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時事問題

バイトテロの恐怖〜面白半分が命取り〜

飲食店やコンビニエンスストア等のアルバイトがインターネット上に不適切動画をアップするという事件が相次いでいます。こうしたアルバイト店員による行為はいわゆる「バイトテロ」と呼ばれ、連日ニュースで取り沙汰されています。今年に入ってから、私が認識しているだけでも5件はありました。こうしたバイトテロは、問題だとされていますが、一体何がどのように問題なのか、少し法的観点から考察してみようと思います。

バイトテロの何が悪いの??

バイトテロが問題行為であることは、間違いありません。しかし、いったい何がどのように問題なのでしょうか。

バイトテロの問題は、一般消費者、つまりお客さんに対する問題と、そのお店に対する問題、そして社会生活における影響の3つの側面があります。

まず、お客さんに対する問題について考えてみましょう。

対お客さんへの問題

バイトテロが行われているのは、飲食店等の食品を取り扱う店舗が多く、そうした店舗の従業員が食品をおもちゃにして悪ふざけをしていること自体は、見る人に不快感を与えますよね。幼少期に「食べ物で遊ぶんじゃない」等と親から怒られたりした経験がある方もいるかもしれません。

では、今問題になっているのは、この「不快感」だけでしょうか。

違います。

例えば、レストランに食事に行くとき、もしかしたら食中毒になるかもしれないなと思いながら食事にいく人はいませんよね。日本は衛生面がかなり進歩している国なので、基本的に外食をして体調を崩すなんてことは想定していませんし、たまに起こるからこそ、ニュースで取り沙汰されるわけです。これを店舗側から見ると、常日頃、衛生管理に尽力しているということになります。

バイトテロの方が動画の中で行っていることの大半が衛生上に問題がある行為です。例えば、アルバイト店員が食材の魚をゴミ箱に捨てたのち、それを拾い上げてまな板にのせようとする動画、店舗においてあるおでんの白滝を口に入れて吐き出す動画、商品のパッケージやペットボトルの飲み口をなめる動画。これらは不快感と同時に衛生上の不安感もあおります。

仮に、こうした行為が原因となって、お客さんが食中毒になったらどうでしょうか。わざと(法律上は「故意」といいます。)お客さんが食中毒になりうる商品を提供したのであれば、それを提供した店員は刑事上は立派な傷害罪という犯罪になります。また、その店員をやとっているお店側にも落ち度があると認定されれば(法律上は「過失」といいます。)過失致傷罪が成立しうるのです。また、民事上の責任としては、店員もそうですし、お店側にも不法行為に基づく損害賠償請求がされてしまう可能性があります。

つまり、バイトテロという行為は、それによってお客さんに実害が生じた時、立派な違法行為になるです。単に不快感を与えるだけでなく、その行為は刑事上も民事上も責任を問われる行為だということです。そして、その責任を問われる対象は、動画を投稿した本人だけではなく、お店が対象になりうるのです。

もっとも、お客さんに対する問題は、法律上の観点からすれば、その行為によって、お客さんに実害が生じたとき初めて発生するので、このバイトテロが必ず引き起こす問題とはいえません。多くのお店はバイトテロが発生した段階で、その不衛生な商品によってお客さんに実害が生じることのないように、しっかりと対策をとっていますからね。

対お店への問題

直接的な問題となりやすいのは、お店に対する問題のほうです。

これはバイトテロをした人に百発百中のしかかる問題です。

刑法犯(いわゆる犯罪者)になる

まず、このバイトテロの動画が投稿された時点で、お店を被害者として信用毀損罪、業務妨害罪が成立します。これらの罪について、少し説明しますね。

信用毀損罪とは、虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損する犯罪のことをいいます(刑法233条前段)。…わかりにくいですね。かみ砕いて説明します。

