大切な家族を亡くされた悲しみの中、さまざまな手続きに追われることは、精神的にも肉体的にも大きな負担となります。しかし、法律で定められた期限がある手続きも多く、適切に対応しないとペナルティや不利益を被る可能性があります。

本記事では、相続開始後に必要な手続きを時系列順に整理し、期限別のチェックリストとともに解説します。何から手をつければよいか分からない方も、この記事を参考に一つずつ確実に手続きを進めていきましょう。

なお、相続の基本知識から具体的な手続きまで網羅的に解説した総合ガイドでは、相続手続き全体の詳細についても詳しく解説しています。

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期限別・緊急度別チェックリスト

まずは全体像を把握しましょう。以下のチェックリストで、いつまでに何をすべきかを確認してください。

【7日以内の最優先事項】
【その他の期限付き手続き】
相続開始後の手続きタイムライン:死亡日から1年以内までの期限別手続きを時系列で解説した図。7日以内の緊急手続きから10ヶ月以内の相続税申告まで、各手続きの期限と注意点を一覧化
相続開始後の手続きタイムライン:各手続きの期限と重要度を色分けで表示
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1. 相続開始直後(7日以内)に必要な緊急手続き

家族が亡くなった直後は、悲しみに暮れる間もなく緊急性の高い手続きが必要です。死亡届の提出(7日以内)、火葬許可申請、健康保険・介護保険の資格喪失届など、期限が短い手続きから優先的に対応します。葬儀社が代行できる手続きもありますが、市区町村役場での手続きは遺族が行う必要があります。この時期は手続きに追われますが、後の相続手続きの基礎となる重要な期間です。

1-1. 死亡届の提出と火葬許可申請

死亡届は、死亡の事実を知った日から7日以内(国外で死亡した場合は3か月以内)に市区町村役場へ提出しなければなりません。この手続きを怠ると、5万円以下の過料に処される可能性があります。

死亡届提出の手順

  1. 医師から死亡診断書(死体検案書)を受け取る
  2. 死亡届の左側部分に必要事項を記入
  3. 届出人の印鑑を用意(認印で可)
  4. 市区町村役場の戸籍課に提出

届出人になれる人

  • 親族
  • 同居者
  • 家主、地主、家屋管理人
  • 公設所の長
重要ポイント:実際の提出は葬儀社が代行することも多いですが、届出人の署名・押印は本人が行う必要があります。

同時に火葬許可申請も行います。火葬許可証がないと火葬ができないため、葬儀の日程に影響します。通常は死亡届と同時に申請し、即日交付されます。

1-2. 健康保険・年金の手続き

故人が加入していた健康保険の種類により、手続きの期限と窓口が異なります。期限を過ぎると保険料の追徴や給付金の返還を求められることがあるため、注意が必要です。

健康保険の資格喪失手続き

保険の種類 手続き期限 手続き窓口 必要書類
国民健康保険 14日以内 市区町村役場 保険証、死亡届のコピー、印鑑
後期高齢者医療 14日以内 市区町村役場 保険証、死亡届のコピー、印鑑
協会けんぽ 5日以内 勤務先または年金事務所 保険証、死亡証明書
健康保険組合 5日以内 勤務先または健保組合 保険証、死亡証明書

年金の手続き

年金受給者が亡くなった場合、速やかに年金事務所に連絡し、年金受給権者死亡届を提出します。手続きが遅れると、過払い分の返還を求められます。

ポイント:未支給年金(死亡月分まで)の請求も忘れずに行いましょう。請求できるのは、生計を同じくしていた配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹などです。

1-3. 公共料金・各種契約の名義変更または解約

日常生活に関わる各種契約も、早めに整理する必要があります。特に自動引き落としになっているものは、口座が凍結される前に手続きを行いましょう。

主な手続き対象

  • 電気・ガス・水道(名義変更または解約)
  • 固定電話・携帯電話(解約または承継)
  • インターネット・ケーブルテレビ
  • 新聞・定期購読物
  • クレジットカード(解約)
  • 各種会員権・サブスクリプション

これらの手続きには、それぞれ死亡証明書や戸籍謄本などが必要になることがあります。まとめて複数枚用意しておくと効率的です。

注意:故人が一人暮らしだった場合は、電気・ガス・水道を早急に止めないと、基本料金が発生し続けます。また、賃貸住宅の場合は、家賃の支払いや退去手続きも必要となります。

