故人が株式や投資信託を保有していた場合、証券口座の相続手続きが必要となります。証券会社への連絡から名義変更、そして相続後の運用や売却まで、どのように進めればよいか迷う方も多いでしょう。

本記事では、上場株式・投資信託の相続手続きの流れを詳しく解説します。必要書類の準備から証券会社での手続き、相続税評価の方法、さらに相続後の売却タイミングや税金についても説明しますので、適切な判断の参考にしてください。

なお、相続の基本から具体的な手続きまで徹底解説した相続総合ガイドでは、相続手続き全体の流れについて詳しく解説しています。

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1. 株式・証券相続の基本知識と手続きの流れ

株式や投資信託も相続財産として相続人に承継されます。証券口座は預金口座と異なり自動的に凍結されませんが、名義変更をしないと売却や配当金の受け取りができません。手続きは証券会社の相続専門部署で行い、必要書類を提出してから2〜4週間程度で完了します。複数の証券会社に口座がある場合は、それぞれで手続きが必要です。相続税評価は死亡日の終値等を基準に計算されます。

1-1. 証券口座の相続で必要な手続き

証券口座の相続手続きは、以下の流れで進みます。

基本的な手続きの流れ

  1. 証券会社への相続発生の連絡
  2. 相続手続きの案内と必要書類の確認
  3. 相続人代表者の口座開設(必要な場合)
  4. 必要書類の提出
  5. 被相続人口座から相続人口座への株式等の移管
  6. 移管完了後、売却や継続保有の選択

株式や投資信託は現物のまま相続人の口座に移管されます。売却は移管完了後でないとできません。特定口座で保有していた場合、同じ証券会社であれば特定口座の引き継ぎも可能で、取得価額も承継されます。

1-2. 上場株式と投資信託の違い

相続手続きの基本は同じですが、商品特性により以下の違いがあります。

項目 上場株式 投資信託
取引場所 証券取引所で売買 運用会社で設定・解約
価格 リアルタイムで変動 1日1回基準価額算出
取引単位 100株単位(単元株) 1円単位で購入可能
収益 配当金・株主優待 分配金

ETF(上場投資信託)

  • 株式と同様に市場で売買可能
  • 投資信託の特徴も併せ持つ
  • 相続手続きは上場株式と同様

外国株式や外国投資信託の場合は、為替リスクも考慮する必要があります。

1-3. 証券会社による手続きの違い

証券会社により手続きの方法や期間が異なります。

大手対面証券会社(野村、大和、SMBC日興など)

  • 相続センターで専門スタッフが対応
  • 担当者による手続きサポート
  • 必要書類の事前確認が可能
  • 手続き期間:2〜3週間

ネット証券(SBI、楽天、マネックスなど)

  • コールセンターへの電話連絡後、書類郵送
  • オンラインでの手続き状況確認
  • 手数料が安い
  • 手続き期間:3〜4週間

その他の留意点

  • 相続人も同じ証券会社に口座開設が必要な場合が多い
  • NISA口座は相続できない(一般口座での受け入れ)
  • 信用取引の建玉は速やかに決済が必要

2. 証券相続に必要な書類と準備

証券口座の相続には、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、遺産分割協議書または遺言書、印鑑証明書などが必要です。証券会社により相続手続依頼書などの独自書類もあります。特定口座を引き継ぐ場合は、相続人も同じ証券会社に口座開設が必要です。株式の銘柄や数量は、取引残高報告書や特定口座年間取引報告書で確認できます。事前に必要書類を確認し、効率的に準備を進めましょう。

2-1. 基本的な必要書類一覧

証券会社での相続手続きに必要な書類は以下の通りです。

相続関係書類

証券会社指定書類

  • 相続手続依頼書(証券会社所定)
  • 株式等移管依頼書
  • 特定口座開設届出書(引き継ぐ場合)
  • 相続人代表者の届出書

その他

  • 法定相続情報一覧図(戸籍謄本の代替として使用可能)
  • 相続関係説明図
  • 委任状(代理人が手続きする場合)