要するに、嘘の噂をながしたり、だましたりして、誰か(自然人だけではなく、法人をはじめとする団体も含みます)の経済的側面における社会的評価を落とす危険が生じたら、それは犯罪ですよ、ということです(ざっくりな説明です)。

業務妨害罪とは、虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の業務を妨害する犯罪のことです(刑法233条後段)。…こちらもかみ砕きますね。

要するに、嘘の噂をながしたり、だましたりして、誰か(自然人だけではなく、法人をはじめとする団体も含みます)の仕事を邪魔する危険が生じたら、それは犯罪ですよ、ということです。

この二つの犯罪は、実際に被害が発生していなくても、発生する可能性があれば犯罪が成立するという性質のものなので、動画をインターネット上に投稿した時点で成立します。

だって、ゴミ箱に捨てた魚を提供するようなお店かもしれないと思ったら、なめまわされたペットボトルが陳列されているお店かもしれないと思ったら、そのお店の商品の品質に対する信用は低下しますよね。そのお店に行くのはやめようと思いますよね。

したがって、バイトテロの動画投稿は、投稿をした時点ですでに信用毀損罪や業務妨害罪が成立することになります。

また動画の内容によっては、器物損壊罪等も成立します。

器物損壊罪とは、他人が所有するぶつまた所有動物を傷つけたり、壊したりするときに成立する犯罪です(刑法261条)。…今回は最初からかみ砕きました!(笑)

器物損壊罪における「傷つけたり」、「壊したり」というのは、物理的な破損、破壊のみならず、その物が本来あるべき効用を失われたときも該当すると考えられています。例えば、本来食事をのせるべきお皿に汚物をのせる、とかですね。したがって、バイトテロの動画の内容によっては、こういった罪に該当することになります。ちなみに器物損壊罪が成立するのは、動画投稿時ではなくて、その行為を行った時です。

損害賠償請求される…民事上の責任

刑事上の責任として、犯罪が成立したとしても、民事上の責任はそれと別個に成立します。そして民事上の責任は原則、金銭賠償です。

法律上の構成としては、不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)、あるいは債務不履行に基づく損害賠償請求権(民法415条)をお店から行使されます。

不法行為に基づく損害賠償請求権とは、あなたがわざとあるいは不注意で悪いことをしたせいで、私が損害を被ったので賠償してください、というもので、債務不履行に基づく損害賠償請求権とは、あなたが約束と違うことをした、あるいは約束を守らなかったせいで、私が損害を被ったので、賠償してください、というものです。

いずれにしてもバイトテロによって、会社に損害が生じた場合には、それを支払うように請求されることになります。

では、具体的な会社の損害とはどのようなものが考えられるでしょうか。念のため付言すると、損害が発生したからといって何でもかんでも賠償請求が認められるわけではなく、あくまでも通常損害と特別損害の範囲に限定されます。要するに、その行為によって、この損害が発生することは普通にわかるよね、というもの(通常損害)と、その行為によってこの損害が発生することは、関係ない第三者には予想つかなくてもその行為をしたあなたは予想できたよね、というもの(特別損害)という範囲においてのみ損害賠償請求が認められます。

ある程度賠償の範囲は限定しておかないと、例えば、殴ってけがをさせたときに、その治療費だけではなくて、殴られてけがを負ったその人が、ものすごいストレスを抱えて、結果として激太りしたので、これまで着ていた服が入らなくなったから服を買い替えた費用を払ってください…なんて請求が認められ出したら、キリがなくなってしまいますからね。

話を戻します。

バイトテロにおけるお店側の損害ですね。

まずは、売り上げが減った分は損害ですね。もちろん、どの時期と比較していくら減ったと認定するか等の問題はありますが、少なくとも損害の項目として、営業上の利益の減少は損害賠償として認められる損害です。

