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法律豆知識

憲法関連の時事ニュースを読む前に,5分で知る憲法の基本のき。

憲法って何だろう?

 誰もが知っていて,でもよくは分からない法の代表が憲法ではないでしょうか。憲法は,法律の王様,というイメージはみなさん持っていると思います。しかし,実は憲法は普通の「法律」とは違います。

 改正が難しいなどの形式的な違いはありますが,最大の違いは,憲法は人権という概念を国家の上に置き,人権を保障するための統治機構の基礎を定めたものだということです。そして,私が一番面白いと思うのは,この「人権」というのは,憲法が定めたから認められるのではなく,そもそも人間であるということ自体によって認められるものを言わば例示列挙したものに過ぎないと理解されている点です。普通は,権利というものは法律によって作られます。しかし,憲法によって本来の意味での人権が作り出されることは原則としてありません。もし憲法に,表現の自由が定められていなくても,職業選択の自由が定められていなくても,移住の自由が定められていなくても,平等に扱われる権利が定められていなくても,それらの自由や権利(人権)は,人間には当然に認められると考えられています。

 それなら憲法の人権保障の条項はいらないじゃん,と思う方もいるかもしれません。まさにその通りです。論理的には,憲法に本来の意味の「人権」条項を定める必要はありません。しかし,あえてそれを明示しておくことが,「人権」という人類が歴史の中で辿り着いた英知ともいえる概念を維持継続していくために有用又は必要だという判断から,憲法に「人権」条項があるのです。

 「人権」と「法律上認められる権利」の違いを認識している方は法律家以外の方では多くないと思いますので少し説明します。この二つは,権利の中で重要なものを人権というんでしょというようなものではなく,全く異なるものです。

 個人主義を価値の枢軸に置く現代社会においては,人はみな本来的に自由です。しかし,あまりに自由なまま何の制約も加えなければ,社会秩序が乱され,却って個人の幸福を奪うこととなるため,現実には多くの制約が課されます。この「制約」を国家権力が設けようとする場合,「法律」によらなければならないというのが法治国家の考え方です。そうすると,法律による限りいくらでも「制約」を設けられるという話になりかねないのですが,それに歯止めをかけるのが「人権」です。法律によっても,「人権」を侵害するような制約は認められないということです。ここに人権概念の実質的な意味があります。

 ちょっと話が難しくなってきましたが,とにかく,憲法というのは,もともと存在する「人権」についての例示と,これを保障するために必要最低限な「国家機構の基礎構造」の2つを定めたものだと理解しておけばOKです。

憲法は誰に向けられたものか

 一般に,法律は,国民・市民(以下「私人」といいます。)に向けられたものです。憲法は違います。憲法は,基本的に「国家」の責務を定めたものであり,国家に対して向けられたものです。例えば,思想・良心の自由を保障するという憲法の定めは,直接的には国民・市民に対して向けられたものではなく,国家権力に対して「国民・市民の思想・良心の自由を保障しなさい」と言っているわけです。

 ですので,それは憲法違反だ!というとき,個人や会社など私人いうのではなく,基本的には国家や地方公共団体などの権力機構が定めた法律・条例やその運用に対していわれているものであると理解しなければいけません。権力機構がこれを守った法律や条例を制定することで,間接的には私人間に対しても向けられているということはできますが,直接的には国家等の権力機構に向けられたものが憲法です。

合憲か違憲かを判断できるのは?

例えば,ある法律が合憲であるのか違憲であるのかを判断できるのは誰でしょうか?もちろん,ただ判断するだけであれば誰でもできます。合憲とか違憲とかについて,みんなの意見が一致する場合にはならそもそも問題にならないのですが,問題になっているケースではそういうことはなかなかないので,最終的には誰かが判断しないといけませんよね。

この点について,憲法は,ある法律の定めが違憲かどうかを判断するのは「裁判所」であるとしています。その中で最終的な判断権を持つのは最高裁判所であるとされています(憲法81条)。

第八十一条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

なので,ある法律の規定が合憲か違憲かについては,裁判所に判断してもらうのが通常ということになります。これは,民主主義の基本原則を修正するという意味で強烈な権限です。

民主主義の基本原則への修正

 民主主義の基本原則は,多数決原理です。もちろん,議論を重ねることで少数者への配慮をすることも求められているといえますが,最終的には法律は多数決で決まります。

 これは,国民によって選挙された国会議員が議論に議論を重ねて最終的にその多数(過半数)が賛成したのであれば,その内容が最高のものだという保証はないにしても,その内容がそれほど不合理になることもないという考えに基づいていると思います。

 法律は,国会によって制定されます。そして,国会というのは国民によって選挙された代表者の集まりです。その意味で,民主主義の下で定められた法律というのは,主権者である国民に由来する権限によって制定された,民主主義の結晶ともいうべき非常に重たいものなのです。普通に考えると,民主主義を採る以上は法律は最高法規でありそれを覆す権限を持つ権力機構はなさそうに思えます。

 ところが,憲法は,その法律を違憲であると判断する(=法律を無効にする)という強烈な権限を司法権を担う裁判所に与えました。民主主義の結晶である法律といえども人権を侵害することはできないという価値判断です。

 まさに,民主主義の基本原則を修正する力を持っているのが裁判所なのです。少数者の権利を守るのが裁判所の役割,などと言われることがありますが,それは裁判所のこういった一側面について述べたものです。

 こうしてみると,憲法は,自ら民主主義を定めながらそれよりも上位の概念として人権を置くことで民主主義に修正を加えたということが分かります。これを立憲民主主義といいます。

 もし人類が神様のように完璧な知性を持っていれば,理想の政治体制は民主主義ではないかもしれません。しかし,人間の知性が完璧ではないことを認め,その中で理想の政治体制を目指した到達点が現代社会における立憲民主主義といえます。

 ちなみに,戦後,最高裁で法令違憲とされた例は10個あります。よかったら調べてみてください。

まとめ

 少し話がそれてしまいました。

 まとめると,憲法は,

・ 権力機構に対して,

・ 人権を例示列挙し

・ 人権を保障するための最低限の統治機構を定めた

ものといえます。今後,このコラムを読んだみなさんが,違憲だ合憲だというニュースを見かけた際に,そもそもどんな人権が問題になっているんだろうと考える一助になれば嬉しいです。

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馬場 龍行 弁護士
弁護士法人 エース
代表弁護士馬場 龍行
所属弁護士会第一東京弁護士会