COLUMN

Legal Advanceー専門家にも役立つ進歩する法律コラムー
刑事事件

ゴーン氏勾留で改めて注目される,日本の人質司法について。

人質司法って?

 人質司法とは,日本の刑事司法における身柄拘束の問題点を風刺して使われる言葉のことです。

 日本の刑事司法上,逮捕は最大で72時間(正確には,48時間以内に検察官送致を行い,検察官送致から24時間以内)とされ,検察官の勾留請求に対して裁判所が勾留決定を出した場合には最大10日間,やむを得ない事由がある場合には更に10日間の勾留延長が認められています。単純に言えば,被疑者段階での身体拘束は原則として23日間に制限されるということです。ただし,再逮捕されれば更に23日間の身体拘束が可能となります。

 また,起訴後勾留は2ヶ月ですがほぼ1ヶ月ごとの延長が無制限に認められます。起訴後には,保釈という制度がありますが,この保釈も,特に被告人が罪を認めていないケースではなかなか認められません。

 この身体拘束を合法たらしめる理由は,定まった住所を有しない,罪証隠滅のおそれがあるなどに限定されており,「取調べの必要性」はこれに含まれません。

 しかし,日本の捜査機関である警察や検察は,自白供述を得ることをかなり重視するため,「取調べ」をかなり重視しており,自白供述が得られていない場合には勾留請求がされ,更には勾留延長請求までされるのが通例ともいえるくらい一般的です。

 この,「自白するまで出さないぞ」というように見える捜査機関の姿勢を風刺したのが人質司法という言葉です。

 罪証隠滅のおそれというのは,かなり評価的なものなので,現在の日本の捜査機関の運用方針が直ちに違法とまではいえないかもしれませんが,刑事司法に携わる弁護士側からすると法律の文言に照らしてもかなり無茶な運用なのではないかと感じます。個人的には,捜査機関は訴追する側なのである程度身体拘束した状態で取調べしたいというのは素朴な感覚としてギリギリ分からなくはないのですが,これを認めている裁判所がどうかと思います。

 こういった問題意識は弁護士だけでなく法曹界全体,世間一般にも広まってきており,検察官の勾留請求に対する却下率も上昇傾向にあります。ただ,まあ,上昇傾向にあるといっても,平成30年版の犯罪白書によると平成29年の勾留却下率は3.9%なのですが・・・平成14年の勾留却下率は驚きの0.1%です。「絶対,裁判所機能してないだろ」って数字ですね。

 興味のある方は,人質司法について,刑事弁護の第一人者である高野隆氏が痛烈に批判した論稿をご覧ください。

留置施設の水準の低さも大問題

 近代社会の刑事司法の大原則に,「無罪推定原則」があります。被疑者や被告人は,有罪であることが確定するまで無罪であるという推定の下に取り扱われなければならないということです。これは,刑事司法の凄惨な歴史の上に人類が辿り着いた至宝ともいえる原則です。

 ところが,現在の日本では,この無罪推定原則が徹底されているとはいえません。例えば,逮捕された人の多くはまず警察署の管轄する留置施設に収容されることがほとんどです。この留置施設での被疑者の取り扱いは,とても「無罪推定」されている人へのものではありません。特に一番驚かれるのがお風呂の回数です。

 なんと,お風呂は週に1回です!

 これが無罪を推定される人への扱いですか?無罪を推定されるというのは,要するに最低限の制約以外は一般市民と同じように扱われるべきという意味です。お風呂が週に1回というのが最低限の制約とは到底いえないと思います。

 犯罪者と疑われているんだからこれくらいは仕方ないと思う人もいるかもしれませんが,「無罪推定」とは,それを仕方ないと思ってはならないという意味なのです。

 人質司法の問題の解決はかなりの難題な気がしますが,留置施設内での待遇の改善はそれに比べればまだ容易だと思います。刑務所や拘置所にも通じる問題ですし,もう少し改善されても良いのではないでしょうか。

 いずれにしろ,「犯罪者や被疑者は臭い飯食ってろ。文句言うな。」のような乱暴な感情論で済まされるような問題ではなく,速やかな改善が必要な問題だと思います。

 

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竹内 省吾 弁護士
弁護士法人 エース
代表弁護士竹内 省吾
所属弁護士会第一東京弁護士会