また、事実関係を調査しなければならないような場合には、そこに裂くことになった人件費や、それによって営業をストップさせなければならなかったとすればその売り上げ分、またバイトテロの内容によっては、何かを買い換えなければならなかったりすることも考えられるので、その買い換え費用等…挙げだしたらキリがないほどです。また、バイトテロの動画が影響して会社が社会的信用を失い、株価が暴落した場合、その株価暴落による損害も請求される可能性はあります。

これらを合わせれば、大きな会社の場合だと、数百万円から数千万円の請求をすることが考えられます。とてつもない金額ですね。到底ポンっと払える金額ではありません。

ちなみにバイトテロを行った本人が未成年だった場合、その支払い請求は親御さんにいくのでしょうか、という質問をいただくことがありますが、答えはノーです。

民法上は、責任能力(その行為を弁識するに足るべき知能を備えていること)があれば、本人に責任追及を行うことになります。この年齢はだいたい12歳程度が境目とされているので、アルバイトと行うような年齢になっていれば、間違いなく責任能力は備わっていますから、親御さんが請求の対象になることはありません。

その他社会生活における影響

このようにバイトテロによる動画投稿は、見る人に不快感を与えるだけでなく、立派な違法行為なわけです。

軽い気持ちで、悪ふざけで行為をしたその瞬間に、その様子を動画投稿したその瞬間に犯罪者として逮捕される可能性があり、民事上の損害賠償請求をうけて、多額の負債を負う可能性が発生するのです。

また、現在ではこうした刑事上・民事上の責任のみならず、こうした動画投稿はその動画を投稿した本人のその後の実生活にも大きく影響を与える可能性があります。

良くも悪くもSNSが発達した時代です。動画投稿によって、たとえ顔を隠していたとしても、誰が動画を投稿したのか、本人特定が容易に行われてしまいます。

本人特定が行われて、それがインターネット上にさらされると、瞬く間に個人情報が公開されていきます。このような個人情報をさらす行為自体も違法な可能性は大いにあるのですが、ここではいったんその話題はおいておくことにします。

公開される個人情報としては、顔写真や経歴等がメインになりますね。

大学生なら在学する大学名がさらされます。そうすると、大学としては犯罪者を在学生として容認するのか!?という世間からの目や、犯罪を犯してもなにも学校生活に支障はないと思われてはいけないという教育的観点等から、何らかの処分を下すことを検討し始めます。実際に、こうしたバイトテロ動画を投稿した大学生が学校から停学処分等を受けたということも耳にします。

また、上記のようにバイトテロ動画は犯罪行為ですから、それによって警察沙汰になれば、前科や前歴がつくことになります。ついてしまった前科や前歴は消すことができません。

この前科前歴は就職活動をする際に「賞罰」の欄に記載しなければならないので、一気に就職活動上、不利になるでしょう。ちなみにこの「賞罰」の欄に虚偽の情報を書くと、それはそれで別途経歴詐称として、罪に問われる可能性があります。また「賞罰」の記載欄がなかったとしても、大手の企業では事前にそうした情報をチェックするシステムがあると聞いたこともあります。

また、生涯を共にしたい方に巡り会ったとして、その方のご両親がインターネット等で名前を検索したら…もしかしたら結婚することができなくなってしまうかもしれません。

とにかく不都合しかありません。

バイトテロ動画は、その投稿によって一躍有名にはなるでしょうけれども、知名度を得れば得るほど社会的な信用を失っていき、ゆくゆくはそれが自分の首を絞めることになっていくのですね。

良くも悪くもSNSの時代です

SNSが発展して、様々な情報を容易に取得することができるようになった反面、軽はずみな行為が命取りな時代にもなりました。「いいね」がほしいから、有名になりたいから等で行った行為がその後の人生を制約する行為になりかねないということです。

被害がやまないバイトテロ動画ですが、その行為が及ぼす恐怖について、もっと社会全体で周知していかなければなりません。

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成田 翼 弁護士
弁護士法人 エース
代表弁護士成田 翼
所属弁護士会第一東京弁護士会