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時事問題

岡口裁判官の分限裁判,何が問題なのか?

岡口裁判官とは?

岡口裁判官というのは,裁判官のイメージとはかけ離れたブリーフ一丁姿の写真が有名なツイッター使いの裁判官です。

裁判官がツイッターというとそれだけで「そんなのことする裁判官いるの?」みたいに思われがちなんですが,裁判官も普通の人ですので,当然ツイッターもすればその他のSNSもします。

それ自体は,何も問題ないことです。

また,岡口裁判官というのは,業界の人なら誰でも(?)知っている「要件事実マニュアル」(ぎょうせい)という書籍の著者でもあります。

一般の方には馴染みがないと思いますが,要件事実というのは,裁判の基本中の基本でありながらマスターするのが難しいというとても重要で深みのあるものでして,それを分かりやすくかつ詳しく書いたものが上記の書籍なんですね。法曹界の書籍としてはベストセラー商品の一つではないかと思います。

私は全く個人的には知らない方ですが,優秀な上にお茶目な人なんだろうなと思います。

岡口裁判官は何故懲戒されたか?

そんな岡口裁判官が,懲戒戒告されました。

その理由は,少なくとも懲戒申立の理由としては,とあるツイッターでの発言内容でした。その発言内容はこちら。

被申立人は、裁判官であることが他者から認識できる状態で、アカウントを利用し、平成30年5月17日頃、東京高等裁判所で控訴審判決がされた犬の返還請求に関する民事訴訟についてのインターネット記事及びそのURLを引用しながら、「公園に放置されていた犬を保護して育てていたら、3カ月くらい経って、もとの飼い主が名乗り出てきて、「返して下さい」。「え? あなた?この犬を捨てたんでしょ? 3か月も放置しておきながら・・」「裁判の結果は・・」との投稿をインターネット上に公開して、上記訴訟においてその所有権が認められた当事者(もとの飼い主)の感情を傷付けたものである。

被申立人の上記行為は、裁判所法49条所定の懲戒事由に該当し、懲戒に付するのが相当であるので、本申立てをする。

https://okaguchik.hatenablog.com/entry/2018/08/04/130736

上記申立理由でいう裁判所法49条所定の懲戒事由とは,「品位を辱める行状があつたとき」のことだと思われます。

第四十九条(懲戒) 裁判官は、職務上の義務に違反し、若しくは職務を怠り、又は品位を辱める行状があつたときは、別に法律で定めるところにより裁判によつて懲戒される。

裁判所法

どうですかね?表現の自由とか持ち出すまでもなく,上記のツイートが「品位を辱める行状」と言えるのか,個人的にはかなり疑問です。なので,この分限裁判が始まったとき,私は「こんな申立理由で懲戒されるわけないだろ何考えてるんだ東京高裁は。」と思っていました。