2. 14日~1か月以内に行うべき重要手続き

葬儀が終わり少し落ち着いた頃に、相続の準備として重要な手続きを進めます。世帯主変更届(14日以内)、相続人の確定作業、遺言書の有無の確認、金融機関への連絡などがこの時期の主な作業です。特に預貯金口座は死亡の連絡により凍結されるため、当面の生活費の確保も考慮しながら計画的に進める必要があります。この段階での準備が、後の遺産分割協議をスムーズに進める鍵となります。

2-1. 世帯主変更届と各種名義変更

故人が世帯主だった場合、残された世帯員の中から新しい世帯主を決め、14日以内に市区町村役場に世帯主変更届を提出する必要があります。

世帯主変更が必要なケース

  • 故人が世帯主で、15歳以上の世帯員が2人以上いる場合

世帯主変更が不要なケース

  • 残された世帯員が1人だけの場合(自動的に世帯主となる)
  • 残された世帯員が15歳未満の子供だけの場合

世帯主変更届の提出時には、本人確認書類と印鑑が必要です。代理人が手続きする場合は委任状も必要となります。

この時期に合わせて行う名義変更

  • 公共料金の契約者名義
  • 固定資産税の納税義務者(翌年から)
  • 自動車保険・火災保険の契約者名義
  • 町内会・自治会の登録

2-2. 相続人調査と戸籍謄本の収集

相続手続きを進めるには、まず法定相続人を確定させる必要があります。これには故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本が必要となります。

戸籍謄本収集の手順

  1. 故人の最後の本籍地で死亡記載のある戸籍謄本を取得
  2. その戸籍から一つ前の本籍地を確認し、転籍前の戸籍を取得
  3. 出生まで遡って連続した戸籍を収集
  4. 各相続人の現在の戸籍謄本も取得

戸籍謄本取得の費用

  • 戸籍謄本:1通450円
  • 除籍謄本・改製原戸籍:1通750円

本籍地が遠方の場合は、郵送請求も可能です。郵送の場合は、請求書、手数料分の定額小為替、返信用封筒、本人確認書類のコピーを同封します。

注意が必要なケース:

  • 転籍を繰り返している場合
  • 戦災で戸籍が焼失している場合
  • 養子縁組や認知がある場合

相続人確定後は、円満な遺産分割を実現するための進め方と注意点を検討することになります。

2-3. 遺言書の確認と検認手続き

遺言書の有無は、その後の相続手続きに大きく影響します。以下の場所を確認し、遺言書を探しましょう。

遺言書の保管場所

  • 自宅(金庫、仏壇、書斎、寝室など)
  • 銀行の貸金庫
  • 公証役場(公正証書遺言の場合)
  • 法務局(自筆証書遺言書保管制度利用の場合)
  • 信頼していた友人や専門家
絶対に守るべきルール:自筆証書遺言を発見した場合、絶対に開封してはいけません。家庭裁判所の検認手続きを経る必要があります。勝手に開封すると5万円以下の過料に処される可能性があります。

検認手続きの流れ

  1. 家庭裁判所に検認申立書を提出
  2. 相続人全員に検認期日の通知
  3. 検認期日に遺言書を開封・確認
  4. 検認済証明書の交付

検認には1〜2か月程度かかるため、早めに手続きを開始することが重要です。なお、公正証書遺言と法務局保管の自筆証書遺言は検認不要です。


3. 3か月以内の重要な判断:相続放棄の検討

相続開始を知った日から3か月以内に、相続を承認するか放棄するかを決定しなければなりません。この期間を熟慮期間といい、相続財産の調査を行い、プラスの財産とマイナスの財産(借金)を把握します。借金が多い場合は相続放棄を、財産状況が不明な場合は限定承認を検討します。期限を過ぎると単純承認したものとみなされ、借金も含めてすべて相続することになるため、慎重な判断が必要です。

3-1. 相続財産の調査方法

相続するか放棄するかの判断には、財産の全容を把握することが不可欠です。プラスの財産だけでなく、マイナスの財産(借金・保証債務)も漏れなく調査しましょう。

プラスの財産の調査

財産の種類 調査方法 必要書類
不動産 法務局で登記簿謄本取得、市役所で名寄帳確認 死亡証明書、相続人の身分証明書
預貯金 各金融機関に残高証明書を請求 死亡証明書、戸籍謄本、印鑑証明書
株式・投資信託 証券会社に照会、株主名簿の確認 死亡証明書、戸籍謄本
生命保険 保険会社に照会、保険証券の確認 死亡証明書、受取人の身分証明書

マイナスの財産の調査

  • 住宅ローン、自動車ローン、カードローン
  • クレジットカードの未払い残高
  • 税金の滞納(固定資産税、住民税など)
  • 保証債務(連帯保証人になっているもの)

