待ったなし!働き方改革法案が4月から施行へ
働き方改革法案で変わること
いよいよ4月から働き方改革法案が順次施行されていきます。中小企業も対象とした規制が今年の4月から施行されていきますので,経営者も労働者もその内容はしっかり把握しておくべきでしょう。
働き方改革が必要な理由
そもそも働き方改革が何故必要なのかというと,単純に労働力が足りないからというのが政府としての本音だと思います。
しかし,働き方改革は,個々人の生活スタイルや健康状況にも大きく関わる問題であり,個々人のQOL(人生のクオリティ)を向上させる施策でもあるのです。
働き方改革に限らず,改革が求められるのは,現状に問題があると考えられているからです。では働き方改革を求める人が把握している課題と何でしょうか。
それは,長時間労働,非正規社員と正社員の待遇格差,労働力不足,の3つにカテゴライズできます。
それぞれの課題と,それに対する施策をみて行きましょう。
【働き方改革】長時間労働問題
まずこれ,長時間労働ですね。労働時間は,まさに労働者のQOLに関わる問題です。現在の法律では原則として1日8時間以上週40時間以上の労働をさせてはいけないことになっています(36協定と割増賃金の支払いによって例外が認められます。)。
日本人は滅私奉公的な文化のせいかお客様は神様的な文化のせいか,企業のためにモーレツに働くことが美徳とされてきた歴史があります。価値観の多様化が加速する現在でもそのような考え方は根強く残っており,サービス残業の概念や,過労死などの問題も全く解決されていません。
しかも,しかもですよ。日本の労働生産性,OECD(経済協力開発機構)36カ国の中で20位,G7の中で7位という低い成績なんですね。この成績はここ数年どころか,50年くらいほとんど変わってないんですね。アメリカの労働生産性を100としたときの日本の労働生産性,70以下です(出典 https://www.jpc-net.jp/intl_comparison/intl_comparison_2018_press.pdf)。
今は長時間労働と労働人口がそれなりにいることでGDP3位ですが,少子高齢化で労働人口が減っていくとこのままの労働生産性ではGDPは下がる一方ということになります。
個々人レベルではGDPとかどうでもいいという感覚もありうると思いますが,国のように大局をみる立場からすると,これは何とかしないといけない。具体的には,労働人口の減少に歯止めをかけつつ労働生産性を上げていかないといけない。ということになっているわけです。
そこで,政府が打ち出した長時間労働時間の是正施策は,こちらです。
内容としては,①時間外労働の上限規制,②月60時間超の賃金割増率50%について中小企業への適用猶予の廃止,③一定日数の有給休暇取得の義務付け,の3つです。
これどうなんでしょうね。順に見てみましょう。
長時間労働規制 ①時間外労働の上限
まず,①時間外労働の上限規制ですが,そもそも「法律上も上限なかったのか!」と思いませんか?
そりゃ長時間労働にもなりますよね。
でも今回ついに法律上の上限ができてよかった!という感じでもないです。どうしてかというと,内容を見ると,最大の残業時間は月100時間,1年通して月平均80時間がリミットなんですね。
逆に言えば,法律上月80時間の残業まではOKってことになるんですが,月80時間って過労死の労災認定の基準ですからね。
いかんでしょ。発症前に概ね100時間か2ヶ月以上80時間が続く場合,死ぬ可能性があるんですよ?どう考えても長すぎる。
上限がないよりはましだと思いますが,これで本当に長時間労働減る方向に行くのかはかなり疑問です。
しかも医師や建設業など一部の事業や職種については適用猶予があるんですね。全然関係ないですけど,その一部の事業の中に,「鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業」というのがあるんですが,あまりに特定分野なのでどうしてこれが猶予になるのか気になりすぎて少し調べて見ると,もともと鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業は、労働基準局長によって時間外労働について上限規制の適用除外業種に指定されているみたいです。知りませんでした。それで,今回の働き方改革の中でその指定も解除される見込みもあったようなのですが,結局そのまま残ったんですね。
で,何でそもそも何で猶予になっているかというと,砂糖製造業っていうのが,ものすごく季節的に労働量の偏りがあるみたいで,すごく短期間にガーッと働かなくてはいけないしそれを認めないと人材確保もできないというような事情があるみたいです。
何事にも例外はありますね。
長時間労働規制 ②中小企業への割増賃金の適用猶予措置廃止
現行法上,月60時間以上の労働があった場合には,雇用者は労働者に対して割増率50%の賃金を支払わないといけないことになってます。
でも,これ,実は中小企業に対しては猶予措置が取られていたため,中小企業であれば60時間以上働かせても25%の割増率でよかったんですね。これを廃止すると。
ただし,猶予措置廃止されるのは平成35年4月1日です。遅くないですか?