ところが結論は,懲戒戒告処分でした。

その理由は次の通り。少し長いですが引用します。ゴシック体でイタリックにしてある部分は私が装飾したものです。

4 判断
(1) 裁判の公正,中立は,裁判ないしは裁判所に対する国民の信頼の基礎を成 すものであり,裁判官は,公正,中立な審判者として裁判を行うことを職責とする者である。したがって,裁判官は,職務を遂行するに際してはもとより,職務を離れた私人としての生活においても,その職責と相いれないような行為をしてはならず,また,裁判所や裁判官に対する国民の信頼を傷つけることのないように,慎重に行動すべき義務を負っているものというべきである(最高裁平成13年(分)第3号同年3月30日大法廷決定・裁判集民事201号737頁参照)。
裁判所法49条も,裁判官が上記の義務を負っていることを踏まえて,「品位を 辱める行状」を懲戒事由として定めたものと解されるから,同条にいう「品位を辱 める行状」とは,職務上の行為であると,純然たる私的行為であるとを問わず,およそ裁判官に対する国民の信頼を損ね,又は裁判の公正を疑わせるような言動をい うものと解するのが相当である。
(2) 前記2の事実によれば,被申立人は,本件アカウントにおける自己の投稿 が裁判官によるものであることが不特定多数の者に知られている状況の下で,本件 アカウントにおいて,公園に置き去りにされた犬を保護して育てていた者に対して その飼い主が返還等を求める訴訟を提起したことについて,この行動と相いれないものとして上記飼い主の過去の行動を指摘しつつ,揶揄するものともとれる表現を用いて驚きと疑問を示すとともに,上記飼い主による犬の返還請求を認めた判決が確定した旨を報ずる報道記事にアクセスすることができるようにした本件ツイートを行ったものである。そして,前記3②の証拠によれば,上記報道記事は専ら上記訴訟の被告側の視点に立って書かれたものであると認められるところ,本件ツイートには,上記飼い主が訴訟を提起するに至った事情を含む上記訴訟の事実関係や上記飼い主側の事情について言及するところはなく,上記飼い主の主張について被申立人がどのように検討したかに関しても何ら示されていない。また,別紙ツイート4 -目録記載2のとおり,本件ツイートにおける上記驚きと疑問が,専ら上記訴訟の被告の言い分を要約して述べたにすぎないもの,あるいは上記報道記事の要約にすぎないものと理解されることとなるような記載はない上,上記報道記事にも本件ツイ ートで用いられたような表現は見当たらず,本件ツイートは,一般の閲覧者の普通の注意と閲覧の仕方とを基準とすれば,そのような訴訟を上記飼い主が提起すること自体が不当であると被申立人が考えていることを示すものと受け止めざるを得ないものである。現に,上記飼い主は,東京高等裁判所を訪れて,「え?あなた?この犬を捨てたんでしょ? 3か月も放置しておきながら・・」との記載に傷つき,被申立人に抗議したいこと,本件ツイートの削除を求めること,裁判所としてこの問題にどのような対応をするのか知りたいこと等を述べ,本件ツイート削除後も,裁判所として被申立人を注意するよう述べたことが認められる(前記3②の証拠)。
そうすると,被申立人は,裁判官の職にあることが広く知られている状況の下で,判決が確定した担当外の民事訴訟事件に関し,その内容を十分に検討した形跡を示さず,表面的な情報のみを掲げて,私人である当該訴訟の原告が訴えを提起したことが不当であるとする一方的な評価を不特定多数の閲覧者に公然と伝えたものといえる。被申立人のこのような行為は,裁判官が,その職務を行うについて,表面的かつ一方的な情報や理解のみに基づき予断をもって判断をするのではないかという疑念を国民に与えるとともに,上記原告が訴訟を提起したことを揶揄するものともとれるその表現振りとあいまって,裁判を受ける権利を保障された私人である上記原告の訴訟提起行為を一方的に不当とする認識ないし評価を示すことで,当該原告の感情を傷つけるものであり,裁判官に対する国民の信頼を損ね,また裁判の公正を疑わせるものでもあるといわざるを得ない。
したがって,被申立人の上記行為は,裁判所法49条にいう「品位を辱める行状」に当たるというべきである。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/055/088055_hanrei.pdf

ポイントは,

本件ツイートは,一般の閲覧者の普通の注意と閲覧の仕方とを基準とすれば,そのような訴訟を上記飼い主が提起すること自体が不当であると被申立人が考えていることを示すものと受け止めざるを得ないものである。」

(被申立人は)「私人である当該訴訟の原告が訴えを提起したことが不当であるとする一方的な評価を不特定多数の閲覧者に公然と伝えたものといえる。」

という部分です。

「一般の閲覧者の普通の注意と閲覧の仕方」というのはある意味マジックワードで,ある程度「判断者」の価値判断や評価が入り込むのは仕方がないとしても,それにしても,岡口裁判官の上記ツイートで「訴訟を提起すること自体が不当と考えている」と読めますかね?

私の中の一般人の普通の注意と閲覧の仕方だと,せいぜい「この案件について岡口さんは被告側の意見だけを要約して紹介してるってことは,被告よりなのかもな?」くらいなのですが,みなさんいかがでしょうか。

「訴訟を提起すること自体が不当」。確かに,もし岡口裁判官がそんなことを直接言ったり普通の人はそう読むようなツイートをしたとすれば,これは懲戒可能性はあるでしょう。

しかし,私はそもそも上記のツイートで岡口裁判官が被告よりだとも判断できないと思いますが,仮に被告よりだとして被告よりの要約をしたとしてもですよ?

本件ツイートの内容が「訴訟を提起すること自体が不当」って読めますか?

相手の意見を糾弾することと,相手が意見を述べること自体を糾弾することって全く違うわけです。

フランス哲学者のヴォルテールもこう言っています。

私はあなたの意見には反対だ、だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る


これは表現の自由を本質を表す至言ですが,最高裁も当然こんなことは分かってると思うんですけどね。

岡口裁判官への懲戒決定の何が問題なのか?

SNSのプロフィール画像がブリーフ一丁なのも,「まじか」と思う人はいても(私も思います。),「裁判官としてあるまじきこと!処分する!」みたいな話にはなりません。もちろんそう思う人はいるかもしれませんが,それだけでいきなり裁判官としての地位剥奪であるとか懲戒処分になるとか,そういうことはまずないというのが普通の法律家の判断です。厳重注意くらいはありえるでしょうが。懲戒というのは重みのある処分ですから,少なくともいきなり懲戒ということはあり得ません。法廷にブリーフ一丁で現れたら別ですが笑

どうしてそんなことはあり得ないかというと,プライベートで何しようが原則として自由だからです。プライベートの言動を規制するにはそれなりの根拠が必要です。ここでいう根拠とは,法的根拠です。

