内部通報制度の整備と公益通報者保護法|2026年改正対応の実務ポイント

  • 2026/6/11

内部通報制度は、企業の不正やコンプライアンス(法令遵守)違反を早期に発見し、是正するための重要な仕組みです。2026年12月に施行される改正公益通報者保護法では、罰則の新設やフリーランスの保護対象追加など、企業への影響が大きい変更が盛り込まれています。

「うちは中小企業だから関係ない」と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、内部通報制度の整備は企業規模を問わず、不正の早期発見と自浄作用の維持に直結します。本記事では、内部通報制度の基本から、公益通報者保護法の概要、2026年改正の実務ポイント、窓口設置の具体的な手順、外部通報窓口の活用法まで、経営者・法務担当者の方が押さえるべき内容を詳しく解説します。

内部通報制度とは

内部通報制度とは、企業の役員・従業員等が、組織内の法令違反や不正行為を所定の窓口に通報できる仕組みです。社内に設置された窓口を通じて通報を行う「内部通報」と、行政機関や報道機関への「外部通報」を区別して理解することが重要です。

内部通報制度の目的

内部通報制度の目的は、大きく以下の3つです。

  • 不正の早期発見: 日常業務の中で気づいた不正や違反を、早い段階でキャッチできる
  • 自浄作用の確保: 外部に問題が発覚する前に、自社で是正措置を講じることができる
  • 通報者の保護: 安心して通報できる環境を整えることで、「見て見ぬふり」を防ぐ

実際に、企業の不祥事の多くは内部通報をきっかけに発覚しています。内部通報制度が機能していれば、問題が小さいうちに対処でき、経営への深刻なダメージを回避できる可能性が高まります。

設置義務の現状

公益通報者保護法により、従業員301人以上の事業者には、内部通報に適切に対応するための体制整備が義務づけられています。体制整備義務に違反した場合、行政による助言・指導・勧告、さらには事業者名の公表の対象となります。

従業員300人以下の事業者は現時点で努力義務ですが、コンプライアンス体制の一環として整備しておくことが望ましいとされています。取引先からコンプライアンス体制の整備状況を問われるケースも増えており、中小企業にとっても「整備しない理由」は薄れつつあります。

公益通報者保護法の基本

公益通報者保護法は、企業の法令違反を通報した人を、解雇や降格などの不利益な取扱いから保護する法律です。2006年に施行され、2022年に大幅改正、さらに2026年12月に改正法が施行されます。

保護される通報者

公益通報者保護法で保護される通報者は、以下の方々です。

  • 正社員・契約社員・パートタイマー等の労働者
  • 派遣労働者
  • 取引先の労働者
  • 退職者(退職後1年以内)
  • 役員
  • フリーランス(2026年改正で追加)

3つの通報先

公益通報には、通報先に応じた保護要件が定められています。

通報先 内容 保護要件
内部通報(1号通報) 企業内の窓口への通報 通報対象事実が生じている、またはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある
行政通報(2号通報) 監督官庁等への通報 1号通報の要件に加え、真実相当性が必要
外部通報(3号通報) 報道機関等への通報 より厳格な要件(内部通報では不利益を受けるおそれがある等)

通報者にとっては内部通報が最も保護を受けやすい仕組みとなっているため、企業としては信頼できる内部通報窓口を整備し、「まず社内に相談しよう」と思える環境を作ることが重要です。

通報者が安心して制度を利用できるよう、労務管理の面からも適切な保護が求められます。通報を行った従業員に対する不利益な配置転換や減給などが行われないよう、労務上の対応も整備しておきましょう。労務問題全般については『労務問題の対応・解決|企業を守る労務サポート』もあわせてご覧ください。

2026年改正公益通報者保護法のポイント

2025年6月に成立し、2026年12月に施行される改正公益通報者保護法は、通報者保護の実効性を大幅に強化する内容となっています。中小企業にも影響が大きい4つの主要な改正ポイントを解説します。

ポイント1:フリーランスの保護対象追加

改正前は、公益通報者として保護されるのは労働者・退職者・役員に限られていました。改正後は、業務委託関係にあるフリーランス(特定受託業務従事者)も保護対象に追加されます。

外部のフリーランスに業務を委託している企業は、委託先からの通報にも適切に対応する体制を整備する必要があります。特にIT業界や制作業界など、フリーランスとの協業が多い業種では、通報窓口の受付対象を見直すことが求められるでしょう。

