COLUMN

Legal Advanceー専門家にも役立つ進歩する法律コラムー
刑事事件

日本版「司法取引制度」について

司法取引制度とは

 司法取引制度とは,被告人と検察官の間で,被告人が罪を認めるか共犯者を告発することに協力することで,検察側が被告人の量刑を減刑したり一部の罪を起訴することをしない(又は起訴を取り下げる)制度のことです。

 司法取引には,自分の有罪を認める代わりに刑を軽くしてもらう自己負罪型と,捜査や公判への協力する代わりに刑を軽くしてもらう(又は不起訴や起訴取り下げをしてもらう)捜査公判協力型があります。

犯罪者を罰せず,取引するだって?

 アメリカでは多くのケースで司法取引が行われているといわれています。「取引で刑罰が軽くなったり処罰されなくなるなんて!」と思う方もいるかもしれません。何を隠そう,司法試験の勉強をしていた当時の私もかなり違和感があって,「アメリカというのは良くも悪くもドライな国だな」という印象を抱いたことを覚えています。ただ,実際に弁護士実務に携わり,刑事手続に携わってみると,これはこれでかなり合理性のある制度かもしれないと思うようになりました。

 というのも,検察官は,検挙された犯罪につき全て起訴するわけではなく,むしろ60%以上は起訴猶予などの不起訴処分としているのが実情です。この中には,証拠関係が怪しく有罪にできるか微妙なケースも相当数含まれていると思われます。もし司法取引があれば,そういったケースで減刑するとはいえ有罪に持ち込むことができたり,共犯者や黒幕の情報など今後の捜査に有益な情報を得たりすることができる可能性があるからです。

 全部起訴すればいいじゃない,というのは理想論ではあるのですが,限られた人的資源の中ではどうしても「処罰すべき」優先順位が出てくるのはやむを得ないことであり,その中で少しでも犯罪の抑止や処罰に貢献するための制度として,司法取引というのは十分に検討されて良い制度であると考えるようになりました。

 もちろん,司法取引は冤罪を生みやすいなどのデメリットもあるので,その運用については十分な検討と注意と倫理感が求められますが,それでもなお導入するメリットはあるのではないかと思います。

日本版司法取引制度

 この司法取引制度,実は日本でも一部の犯罪について,2018年6月1日施行の刑事訴訟法に導入されました(刑事訴訟法350条の2以下)。既に適用例も出ています。

 日本版司法取引制度は,正確には,「捜査・公判協力型協議・合意制度」といいます。これは,司法取引制度のうち,自己負罪型の「有罪を認める代わりに刑を軽くしてもらう」ものは取り入れられなかったことです。自己負罪型の司法取引が導入されなかった理由はいくつかありますが,おそらく,自己負罪型の司法取引は,捜査公判協力型に比べると,「黒幕を罰したい」という要請から直接導かれるようなものではなく,どちらかというと司法経済的観点(刑事司法のコスト削減の観点)が大きいため意見の一致を取るのが難しかったためではないかと思われます。

 限定的とはいえ,日本でも司法取引制度が取り入れられたのは,特に組織的犯罪で末端のものを検挙しても黒幕を処罰できなければ意味がない(小さい)という問題意識があるためです。全ての犯罪において司法取引が認められたわけではありませんが,薬物事犯や金融犯罪など末端の者を処罰しても実質的な意味合いが小さいと思われる犯罪を対象として認められており,既に実際に司法取引が行われた例も出てきています。カルロス・ゴーン氏の逮捕に関しても,日産側が司法取引が行われたことが明らかになっています。

 今後も,基本的には大きめの事件から司法取引が行われていくことになると思いますが,今後の運用がどのように展開されていくのかは注目されます。この制度の活用が進み有用性が実証されれば,対象犯罪の拡大や「自己負罪型」の司法取引についての導入なども進むかもしれませんね。

 

 

SNSで共有・シェアする
馬場 龍行 弁護士
弁護士法人 エース
代表弁護士馬場 龍行
所属弁護士会第一東京弁護士会