複数の証券会社で手続きする場合は、原本還付により書類を使い回すことができます。

2-2. 保有株式・投資信託の確認方法

故人がどの証券会社にどんな株式等を保有していたか、以下の方法で確認します。

確認方法

1. 取引残高報告書の確認
  • 年2回(6月・12月)郵送される
  • 保有銘柄と数量が記載
2. 特定口座年間取引報告書
  • 毎年1月に前年分が送付
  • 売買履歴と年末保有残高
3. 配当金・分配金の振込先
  • 通帳の入金履歴から推測
  • 配当金計算書の保管確認
4. 証券保管振替機構への照会
  • 上場株式の名義人情報を一括照会
  • 手数料6,050円(税込)

ネット証券の場合

  • ログインID・パスワードが分かれば直接確認可能
  • 不明な場合は相続人として開示請求

2-3. 相続人の口座開設について

株式等を受け入れるため、相続人名義の証券口座が必要です。

口座開設のポイント

  • 被相続人と同じ証券会社なら特定口座の引き継ぎ可能
  • 取得価額も引き継がれ、将来の売却時に有利
  • 別の証券会社への移管は一般口座扱いになることも

特定口座引き継ぎのメリット

  • 取得価額の引き継ぎ(相続時の時価ではなく被相続人の取得価額)
  • 源泉徴収ありを選択すれば確定申告不要
  • 過去の取引履歴も確認可能

口座開設時の注意点

  • マイナンバーの提出が必須
  • 本人確認書類(運転免許証等)
  • 印鑑(ネット証券は不要な場合も)

3. 相続税評価額の計算方法

上場株式の相続税評価は、①死亡日の終値、②死亡月の平均、③前月の平均、④前々月の平均の4つのうち最も低い価格を選択できます。投資信託は死亡日の基準価額から信託財産留保額を控除した額で評価します。配当金は死亡日までの日割計算、外国株式は為替レートも考慮が必要です。評価額の計算は相続税申告に直結するため、正確な把握が重要です。

3-1. 上場株式の4つの評価方法

上場株式は以下の4つの価格から最も低いものを選択できます。

評価方法の詳細

1.課税時期(死亡日)の最終価格
  • その日の終値
  • 休場日の場合は直近の終値
2.課税時期の属する月の平均額
  • 死亡月の毎日の終値の平均
  • 営業日数で除して計算
3.前月の平均額
  • 死亡月の前月の終値平均
4.前々月の平均額
  • 死亡月の前々月の終値平均

計算例

A社株式1,000株の場合
死亡日(7/15)終値:2,000円
7月平均:1,950円
6月平均:2,100円
5月平均:1,900円

→ 最低額の5月平均1,900円を選択
評価額:1,900円 × 1,000株 = 190万円

この選択により、相続税を軽減できる可能性があります。

3-2. 投資信託・ETFの評価

投資信託とETFでは評価方法が異なります。

投資信託の評価

  • 死亡日の基準価額 − 信託財産留保額
  • 解約時にかかるコストを控除
  • 休業日の場合は直前の営業日の基準価額

ETFの評価

  • 上場株式と同じ4つの方法から選択
  • 市場価格で評価

外国投資信託の評価

  • 現地通貨建ての基準価額を円換算
  • 為替レートは死亡日のTTB(対顧客直物電信買相場)
  • 月平均を使う場合は為替も月平均

3-3. 配当金・分配金の取り扱い

配当金や分配金も相続財産に含まれます。

配当金の相続税評価

  • 死亡日以前の配当基準日分は相続財産
  • 死亡日から支払日までの期間で按分計算することも
  • 源泉徴収された所得税は準確定申告で精算

投資信託の分配金

  • 普通分配金:相続財産に含む
  • 特別分配金(元本払戻金):非課税のため含まない
  • 死亡日以前の決算分が対象

配当金の受取方法による違い

  • 株式数比例配分方式:証券口座で受取
  • 配当金領収証方式:郵便局等で換金
  • 登録配当金受領口座方式:指定口座に振込

4. 名義変更後の運用・売却の判断

相続した株式等は、継続保有か売却かを判断する必要があります。判断材料として、今後の生活資金の必要性、相続税の納税資金、投資経験の有無、リスク許容度などを考慮します。売却する場合は、相続税申告期限(10か月)までに現金化するケースが多いです。継続保有なら配当収入も期待できますが、価格変動リスクもあります。税金面では、相続時の時価が取得価額となるため、含み益がリセットされるメリットもあります。

