法律事務所と弁護士法人,一体どんな違いがある?
法律事務所も弁護士法人も,弁護士でしか名乗れない
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その中で,○○法律事務所,弁護士法人○○,弁護士法人○○法律事務所,などの表記をみて,法律事務所と弁護士法人って何が違うんだろうと思う方も少なくないと思います。
結論をいってしまうと,相談者や依頼者からしてみるとほとんど同じです。
法律上は,「法律事務所」という表記も,「弁護士法人」という表記も,弁護士がいなければ掲げることができません(弁護士法74条1項)。
(非弁護士の虚偽標示等の禁止)
第七十四条 弁護士又は弁護士法人でない者は、弁護士又は法律事務所の標示又は記載 をしてはならない。
2 弁護士でない者は、利益を得る目的で、法律相談その他法律事務を取り扱う旨の 標示又は記載をしてはならない。
3 弁護士法人でない者は、その名称中に弁護士法人又はこれに類似する名称を用い てはならない。
また,当然ですが,上記の条文の通り,弁護士以外のものが「弁護士」と名乗ることも禁止されています。これらに違反すると,100万円以下の罰金に処せられます(弁護士法77条の2)。
(虚偽標示等の罪)
第七十七条の二 第七十四条の規定に違反した者は、百万円以下の罰金に処する。
逆に,弁護士が法律事務をする事務所には,「法律事務所」又は「弁護士法人」と名付けることが義務付けられています(弁護士法20条1項,30条の3)。
(法律事務所)
第二十条 弁護士の事務所は、法律事務所と称する。(名称)
第三十条の三 弁護士法人は、その名称中に弁護士法人という文字を使用しなければな
らない。
紛らわしいものとして,「法務事務所」という表記があります。これは,弁護士以外の法律系資格者が事務所に付すことが多く,行政書士事務所や司法書士事務所などで多く見られます。
弁護士が法律事務を行う事務所の名称については,これ以外にも,過度に期待を抱かせ品位を害するようなものなどを付すことができないなど,色々と制限があるのですが,何れにしても,弁護士法人以外の法律事務所は「法律事務所」と名乗らなければいけないし,弁護士法人は「弁護士法人」と名乗らなければいけません。
弁護士が事務所名に「○○弁護士事務所」と付けることは一般の感覚からは違和感ないように思いますが,できないんですね。
何が違う?法律事務所vs弁護士法人
上記のように,法律事務所も弁護士法人も,弁護士が法律事務を行う場所や所属を意味していますが,法律的な違いは次の通りです。
- 法人格の有無
- 支店(支所)等,複数箇所に事業所を持てるか
以上!
え,これだけ?と思うかもしれませんが,これだけです(法人格が与えられることによる社会保障の違いなど細かい違いはあります。)。
まず法人格の有無ですが,法律事務所には法人格はなく,弁護士法人には法人格があります。法人格って何だよと思う方もおられると思いますが,権利義務の主体となれるかどうかと考えてもらうとわかりやすいと思います。法律上,法人格があるのは自然人(一部につき胎児含む)と,法人だけです。
具体的な場面では,例えば法律事務所に所属する弁護士に法律業務を依頼して弁護士報酬を支払うという場合,法律上は,その報酬はあくまでも契約主体である弁護士個人(自然人)に支払われることになります。他方で,弁護士法人と契約している場合には,報酬を支払う先は,弁護士個人ではなく弁護士法人となります。
このような違いはあるものの,相談者や依頼者からすると,弁護士の事業所に法律事務所であるか弁護士法人であるかはそれほど大きな差はないと考えられますし,弁護士側からみても,厚生年金に入れるかどうかくらいの違いがあるだけで,それほど大きな違いはありません。
では,どうしてわざわざ「弁護士法人」というものが作られたのかというと,答えは2つ目の違いにあります。複数の事業所を持てるようにするため,というのが弁護士法人が作られた最大の理由です。作られた,とうのは,弁護士法人制度は,2001年の弁護士法改正により2002年4月1日からできた比較的若い制度なのです。
もともと,法律事務所は,複数の事業を持つことが禁止されています(弁護士法20条3項)。
(法律事務所)
第二十条 ・・・
3 弁護士は、いかなる名義をもつてしても、二箇以上の法律事務所を設けることが できない。但し、他の弁護士の法律事務所において執務することを妨げない。
どうしてこのような規定があるのかというと,その趣旨としては,過当競争を禁止して弁護士の品位を保つこと,非弁活動の抑制,弁護士会の指導監督権の確保,などがあるといわれています。しかし,そのいずれも事業所を複数持ってはならないという理由として十分なものかといわれると微妙な気がしませんか?他方で,リーガルサービスを受ける市民の側からすると,弁護士の所属事務所に事業所があることのメリットはあってもデメリットはほとんどないように思われます。例えば,全国展開している会社の顧問弁護士が東京にいるが,鹿児島支店で起きた法律紛争について打ち合わせをしたいという時に,鹿児島支店の関係者が東京にいる弁護士に相談依頼するよりも,近くにいる弁護士に相談依頼したいというニーズは間違いなくあると思います。
こういった市場の要請を感じ取って,法は,弁護士法人という法人を認め,弁護士法人とする場合に限り上記の弁護士法20条3項の定めに関わらず,支店等の事業所を複数持つことが許されることになったのです。
法律事務所か弁護士法人かを気にする必要なし
弁護士側からすると,法律事務所か弁護士法人かは,支店を出せるということ以外に細かい違いはあれど大きな差はありません。税金の交際費枠の制限や報酬を決めておかなければならないことなどを考えると,どちらかといえば弁護士法人化するメリットは支店展開以外にはほとんどないのではないかと思います。
そのためかどうかは分かりませんが,従来の法律事務所の構成はそのままに(複数弁護士の集まりを民法上の「組合」とみる構成),実質的にはこれと同じ又は強い繋がりを持つ弁護士法人を立ち上げている法律事務所もあります。要するに,支店を出せるという弁護士法人のいいところと,報酬等の面で柔軟性のある組合のいいところをとる形です。
一方,市民の方からすると,法律事務所と弁護士法人の違いは,弁護士法人であれば支店を持っている可能性が高いというくらいしかないと思います。もちろん,弁護士法人であっても支店がない場合もあります。何れにしても,何れにしても,よりリーガルサービスを受けられるかどうかは担当する弁護士個人の力量と相性によるところが大きいので,法律事務所か弁護士法人かという違いをあまり気にする必要はないでしょう。