ポイント2:行政措置権限の強化

改正前は、体制整備義務に違反した事業者に対する措置は助言・指導・勧告にとどまっていました。改正後は以下の権限が新設されます。

  • 命令権限: 勧告に従わない場合、是正を命じることが可能に
  • 立入検査権: 消費者庁長官に事業者への立入検査権が付与
  • 罰則: 命令違反や立入検査拒否に対して30万円以下の罰金

これにより、体制整備義務は「形だけ整えればよい」ものではなく、実効性を伴った運用が求められることになります。

ポイント3:不利益処分の推定規定

改正後は、公益通報を行ってから1年以内に行われた解雇や懲戒処分は、通報を理由としたものであると推定されるようになります。

これは通報者にとって大きな保護強化です。これまでは「通報を理由に不利益な扱いを受けた」ことを通報者側が立証する必要がありましたが、改正後は企業側が「通報とは無関係に、正当な理由で処分した」ことを証明しなければなりません。

企業としては、通報者に対する人事上の措置について、通報とは無関係であることを記録・説明できる体制を整えておくことが重要です。

ポイント4:罰則の新設

改正前は、公益通報を理由とする不利益取扱いに対して刑事罰は設けられていませんでした。改正後は以下の罰則が新設されます。

対象 罰則
行為者個人 6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
企業(法人) 最大3,000万円の罰金

法人に対する最大3,000万円の罰金は、中小企業にとって経営を揺るがしかねない金額です。内部通報者への対応を誤るリスクの大きさを、改めて認識する必要があるでしょう。

このような内部通報制度の整備でお悩みの場合は、早めに専門家へご相談されることをおすすめします。弁護士法人エースでは、経営者の視点に立った実践的なアドバイスを行っています。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

内部通報制度の整備方法

内部通報制度を実効性のある形で整備するための具体的な手順を解説します。

ステップ1:窓口の設置形態を決める

内部通報窓口の設置形態は、大きく3つのパターンがあります。

パターン 内容 メリット 向いている企業
社内窓口のみ 総務部・管理部門等に設置 低コスト、迅速な初動 小規模企業
外部窓口のみ 弁護士事務所等に委託 独立性・匿名性の確保 社内に適切な受付部門がない企業
社内+外部窓口の併用 両方を設置 通報者の選択肢が広がり信頼性向上 推奨パターン

消費者庁のガイドラインでも、社内窓口と外部窓口の併用が推奨されています。中小企業では、社内窓口を管理部門の担当者が兼務し、外部窓口を弁護士に委託するパターンが現実的です。

なお、複数の中小企業が共同で外部窓口を委託する方法も認められており、コストを抑えた導入が可能です。

ステップ2:公益通報対応業務従事者を指定する

公益通報者保護法では、内部通報の受付・調査・是正を行う担当者を「公益通報対応業務従事者」として指定することが求められています(従業員301人以上の事業者は義務、300人以下は努力義務)。

従事者には守秘義務が課され、正当な理由なく通報者を特定できる情報を漏らしてはなりません。違反した場合は30万円以下の罰金が科される可能性があります。

中小企業で専任者を置くことが難しい場合は、管理部門の責任者や経営者自身が従事者を兼務することも認められています。ただし、従事者としての守秘義務の重さを十分に理解した上で指定する必要があります。

ステップ3:運用ルールを策定する

内部通報を受けた後の対応フローを明確にしておきます。

  1. 受付: 通報の受理、受付記録の作成
  2. 調査: 事実確認のための調査(通報者の秘密を保持しながら実施)
  3. 是正措置: 不正が確認された場合の是正・再発防止策の実施
  4. フィードバック: 通報者への結果通知(適切な範囲で)

運用ルールは社内規程として文書化し、関係者全員が参照できるようにしておくことが望ましいでしょう。

→ コンプライアンス体制の全体像については『コンプライアンス体制の構築方法|中小企業が取り組むべき実務ステップ』をご覧ください。

ステップ4:従業員への周知を行う

制度を整備しても、従業員に知られていなければ機能しません。周知のポイントは以下のとおりです。

  • 通報窓口の連絡先・利用方法を全従業員に配布
  • 通報者が不利益な取扱いを受けないことを明記
  • 定期的な研修やeラーニングで制度を繰り返し案内
  • ポスターや社内イントラネットでの継続的な情報提供
  • 新入社員研修のカリキュラムに組み込む

