実子と完全に同等の法的地位を持ちます。

養子の相続における基本原則

  • 第一順位の相続人として相続権を持つ
  • 法定相続分は実子と同じ
  • 相続順位も実子と同じ扱い

具体的な相続分の計算例

例1:配偶者、実子2人、養子1人の場合
  • 配偶者:1/2
  • 実子A:1/6
  • 実子B:1/6
  • 養子C:1/6
例2:配偶者なし、実子1人、養子2人の場合
  • 実子:1/3
  • 養子A:1/3
  • 養子B:1/3
重要:相続分の計算において実子と養子の区別はありません。すべて「子」として平等に扱われます。

1-2. 普通養子縁組と特別養子縁組の違い

養子縁組には2種類あり、相続への影響が異なります。

普通養子縁組の特徴

  • 実親との親子関係は継続
  • 養親と実親の両方から相続可能
  • 成人でも養子縁組可能
  • 市区町村への届出で成立

特別養子縁組の特徴

  • 実親との親子関係は終了
  • 養親からのみ相続
  • 原則6歳未満の子が対象
  • 家庭裁判所の審判が必要

相続における違い

項目 普通養子 特別養子
養親からの相続 あり あり
実親からの相続 あり なし
養親の親族との関係 親族関係あり 親族関係あり
実親の親族との関係 親族関係継続 親族関係終了

1-3. 養子の遺留分も実子と同じ

養子にも実子と同じ割合の遺留分が保障されています。

遺留分の基本

  • 養子の遺留分割合:法定相続分の1/2
  • 実子と完全に同じ計算方法
  • 遺言でも侵害できない最低限の権利

遺留分侵害額請求の例

遺産総額4,000万円、相続人が配偶者と養子1人の場合

  • 養子の法定相続分:2,000万円(1/2)
  • 養子の遺留分:1,000万円(法定相続分の1/2)
  • 遺言で養子に0円の場合:1,000万円の請求可能

養子も実子と同様に、遺留分侵害額請求により権利を守れます。

相続の基本的な仕組みについては、相続手続きの全体像を解説した総合ガイドでも詳しく説明しています。


2. 相続税法上の養子の取り扱い:人数制限の真実

相続税法では、基礎控除の計算において養子の人数に制限を設けています。これは節税目的の養子縁組を防ぐためで、実子がいる場合は1人、いない場合は2人までしか法定相続人に含められません。ただし、これは相続税計算上の話で、民法上の相続権には影響しません。また、配偶者の連れ子や代襲相続人となる孫など、制限を受けない例外もあります。この章では、複雑な相続税法の規定を具体例を交えて分かりやすく解説し、養子縁組を検討する際の判断材料を提供します。

2-1. なぜ相続税法では養子の数に制限があるのか

相続税法における養子の人数制限は、租税回避防止が目的です。

制限がない場合の問題

  • 基礎控除を無制限に増やせる
  • 相続税の累進税率を下げられる
  • 不自然な養子縁組の増加

基礎控除の計算式

基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
例:養子を10人にした場合(制限なしと仮定)
  • 基礎控除:3,000万円 + 600万円 × 11人 = 9,600万円
  • これでは課税の公平性が保てません

2-2. 実子がいる場合は1人、いない場合は2人まで

相続税法第15条第2項で明確に規定されています。

人数制限のルール

1. 実子がいる場合
  • 法定相続人に含める養子:1人まで
  • 2人以上いても1人として計算
2. 実子がいない場合
  • 法定相続人に含める養子:2人まで
  • 3人以上いても2人として計算

具体的な計算例

例1:配偶者、実子1人、養子3人の場合
  • 民法上の相続人:5人(全員が相続)
  • 相続税法上の法定相続人:3人(養子は1人のみ)
  • 基礎控除:3,000万円 + 600万円 × 3 = 4,800万円
例2:配偶者、養子4人の場合(実子なし)
  • 民法上の相続人:5人(全員が相続)
  • 相続税法上の法定相続人:3人(養子は2人のみ)
  • 基礎控除:3,000万円 + 600万円 × 3 = 4,800万円

2-3. 養子でも制限を受けない特例ケース

すべての養子が人数制限を受けるわけではありません。

制限を受けない養子

1. 配偶者の連れ子を養子にした場合
  • 再婚家庭での家族一体化
  • 実子と同じ扱い
2. 代襲相続人である孫を養子にした場合
  • 子が先に死亡している
  • 本来の代襲相続人
3. 特別養子縁組による養子
  • 実親との関係が終了
  • 実子により近い関係
4. 配偶者の特別養子
  • 配偶者が特別養子縁組していた子

