COLUMN

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労働問題

労働災害(労災)保険と会社の責任,2つの関係は?

労働災害(労災)とは?

 労働災害(労災)とは,労働者が業務中(通勤中含む)又は業務に起因して損害を被ることをいい,このような場合について一定程度の補償を行うのが労災保険です。

 労働災害(労災)で見落としがちであるのは,損害を被った労働者の損害は労災だけで完全に補填されるものではないことがあるということです。デフォルメして言えば,労働者が業務中に人身損害にあった場合,治療費,休業損害,逸失利益,慰謝料などの損害が発生すると考えられますが,労災保険では慰謝料は全く補填されません。また,休業損害や逸失利益も完璧に補填されるわけではありません。

 もちろん,誰にも責任がない場合とか,労働者自身の責任が大きい場合などは,これでも仕方ない場合もあります。

 しかし,例えば,その労働災害が会社や第三者の責任によるものである場合には,会社や第三者に対してその損害の賠償を請求できます。例えば,通勤中に交通事故に遭った場合に加害者に対して損害賠償請求できるのは想像しやすいですよね(この場合も労災申請はできる点は注意です。)。

 一方で,会社の安全配慮義務違反などが原因で損害を被った場合に,労災のみで終わらせてしまう方も少なくありません。これは,会社に損害賠償請求なんてしづらい,という思いがある方もいるにはいるのですが,むしろ,労災申請して一定程度の補償がされることで会社への損害賠償という意識を持っていないとう方も多いようです。上記の通り労災だけでは填補されない損害もありますので,会社にも責任追及できるのかという点はよく吟味した方が良いでしょう。

 逆に会社側としては,労働災害(労災)が発生した場合に,会社の責任があるのか,あるとすればどの程度の賠償になるのかなどをきちんと把握しておく必要があります。きちんと把握しておくことで,労働者に裁判等を起こされる場合よりも低額の賠償で納得してもらえることもあるためです。

会社の責任って?

 労働災害(労災)の会社の責任は,法的には「安全配慮義務違反」とされることが多いです。会社には労働者が安全に労働できるように配慮すべき義務が雇用契約の基本的義務としてあり,この義務に違反した結果として労働災害(労災)が発生したということですね。契約義務違反という構成なので時効は10年となります。ただし,債権法改正により時効が5年に統一されますので,債権法改正施行後は5年です。

 安全配慮義務というのは,かなり広い意味合いがあり,例えば工場で機械に巻き込まれて指が切断されたとい事例などで,そのような危険があることを周知徹底して適切な研修等を行なっていなかったこと,なども義務違反とされる可能性は十分にあります。

 また,パワハラやセクハラによってPTSDになったという場合にも労働災害(労災)と認定される可能性はあり,会社の責任が追及されることもあります。さらに,働かせすぎも会社の安全配慮義務違反とされることもあります。特に,労働者が過労死したとか,働きすぎの状態で自殺したという場合にも会社の責任とされるケースがあります。

 会社には,契約上の責任として,労働者の安全や健康に十分配慮する義務があるとうことですね。

 この他にも,土地工作物責任など不法行為責任を会社に追及できる場合もあります。ただ,賠償請求できる損害が増えるというわけではなく,会社に責任を負わせる手段が増えるというだけなので,この辺りは一般の方は気にする必要はありません。

労働災害(労災)だけの場合と会社に責任追及した場合の金額の差は?

 では,労災保険からの給付だけでなく会社にも賠償請求した場合,どれくらい補償の差が出るか,考えてみましょう。

 ある労働者(40歳)が,工場で機械の不具合によって,右足関節を骨折し,1ヶ月入院,5ヶ月通院,3ヶ月休業,後遺障害として右足関節の可動域が左足の半分以下になった場合(労災10級認定)を考えてみましょう。労働者の月給は35万円,事故前年の年収は500万円であり,労働者自身に過失相殺されるべき落ち度はなかったものとします。

 この場合,労災保険で補償されるのは,治療費全額と,休業補償が月約21万円(基礎給付日額60%)×3ヶ月分,障害一時金約350万円(基礎給付日額302日分)なので,労働者の手元に残る金額としては413万円程度です。さらに,これと別に休業補償の特別支給金が基礎給付日額の20%,後遺障害10級の特別支給金額39万円が加算されるので,合計で473万円程度です。

 これに対して,もし会社に責任追及できる場合,上記金額の他に,入通院慰謝料141万円,後遺障害慰謝料550万円,休業損害不足分42万円,逸失利益不足分約1600万円(!)の合計額である2333万円にもなります。上記労災からの給付金額を入れると約2800万円です。

 とてつもなく大きい差だと思いませんか?

 労災保険からの給付をもらっているから,会社からもらえるとしても大した金額ではないだろうというのは大きな間違いだということです。

 もちろん,後遺障害の等級が低い場合や,労働者に過失相殺されるべき落ち度がある場合には,労災給付との金額差は小さくなりますが,その金額差も専門家でなければ正確に割り出すことはできません。 

 なので,労働災害(労災)に遭われた場合には,労災保険の申請だけで済ませたり労災の等級だけにこだわるのではなく,会社等の第三者に対しても請求できないかという点をしっかりと専門家に確認した方が良いでしょう。

 私たち弁護士法人エースも,労災事故の相談には力を入れています。専門サイトもありますので,そちらも是非ご確認ください。

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竹内 省吾 弁護士
弁護士法人 エース
代表弁護士竹内 省吾
所属弁護士会第一東京弁護士会