借金の全容を把握するため、信用情報機関(CIC、JICC、全国銀行協会)に信用情報の開示請求を行うことも有効です。

3-2. 相続放棄・限定承認の手続き

財産調査の結果、マイナスの財産が多い場合は相続放棄を検討します。相続放棄の詳しい手続き方法とメリット・デメリットについては別記事で詳しく解説していますが、基本的な流れは以下の通りです。

相続放棄の手続き

  1. 家庭裁判所に相続放棄申述書を提出
  2. 必要書類:申述書、戸籍謄本、収入印紙800円、切手
  3. 家庭裁判所からの照会に回答
  4. 相続放棄申述受理証明書の交付

限定承認は、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ方法です。ただし、相続人全員で行う必要があり、手続きも複雑なため、実際に利用されるケースは多くありません。

注意すべき行為(単純承認とみなされる)

  • 相続財産の処分(売却、贈与など)
  • 預貯金の解約・使用
  • 遺産分割協議への参加

これらの行為を行うと、相続を承認したとみなされ、後から相続放棄ができなくなります。

3-3. 熟慮期間の延長申請

3か月の熟慮期間内に相続財産の調査が完了しない場合は、家庭裁判所に期間延長を申請できます。

延長が認められやすいケース

  • 相続財産が複数の地域に分散している
  • 海外に財産がある
  • 相続人が多数で調査に時間がかかる
  • 故人が事業を営んでいて財産関係が複雑

延長申請は、熟慮期間内に行う必要があります。通常は3か月程度の延長が認められますが、事情によってはさらなる延長も可能です。


4. 4か月以内:準確定申告の手続き

故人が確定申告義務者だった場合、相続人は相続開始を知った日の翌日から4か月以内に準確定申告を行う必要があります。これは故人の死亡年の1月1日から死亡日までの所得について申告するものです。給与所得者でも医療費控除などで還付を受けられる場合があります。申告は相続人全員の連名で行い、還付金がある場合は相続財産として扱われます。期限を過ぎると延滞税などのペナルティが課される可能性があります。

4-1. 準確定申告が必要なケース

準確定申告は、すべての相続で必要というわけではありません。以下に該当する場合は申告が必要です。

申告が必要な主なケース

  • 個人事業主(不動産賃貸業、農業なども含む)
  • 給与が2,000万円を超えていた
  • 給与を2か所以上から受けていた
  • 公的年金等の収入が400万円を超えていた
  • 株式や不動産の譲渡所得があった
  • 生命保険の一時金や満期金を受け取っていた

申告により還付を受けられるケース

  • 医療費が多額にかかっていた(医療費控除)
  • 年の途中で退職し、年末調整を受けていない
  • 災害や盗難にあった(雑損控除)
  • 寄附をしていた(寄附金控除)

還付申告の場合は義務ではありませんが、還付金は相続財産となるため、申告することをお勧めします。

4-2. 必要書類と申告方法

準確定申告に必要な書類は、通常の確定申告とほぼ同じですが、相続人に関する書類が追加で必要となります。

主な必要書類

  • 確定申告書(「準確定」と記載)
  • 給与所得の源泉徴収票
  • 公的年金等の源泉徴収票
  • 医療費の領収書(医療費控除を受ける場合)
  • 生命保険料控除証明書
  • 地震保険料控除証明書
  • 死亡診断書のコピー
  • 相続人全員の印鑑

申告書の作成と提出

  1. 申告書の氏名欄に「被相続人○○」と記載
  2. 相続人が複数の場合は、付表「死亡した者の所得税の確定申告書付表」を添付
  3. 相続人全員の連署または各人が個別に申告
  4. 故人の死亡時の住所地を管轄する税務署に提出

電子申告(e-Tax)も利用可能ですが、相続人全員の電子証明書が必要となるため、書面での提出が一般的です。

4-3. 還付金の取り扱い

準確定申告により還付金が発生した場合、その取り扱いには注意が必要です。

還付金に関する注意点

  • 還付金は相続財産に含まれる
  • 相続人が複数いる場合は、法定相続分または遺産分割協議により配分
  • 還付金の受取口座は相続人代表者の口座を指定
  • 還付までに1〜2か月程度かかる

還付金の配分方法は、準確定申告書の付表に記載します。後日のトラブルを避けるため、事前に相続人間で配分方法を協議しておくことが重要です。


5. 10か月以内:相続税申告と納税

相続税の申告と納税は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。相続財産が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超える場合に申告義務が生じます。期限内に遺産分割が完了していない場合でも、法定相続分で仮計算して申告する必要があります。延納や物納の制度もありますが、要件が厳しいため、納税資金の準備も含めて計画的に進めることが重要です。

