民事訴訟費用って?いくらくらい認められるの?
判決や和解に出てくる「訴訟費用」は気にしないのが実務的?
ある紛争が話し合いで解決できずに裁判に至った場合,最終的には裁判上の和解か判決によって決着することがほとんどです(他には,取り下げによる終了や,当事者死亡後に受継されずに終了などのパターンがあります。)。
そして,裁判上の和解においても判決においても,「訴訟費用は各自の負担とする。」とか「訴訟費用は被告(原告)の負担とする。」のように訴訟費用についての定めが判断内容に入ってきます。
ここでいう訴訟費用として,代表的なものは訴訟提起時の印紙代や鑑定人費用,郵券代などですが,実はそれ以外にも,出廷日当や書類作成手数料のようなものもあります。
弁護士であっても,訴訟費用について出廷日当や書類作成手数料のようなものがあることを理解している人はそれほど多くないと思います。そういう種類のものがあると知っていても,実際にいくらもらえるのかを知っている人は少ないでしょう。
なぜそうなのかというと,実務では,実は訴訟費用についてはどちらが負担するということについてそれほど厳格に取り扱っていないからです。例えば,和解でよく使われる「訴訟費用は各自の負担とする。」というのは,訴訟費用折半という意味ではなく,それぞれかかった訴訟費用はそれぞれで負担しましょうね,ということです。なので,厳密に訴訟費用がいくらだとか計算する必要はなくて,それぞれの当事者が「訴訟費用についてはまあいいや」と思えばそれで終わる話なんですね。
他方で,「訴訟費用は被告(原告)の負担とする。」という場合,負担するとされた側は訴訟費用がいくらかなど知りたくない(払いたくない)ので,あえて訴訟費用がいくらだと計算することはありません。また,負担しないでいいとされた側は,裁判の内容で勝訴しているため,別途訴訟費用までは請求しなくていいかと思いがちなんですね。そのため実際に,訴訟費用がいくらか,など計算する機会は少ないのです。
とはいえ,弁護士業をやっていれば,「先生,訴訟費用は被告の負担とすると書いてあるのですが,訴訟費用って何ですか?判決主文に書かれている金額以外に自分が貰えるものもあるんでしょうか?」と聞かれることもあります。私も最近,訴訟費用について調べる機会があったので,覚書ついでに紹介しておきたいと思います。
裁判が長かった場合などは,実は結構バカにならない金額なんですよね・・・
訴訟費用って?
そもそも訴訟費用って何でしょう?一般の方が思いつくものとして「弁護士費用」があると思います。これは,法政策としては含まれても良さそうに思いますが,含まれません。
訴訟費用の代表的なものとしては,訴え提起手数料(印紙代),書類の送付・送達費用(郵券代)のほか,期日への出頭日当,出頭旅費,宿泊料,書類作成提出費用,官公庁等からの書類交付費用,証人の日当・旅費,鑑定料などがあげられます。これらがいくらになるのかという点を含めて,訴訟費用については,「民事訴訟費用等に関する法律」(以下,「法律」といいます。)及び「民事訴訟費用等に関する規則」(以下,「規則」といいます。)に定められています。法律の2条に訴訟費用の種類が定められているのですが,18号まで定められているので,ざっくり18種類はあるということですね。
印紙代や郵券代の計算は簡単です。実際にかかったものをそのまま計上すればOKです。それ以外の主なものを見ていきましょう。
ア 出頭日当
当事者や代理人の出頭日当は,原則として1回あたり3950円です(規則2条2項)。代理人が複数人出席していても日当は一人分です。訴訟費用の中で,ある意味一番インパクトのある費用だと思います。
イ 出頭旅費
当事者や代理人の出頭旅費は,原則として300円です(規則2条1項2号)。ただし裁判所から500メートル以内のところから出発している場合は0円です。弁護士は,裁判所からは500メートル以上離れたところに事務所を構えないと旅費はもらえないということですね。
また,実際にかかった費用が300円を超える場合には,領収書等があればこれを請求することができます(法律2条4号イ(1))。遠方の裁判で新幹線や飛行機を使った場合などは,大きいですよね。ただし,代理人が遠方の裁判所い行ったとしても,本人が近くに住んでいる場合にはそちら基準になります(法律2条5号)。
ウ 宿泊料
「しゅ,宿泊料ももらえるんですか?」というのが弁護士の素直な感想だと思います。宿泊が必要である限り,請求できます。都市圏であれば8500円,それ以外なら7500円です(規則2条3項)。ただし,本人基準なら宿泊不要といえる場合は,当然請求できません。
エ 書類作成提出料
弁護士でも,「え,そんなものもらえるの?」と思うのがこれですね。主張書面について5通まで1500円,6通以上20通まで1000円加算,以後15通区切りで1000円加算となります(規則2条の2 1項)。
さらに,証拠書類についても,16通以上65通までの提出がある場合には1000円の作成提出料が認められます。その後は50通ごとに1000円加算です(規則2条の2 1項)。
オ 官公庁等からの書類提出費用
これは,例えば当事者が会社であった場合の代表者事項証明書などの取得費用ですね。実費に加えて,往復切手代として160円が認められます(規則2条の3)。
訴訟費用って大体どれくらいになる?
ここで,仮に,原告が印紙代3万円郵券5000円の訴訟で全面勝訴し,訴訟費用は被告の負担とするとの判決をもらった場合,訴訟費用がいくらくらいになるか考えてみましょう。証人や鑑定などはなかったものとします。
2年間に渡り争った裁判で,期日が15回,提出書類が主張書面10通,証拠提出40通とすると・・・
旅費・・・300円×15日=4500円
日当・・・3950円×15日=5万9250円
書類・・・1500円+1000円+1000円=3500円
印紙・・・3万円
郵券・・・5000円
合計・・・10万2250円
となります。これをしっかり相手に請求しないと10万円以上損することになるわけです。結構,大きいと思いませんか?
印紙代3万円というのは訴額500万円なので,500万円の請求が認められたし遅延損害金もつくからまあいいかと思ってそこまでは請求しないことが多いというのが実情です。でも,これも相手に請求できますよといえば,して欲しいという依頼者の方が多いような気がします。
何れにしても,弁護士としては,少なくとも訴訟費用負担の判決をもらった時には,一応概算でいいので訴訟費用を計算して,手続すればこれくらいの金額を相手からもらえるよと教えてあげる義務くらいはありそうです。それを弁護士がやるかどうかは当事者との協議になるかなと思いますが。
これに対して,和解の場合は,「訴訟費用は各自の負担とする」という一文によりこういった計算を一切する必要がなくなります。ので,訴訟費用がいくらだというようなことをあえて計算したり説明したりする必要はないでしょう。