これらの場合は、何人いても全員を法定相続人数に含められます。

再婚家庭の相続については、前妻・前夫との子どもの相続権に関する解説で詳しく説明しています。

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3. 養子縁組のパターン別相続シミュレーション

養子縁組には様々なパターンがあり、それぞれ相続における扱いが異なります。孫養子は代襲相続人でない限り相続税が2割加算されますが、一代飛ばしで財産を承継できるメリットがあります。再婚相手の連れ子は、養子縁組により家族として法的に一体となれます。この章では、実際によくある養子縁組のパターンごとに、相続分の計算、税金の扱い、注意点を具体的にシミュレーションします。あなたの状況に近いケースを参考に、最適な選択ができるよう支援します。

3-1. 孫を養子にした場合の相続と税金

孫養子は相続対策としてよく利用されますが、注意点もあります。

メリット

  • 一代飛ばしで財産承継
  • 相続税の課税を1回スキップ
  • 教育資金などを直接承継

デメリット

  • 相続税2割加算の対象(代襲相続人を除く)
  • 親(被相続人の子)との関係性
  • 他の相続人との公平性

具体的なシミュレーション

遺産総額1億円、相続人が配偶者、子2人、孫養子1人の場合

1.法定相続分
  • 配偶者:5,000万円
  • 子A:1,666万円
  • 子B:1,666万円
  • 孫養子:1,666万円
2.相続税計算(基礎控除後)
  • 孫養子の相続税は2割加算
  • 通常100万円→120万円に

孫への財産承継については、孫に遺産を残す方法と注意点の詳細解説もご覧ください。

3-2. 再婚相手の連れ子を養子にした場合

再婚家庭では、連れ子との養子縁組が家族の一体化に重要です。

養子縁組のメリット

  • 前婚の子と同等の相続権
  • 家族としての法的一体性
  • 相続税法上も実子扱い(人数制限なし)

具体的なケース

Aさん(再婚)の家族構成

  • 現配偶者Bさん
  • 前婚の子2人
  • Bさんの連れ子1人(養子縁組済み)

Aさんの相続発生時:

  • 全員が同等の相続権
  • 子は各1/6ずつ相続
  • 連れ子も実子と同じ扱い

養子縁組しない場合との比較

  • 養子縁組なし:連れ子は相続権なし
  • 養子縁組あり:実子と同等の権利

3-3. 成人を養子にした場合の注意点

成人養子縁組は相続税対策として利用されることがありますが、リスクもあります。

税務署から否認されるリスク

  • 養子縁組の実態がない
  • 明らかな租税回避目的
  • 形式的な縁組と判断される

適正な養子縁組の要件

  • 真実の親子関係の意思
  • 共同生活の実態
  • 扶養関係の存在
  • 相続税対策以外の理由
  • 家族としての交流

実例:否認されやすいケース

  • 相続直前の養子縁組
  • 養子との交流がない
  • 高齢者同士の養子縁組
  • 経済的利益のみが目的

適切な養子縁組であれば、成人でも問題ありません。


4. 養子縁組の手続きと相続対策への活用

養子縁組は、適切に活用すれば有効な相続対策となりますが、慎重な検討が必要です。普通養子縁組は比較的簡単な手続きで成立しますが、未成年者の場合は家庭裁判所の許可が必要です。相続対策として養子縁組を検討する際は、税務上のメリットだけでなく、家族関係への影響も考慮すべきです。この章では、養子縁組の具体的な手続き方法と、遺言や生前贈与と組み合わせた総合的な相続対策を提案します。形式的でない、真の家族関係を築きながら相続対策を進める方法を学びます。

4-1. 普通養子縁組の手続きガイド

普通養子縁組は、市区町村への届出により成立します。

成人同士の養子縁組

  1. 養子縁組届の記入
  2. 証人2名の署名(成年者)
  3. 本籍地または住所地の市区町村へ提出
  4. 即日成立

必要書類

未成年者を養子にする場合

  1. 家庭裁判所へ許可申立て
  2. 審理(1〜2か月)
  3. 許可審判
  4. 市区町村へ届出

家庭裁判所が確認する事項

  • 養子の福祉に適うか
  • 養親の資質
  • 実親の同意(15歳未満)

4-2. 養子縁組を相続対策に活用する際の注意点

相続対策としての養子縁組は、慎重に進める必要があります。

考慮すべきポイント

1. 家族関係への影響
  • 他の相続人の感情
  • 家族間のバランス
  • 将来の関係性
2. 法的リスク
  • 税務署からの否認
  • 養子縁組の無効主張
  • 相続紛争の火種
3. 実質的な親子関係
  • 扶養の意思
  • 生活の共同性
  • 精神的つながり