5-1. 相続税申告の要否判定

まず、相続税の申告が必要かどうかを判定します。相続税の詳しい計算方法と申告手続きの解説については別記事で詳しく解説していますが、基本的な流れは以下の通りです。

基礎控除額の計算例

  • 法定相続人が配偶者と子2人の場合:
    3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
  • 法定相続人が子3人の場合:
    3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円

相続財産の評価

財産の種類 評価方法 評価額の目安
土地(宅地) 路線価方式または倍率方式 時価の80%程度
建物 固定資産税評価額 時価の70%程度
上場株式 死亡日の終値等 市場価格
預貯金 死亡日の残高 額面通り

相続財産の総額から債務・葬式費用を控除し、相続開始前3年以内の贈与財産を加算した金額が、基礎控除額を超える場合は申告が必要です。

5-2. 遺産分割協議と申告の関係

相続税の申告期限までに遺産分割協議が完了していない場合でも、申告・納税の義務は免除されません。このような場合の対応方法を理解しておくことが重要です。

未分割で申告する場合の注意点

  1. 法定相続分で仮計算して申告
  2. 小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減は適用不可
  3. 「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付
  4. 分割確定後に修正申告または更正の請求

特に配偶者の税額軽減(1億6,000万円または法定相続分まで非課税)や小規模宅地等の特例(居住用宅地は330㎡まで80%減額)は、節税効果が大きいため、できる限り期限内に分割を完了させることが望ましいです。

ただし、相続人間で意見が対立している場合は、無理に急いで不利な分割をするよりも、未分割で申告し、じっくりと協議を進める方が良い場合もあります。

5-3. 納税資金の準備と特例の活用

相続税は原則として現金一括納付です。不動産が相続財産の大部分を占める場合、納税資金の確保が課題となります。

納税資金確保の方法

  1. 相続財産の一部売却
  2. 延納制度の利用(要件あり)
  3. 物納制度の利用(要件あり)
  4. 金融機関からの借入

主な特例制度

小規模宅地等の特例
自宅の土地は330㎡まで80%減額
配偶者の税額軽減
配偶者は1億6,000万円まで非課税
未成年者控除
20歳までの年数×10万円を控除
障害者控除
85歳までの年数×10万円(特別障害者は20万円)を控除

これらの特例を最大限活用することで、相続税の負担を大幅に軽減できる可能性があります。ただし、適用要件が複雑なため、早めに税理士に相談することをお勧めします。


6. まとめ:期限を守って着実に手続きを進めよう

相続開始後の手続きは、期限が定められているものが多く、計画的に進めることが重要です。まず7日以内の死亡届から始まり、3か月以内の相続放棄の判断、4か月以内の準確定申告、10か月以内の相続税申告と、段階的に重要な期限が設定されています。

期限別チェックリスト(まとめ)

期限 手続き内容 ペナルティ
7日以内 死亡届の提出 5万円以下の過料
14日以内 国民健康保険の資格喪失届、世帯主変更届 保険料の追徴等
3か月以内 相続放棄・限定承認の申述 単純承認とみなされる
4か月以内 準確定申告 延滞税、加算税
10か月以内 相続税申告・納税 延滞税、加算税

悲しみの中での手続きは精神的に辛いものですが、期限を守らないとペナルティや不利益を被る可能性があります。本記事のチェックリストを活用し、一つずつ確実に手続きを進めていきましょう。手続きが複雑で対応が困難な場合は、早めに専門家に相談することをお勧めします。

相続手続きは故人の財産を適切に承継し、残された家族の生活を守るための大切なプロセスです。焦らず、しかし着実に、必要な手続きを完了させていきましょう。

この大変な時期を乗り越えた先に、新たな一歩を踏み出すことができるはずです。

相続手続きを確実に進めるために
期限のある手続きを見逃さず、適切に相続を進めるために、専門家のサポートを受けることをおすすめします。初回相談は無料です。
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竹内 省吾
竹内 省吾
弁護士
慶應大学法学部卒。相続・不動産分野のスペシャリスト弁護士。常時50社以上の顧問・企業法務対応や税理士(通知)としての業務対応の経験を活かし、相続問題に対して、多角的・分野横断的なアドバイスに定評がある。生前時から相続を見越した相続税対策や事業承継にも対応。著書・取材記事多数。
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