長時間労働規制 ③一定日数の有給休暇強制取得
具体的には10日以上の年次有給休暇を取得できる労働者に対して,最低5日間会社側から時季を指定して取得させることが必要になります。
これは,休みを増やすという意味では実効性ある施策なのかなと個人的には期待しています。ただまあ,それで1日単位や月単位の労働時間が増えて総労働時間は変わらないということにならないよう期待したいですね。
働き方改革の中で一番の課題は労働生産性を上げていくことにあるわけですが,上記①と②は労働時間を強制的に短くして間接的に労働生産性を上げていこうという方策なのに対して,休日を増やそうという③は少し毛色が違います。
私見ですが,休日なく働き続けることは確実に労働生産性を劇的に落とします。もちろん,休日なく働き続けることが必要なときはあるし,労働生産性をそこまで落とさず休日なく働き続けられる人もいるでしょう。でも,全体で見れば,それはやはり例外であり,普通の人にとって,休日は,疲れをとり趣味を楽しみ労働意欲を再生産する上で必須の要素です。
その意味で,有給休暇の強制取得は,労働生産性の向上に直接的に資する施策ではないかと思います。5日といわずもっと多くてもいいんじゃないでしょうか。
【働き方改革】非正規社員の待遇格差
これに関連する判決として,大阪高裁平成31年2月15日判決が,概略,「一定期間働いていたことへの対価といえる性質の賞与については,正職員と同様の職務内容を有するアルバイト職員について完全に不支給とするのは不合理である」として正職員の6割に相当する賞与を認めたものがあります。
正社員,契約社員,アルバイトといった雇用形態に関わらず,その働き方がほとんど同じである場合には,待遇としても同じように扱うべきということですね。これは,労働契約法20条の問題です。
今回の働き方改革で整備される規定としては,短時間労働者(アルバイト)と有期雇用労働者の均等待遇規定と均衡待遇規定があります。
均等待遇というのは,同じ働き方をしているなら同じ待遇にしましょうねというもので,均衡待遇というのは,違う働き方をしているにしてもその違いに応じた合理的な待遇差にしましょうねというものです。
これについて,厚生労働省がガイドラインを定め,基本給,各種手当,賞与,福利厚生等についての均等待遇や均衡待遇の考え方,問題となる例やならない例などを定めています。
概略はこちらをどうぞ。
アルバイトだから賞与がないとか契約社員だから福利厚生がなくていいといったような短絡的な考えは捨てて,きちんと労働実態に応じて均等待遇や均衡待遇を考えなさいということですね。同一労働同一賃金などと表現されます。
当たり前といえば当たり前ですが,これを明確化することには意義があると思います。政府としても働き方改革の目玉に「同一労働・同一賃金」を上げています。
また,派遣労働者についても,派遣先労働者との均等均衡義務か労使協定による一定水準を満たす方式による待遇を確保することが義務化されます。
個人的に重要だと思うのは,説明義務ですね。
有期雇用労働者についても、本人の待遇内容及び待 遇決定に際しての考慮事項に関する説明義務が創設されます。
また,短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者について、事業主に正規雇用労働者との待遇差の内容・理由等の説明義務(求めた場合)も創設されました。求めなくても説明義務有りとしてもよかったように思いますが,実効性あるものにするために少しバランスをとったということでしょうか。
【働き方改革】労働力不足の解消
労働力不足の解消というのは,労働環境を増やし,労働者により働きやすく働いてもらうことで労働者数の減少を食い止めていこうとする方向性と,高齢者の就労を促進して労働者数の減少を食い止めようとする方向性があります。
今回の働き方改革の中では様々な規定等の創設がありますが,高齢者への就労支援も一つの目玉です。
65歳以上で就労意欲のある人は79.7%にものぼり,これらの人の意欲にかなう就労支援ができれあ労働力は単純に増えます。そのための就労支援として,まずは事業者側に,高齢者の採用をする場合や採用継続する場合の助成金の制定などがあります。
また,これは何も高齢者に限ったことではないですが,フレックスタイム制の清算期間の上限を1ヶ月から3ヶ月にしたり,副業や兼業を認めたり,産業医・産業保険機能を強する化など労働環境や柔軟な働き方を実現することで労働力不足を解消するための施策が創設されています。
他にも,外国人材の受け入れなど,直接的な労働力不足の解消を目指す施策などもあります。
人口が減少してくれば労働力が落ちていくのは当たり前のことですが,労働力の現象に直接歯止めをかける方法(働き手を増やす方法)のほか,やはり労働生産性を上げて働き手が減っていくとしてもなお生産性を維持するような方法も併せて実施していくことになるでしょう。
事業者も労働者も知っておくべきこと
働き方改革について見てきましたが,事業者も労働者も知っておくべきこととしては,長時間労働問題と待遇格差問題のところでしょう。
少なくとも一度は目を通して,法律違反とならない経営を行ってもらいたいと思います。心配な方は,顧問の社労士や弁護士に相談しながら働き方改革を進めると良いでしょう。
労働者側も,正しい知識を身につけて,法律違反ではないかとかガイドライン違反ではないかと感じる取り扱いを受けている場合には,労基署や弁護士に相談すべきです。
どんなに良い制度ができても,現場が動かなければ社会は変わりません。そういう小さな積み重ねが,労働生産性を上げていく一番確実な方法と言えると思います。