トラブル防止のための配慮

  • 家族全員での話し合い
  • 養子縁組の理由の明確化
  • 専門家のアドバイス

4-3. 養子縁組と遺言・生前贈与の組み合わせ

養子縁組だけでなく、他の相続対策と組み合わせることが重要です。

総合的な相続対策

1. 養子縁組+遺言書
  • 養子への配分を明確化
  • 付言事項で想いを伝える
  • 他の相続人への配慮
2. 養子縁組+生前贈与
  • 教育資金の非課税贈与
  • 住宅取得資金の贈与
  • 暦年贈与の活用
3. 養子縁組+生命保険
  • 養子を受取人に指定
  • 相続税の非課税枠活用
  • 納税資金の確保

実例:バランスの取れた対策

・長男:自宅不動産を相続
・次男:預貯金を相続
・孫養子:教育資金贈与+生命保険
・配偶者:遺言で老後資金確保

遺言書の作成方法については、公正証書遺言と自筆証書遺言の比較解説もご参照ください。


5. Q&A:養子縁組と相続のよくある疑問

養子縁組と相続については、様々な疑問や特殊なケースがあります。離縁した場合の相続権の消滅、養子の代襲相続、国際養子縁組など、実務で問題となりやすい点について、具体的な回答を提供します。この章では、よくある質問に対して法律の原則と実務上の取り扱いを明確に示し、将来起こりうる様々な状況に備えられるようにします。養子縁組をした方もこれから検討する方も、不安なく相続に臨めるよう、幅広い知識を提供します。

Q1. 養子縁組を解消(離縁)したら相続権はどうなる?

A. 離縁により養親子関係は終了し、相続権も消滅します。

離縁の方法
  1. 協議離縁:双方の合意で成立
  2. 調停離縁:家庭裁判所での調停
  3. 審判離縁:裁判所の審判
離縁後の相続
  • 離縁成立後は相続権なし
  • 離縁前に発生した相続は影響なし
  • 代襲相続権も消滅
特別養子縁組の場合
  • 原則として離縁不可
  • 例外的な事情がある場合のみ
  • 実親との関係は復活しない

Q2. 養子が養親より先に亡くなった場合の代襲相続

A. 養子の子も代襲相続人になります。

代襲相続の要件
  • 養子が養親より先に死亡
  • 養子に子(養親の孫)がいる
  • 欠格・廃除でないこと
具体例
養親A
└─養子B(死亡)
   └─Bの子C(Aの孫)

Aの相続時:Cが代襲相続人
注意点
  • 養子縁組前に生まれた子も対象
  • 実子の場合と同じ扱い
  • 相続分も同じ計算

Q3. 外国人を養子にした場合の相続

A. 国際養子縁組でも日本法が適用される場合が多いです。

準拠法の決定
  • 養子縁組:養親の本国法
  • 相続:被相続人の本国法
  • 日本在住なら日本法適用
必要な追加書類
  • 外国の戸籍に相当する書類
  • 翻訳文(日本語)
  • アポスティーユ認証
税務上の注意
  • 国外財産の申告
  • 外国税額控除
  • 租税条約の確認

Q4. 養子の配偶者や子に相続権はある?

A. 養子の配偶者には相続権はありませんが、状況により異なります。

相続権の有無
  • 養子の配偶者:相続権なし
  • 養子の子:代襲相続の可能性あり
  • 養子の親:養子に子がいなければ相続人

Q5. 複数の養親がいる場合はどうなる?

A. 普通養子は複数の養親から相続可能です。

可能なケース
  • 実親からの相続
  • 養親からの相続
  • 再度養子縁組した場合

離婚が絡む相続については、離婚後の相続権に関する解説も参考になります。

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まとめ:養子縁組で広がる家族の絆と相続

養子縁組と相続の関係について、重要なポイントを整理します。

押さえておくべき基本原則

1. 民法上は実子と完全に同等
  • 法定相続分に差はない
  • 遺留分も同じ割合
  • 代襲相続も可能
2. 相続税法上の人数制限
  • 実子あり:養子1人まで
  • 実子なし:養子2人まで
  • 連れ子養子などは例外
3. 様々な活用パターン
  • 孫養子で一代飛ばし
  • 連れ子養子で家族一体化
  • 成人養子は慎重に

今すぐ確認すべきこと

養子縁組は、新しい家族の絆を法的に認める素晴らしい制度です。相続においても、養子が不利になることはありません。むしろ、適切に活用すれば、家族全員が幸せになれる相続を実現できます。

大切なのは、節税だけを目的とするのではなく、真の家族関係を築くことです。養子も養親も、お互いを思いやる気持ちがあれば、相続は「争族」ではなく「想族」になります。

専門家のアドバイスも受けながら、あなたの家族に最適な形を見つけてください。

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竹内 省吾
竹内 省吾
弁護士
慶應大学法学部卒。相続・不動産分野のスペシャリスト弁護士。常時50社以上の顧問・企業法務対応や税理士(通知)としての業務対応の経験を活かし、相続問題に対して、多角的・分野横断的なアドバイスに定評がある。生前時から相続を見越した相続税対策や事業承継にも対応。著書・取材記事多数。
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