例えば,既に書いたような職務懈怠や品位を害する行状以外でも,裁判官はプライベートの時間しか使わないとしても国会議員や地方議会議員になれませんし,積極的な政治活動もできませんし,副業のようなことも原則としてできません(裁判所法52条)。

第五十二条 (政治運動等の禁止) 裁判官は、在任中、 左の行為をすることができない。
一 国会若しくは地方公共団体の議会の議員となり、又は積極的に政治運動をすること。
二 最高裁判所の許可のある場合を除いて、報酬のある他の職務に従事すること。
三 商業を営み、その他金銭上の利益を目的とする業務を行うこと。

裁判所法

何れにしても,こういう根拠がないと,プライベートの言動を原則としては規制はできないのです。

もちろん,プライベートだからといってどんな言動でも全く無制限に許されるわけではなく,裁判官にも懲戒制度があり,プライベートな言動であっても懲戒されるということはあり得るでしょう。

ただし,裁判官はその独立を担保するために,分限裁判という厳格な手続によらなければ懲戒されることはないとされ(裁判官分限法3条),罷免(強制的に辞めさせることです。)するには弾劾裁判によらなければならないとされています(憲法64条,裁判官弾劾法)。

これはどうしてかというと,裁判官は裁判という紛争の終局的解決を期する国家的手続の判断者であり,いかなる者からもその判断に恣意的な影響を受けないことを期待されていることから,「判決の内容であなたが職を失うようなことはないよ。だから,どんな判断をしても大丈夫だよ。萎縮せず自分の良心に従った判決をして下さい。」という身分保障をしているということなのです。

だから,裁判官が心身の故障以外の理由で罷免されるというのは,罪を犯したレベルの事情が必要なのです。実際に弾劾裁判で罷免されているケースも,そういうレベルのものがほとんどです。興味のある方は弾劾裁判所サイトをご覧ください。

だから,罷免までいかない戒告のような懲戒でも,簡単に裁判官を萎縮させないように分限裁判という厳格な手続保障があるわけです。

このような裁判官の身分保障前提となる考え方からすると,「品位を辱める行状があつたとき」というのも,「世人の裁判官に対する信頼、ひいては裁判制度そのものに対する信頼の念を危くする」ことが必要だというように厳格に考えられるわけです。

「プロフィール写真が白ブリーフ一丁だったら裁判官に対する信頼とか裁判制度に対する信頼の念を危うくするだろ笑」

と思ったあなた,それはあなたの意見として貴重なものですが,ここで重要なのは,岡口裁判官の懲戒理由はそれではないということです。もしそれが懲戒理由ならとっくに懲戒されています。

最初に述べたように,今回の岡口裁判官への懲戒申立理由は,

「公園に放置されていた犬を保護して育てていたら、3カ月くらい経って、もとの飼い主が名乗り出てきて、「返して下さい」。「え? あなた?この犬を捨てたんでしょ? 3か月も放置しておきながら・・」「裁判の結果は・・」

と(元記事のリンク付きで)ツイートしたことで,

「上記訴訟においてその所有権が認められた当事者(もとの飼い主)の感情を傷付けた」ことなんです。

でもこれだけじゃどう考えても懲戒できない。だから無理やり,「岡口裁判官はこのツイートを通して原告が訴訟を提起すること自体が不当と言っている」という一般の閲覧者の普通の注意と閲覧の仕方では読み取れない事情を読み込んで,戒告処分に辿り着いた。

そうとしか思えない,というのが今回の懲戒決定の問題点だと私は思います。

表現の自由とかそういうことよりも(それはそれでもちろん超重要なのですが),「本当は懲戒したい別の理由があるのにそれでは懲戒できないから一般人から苦情もあったことだしこれを利用して懲戒してやろう」と考えているとしか思えない事実認定をしていること,その決定をしたのがこの国の碩学の集まりである最高裁だということこそが今回の懲戒決定の問題の本質だと考えています。

懲戒戒告の決定自体もそうですが,反対意見が一つもなかったことが信じられません。

そして弾劾へ・・・

ことはこれで終わらず,岡口裁判官は訴追委員会という罷免の弾劾裁判を提起する組織から呼び出しされ事情聴取されています。

訴追理由は上記の懲戒理由だけなく,白ブリーフやこれまでの注意処分やその後のツイート内容や何やら色々付け加えるのかもしれませんが,そうだとしても「罷免」はあり得ません。

これで裁判官が罷免されるとすれば,司法権の独立は絵に描いた餅になります。

もし岡口裁判官に対して訴追委員会が訴追の決定をして弾劾裁判所で罷免されるとすれば,三権分立の緊張関係が一気に崩壊してしまうレベルの危機だと思います。

今後の流れを注視していきたいですね。

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馬場 龍行 弁護士
弁護士法人 エース
代表弁護士馬場 龍行
所属弁護士会第一東京弁護士会