周知の際には、「通報しても不利益は受けない」「匿名でも通報できる」というメッセージを繰り返し発信し、心理的なハードルを下げることが大切です。

外部通報窓口の活用

内部通報制度の信頼性を高める上で、外部通報窓口の設置は効果的な選択肢です。特に弁護士を外部窓口として活用する方法は、多くの企業で採用されています。

弁護士を外部窓口とするメリット

  • 独立性の確保: 社内のしがらみに影響されない、独立した立場での受付が可能
  • 守秘義務: 弁護士には法律上の守秘義務があり、通報者の情報が厳格に保護される
  • 法的判断: 通報内容が法令違反に該当するかどうか、弁護士が専門的に判断できる
  • 従業員の安心感: 「社外の専門家が受け付けてくれる」という安心感から、通報のハードルが下がる
  • 匿名性の担保: 社内担当者に通報者を知られたくない場合でも、弁護士を介することで匿名性を保ちやすい

外部窓口設置の費用感

弁護士事務所への外部窓口委託の費用は、一般的に月額数万円〜十数万円程度です。顧問契約を締結している場合は、顧問料の範囲内で対応できるケースもあります。

外部窓口利用時の注意点

外部窓口を設置する際の注意点として、顧問弁護士と外部窓口の弁護士を同一にすべきかどうかという論点があります。

消費者庁のガイドラインでは、顧問弁護士が外部窓口を兼ねること自体は禁止されていませんが、通報者から「会社寄りの対応をされるのではないか」と不信感を持たれる可能性があります。信頼性を重視する場合は、顧問弁護士とは別の弁護士に外部窓口を委託することも検討するとよいでしょう。

弁護士法人エースでは、外部通報窓口の受託にも対応しています。以下の強みを活かし、企業の内部通報制度を支援します。

  • 経営者視点のアドバイス: 代表弁護士自身が複数法人を経営しており、通報への対応が経営に与える影響まで見据えた助言が可能
  • 労務・税務のワンストップ対応: グループ内に社労士法人を保有し、弁護士全員が通知税理士登録済み。通報内容がハラスメントや残業問題など労務に関わる場合でも、一括して対応
  • 複数担当制: 複数の弁護士・パラリーガルがチームで対応するため、緊急の通報にも迅速に対応
  • LINEでの気軽な相談: 「この対応で問題ないか」といった日常的な疑問にもすぐに相談可能

まとめ

内部通報制度は、企業のコンプライアンス違反を早期に発見し、自浄作用を維持するための重要な仕組みです。本記事のポイントを整理します。

  • 内部通報制度は不正の早期発見・自浄作用の確保・通報者の保護を目的とする
  • 従業員301人以上の事業者は体制整備が義務、300人以下は努力義務
  • 改正公益通報者保護法(2026年12月施行)では、フリーランスの保護追加、立入検査権、推定規定、最大3,000万円の罰金が新設
  • 窓口は社内+外部の併用が推奨。弁護士を外部窓口に活用することで独立性・信頼性が向上
  • 公益通報対応業務従事者の指定、運用ルールの策定、従業員への周知が整備のポイント

2026年12月の改正法施行まで残り約10か月です。まだ内部通報制度を整備していない企業も、すでに整備済みの企業も、改正内容に照らして体制を見直すことをおすすめします。

→ コンプライアンス全般については『コンプライアンスとは?中小企業が知るべき法令遵守の基本と体制構築ガイド』をご覧ください。

弁護士法人エースでは、内部通報制度の整備に関するご相談を初回無料でお受けしています。

  • 複数弁護士・パラリーガルによる迅速対応
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お問い合わせ 電話相談受付:0120-419-155(年中無休 8:00〜22:00)

監修者プロフィール

成田 翼

弁護士法人エース 代表弁護士

竹内 省吾

経歴
慶應義塾大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2011)
弁護士登録(2012)
第一東京弁護士会・こども法委員会 委員(2020まで)
三田法曹会 会員
日本交通法学会 会員
東京都子供の権利擁護調査員(2020まで)
静岡県弁護士会 会員(2020から2023まで)
第一東京弁護士会 会員(2023)

監修者プロフィール

成田 翼

弁護士法人エース 代表弁護士

成田 翼

経歴
明治大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2012)
弁護士登録(2013)
神奈川県弁護士会 所属
刑事弁護委員会 委員
三田法曹会 会員

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