4-1. 売却タイミングの考え方

相続した株式等をいつ売却するか、以下の観点から検討します。

売却時期の目安

1. 相続税納税のため
  • 申告期限(10か月)の2〜3か月前
  • 余裕を持った現金化が重要
2. 市場環境を考慮
  • 株価が上昇傾向なら様子見
  • 下落リスクが高い場合は早期売却
3. 分散売却の検討
  • 一度に全量売却せず時期を分散
  • 価格変動リスクを軽減

配当権利確定日の考慮

  • 権利確定日前:配当を受け取ってから売却
  • 権利落ち日以降:株価下落に注意
  • 配当利回りと売却益のバランスを検討

4-2. 継続保有のメリット・デメリット

相続した株式等を継続保有する場合の検討事項です。

メリット デメリット
・定期的な配当収入
・将来の値上がり益の可能性
・株主優待(銘柄による)
・インフレヘッジ効果
・価格変動リスク(元本割れの可能性)
・管理の手間(株価チェック、株主総会)
・投資知識の必要性
・精神的ストレス

投資信託の場合

  • プロによる運用で手間が少ない
  • 分散投資によりリスク軽減
  • 信託報酬等のコスト負担
  • 基準価額の変動は避けられない
投資経験がない場合は、無理に保有せず売却も選択肢です。

4-3. 税金面での注意点

相続した株式等の税金について理解しておきましょう。

売却時の税金

  • 譲渡所得税:売却益の約20%(所得税15.315%、住民税5%)
  • 取得価額:相続時の時価(被相続人の含み益はリセット)
  • 取得費加算の特例:相続税の一部を取得費に加算可能(相続後3年10か月以内)

配当金の税金

  • 源泉徴収:20.315%
  • 確定申告の選択
    • 総合課税:配当控除あり
    • 申告分離課税:上場株式の譲渡損と損益通算可能
    • 申告不要:源泉徴収のみで完結

相続時精算の例

被相続人の取得価額:100万円
相続時の時価:300万円
売却価格:350万円

譲渡所得:350万円 – 300万円 = 50万円
税額:50万円 × 20.315% = 約10万円


5. 複数の相続人がいる場合の分割方法

株式を複数の相続人で分ける場合、現物分割、代償分割、換価分割の方法があります。現物分割は銘柄や株数で分けますが、価値の均等化が困難です。代償分割は一人が取得し他の相続人に金銭を支払います。換価分割は売却して現金を分配する方法で、最も公平ですが売却時期の判断が必要です。いずれも遺産分割協議で明確に定める必要があります。

5-1. 3つの分割方法の比較

分割方法 内容 メリット デメリット
現物分割 銘柄ごと、または株数で分割 株式を残せる 価値の均等化が困難
代償分割 一人が全株式を取得し、他の相続人に代償金支払い 株式をまとめて管理可能 代償金の資金が必要
換価分割 売却して現金を分配 公平な分割が可能 売却時期の判断が必要

実務では換価分割が最も多く採用されています。

5-2. 単元未満株の取り扱い

100株に満たない単元未満株は、通常の売買ができません。

処理方法

  • 買取請求:証券会社に買い取ってもらう(市場価格で売却可能)
  • 買増請求:不足分を購入して単元株にする
  • 相続人間での合算:複数の相続人の株数を合わせて単元株に

単元未満株の権利

  • 議決権:なし
  • 配当金:株数に応じて受領可能
  • 株主優待:多くの場合対象外

6. まとめ:株式・証券相続を適切に進めるために

株式・証券の相続手続きは、証券会社への連絡から始まり、必要書類を揃えて名義変更を行います。手続き完了まで2〜4週間程度かかるため、早めの対応が重要です。相続税評価は4つの方法から最も有利なものを選択でき、適切な評価により税負担を軽減できる可能性があります。

相続後は、継続保有か売却かを慎重に判断する必要があります。相続税の納税資金が必要な場合は計画的な売却を、長期的な資産形成を考えるなら継続保有も選択肢となります。投資経験がない場合は、無理に保有せず売却することも賢明な判断です。

株式・証券の相続は専門性が高い分野です。評価や税務面で不安がある場合は、早めに専門家に相談することをお勧めします。

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竹内 省吾
竹内 省吾
弁護士
慶應大学法学部卒。相続・不動産分野のスペシャリスト弁護士。常時50社以上の顧問・企業法務対応や税理士(通知)としての業務対応の経験を活かし、相続問題に対して、多角的・分野横断的なアドバイスに定評がある。生前時から相続を見越した相続税対策や事業承継にも対応。著書・取材記事多数。
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