CSR・ESG情報開示の実務|非財務情報の報告と企業の対応

  • 2026/6/11

企業の財務情報だけでなく、環境・社会・ガバナンスに関する「非財務情報」の開示を求める動きが、国内外で急速に広がっています。2023年3月期からは有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の記載が義務化され、2027年3月期以降はSSBJ基準(サステナビリティ基準委員会が策定した開示基準)に基づくさらに詳細な開示が、プライム市場上場企業に段階的に求められます。

「上場企業の話であって中小企業には関係ない」と思われるかもしれません。しかし、大企業のサプライチェーン全体でCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)情報の開示が求められるようになった今、取引先として中小企業にもCSR・ESG(環境・社会・ガバナンス)情報の提供や報告を要請されるケースが増えています。

本記事では、CSR・ESG情報開示の基本的な考え方から、主な開示基準・フレームワーク、日本の法的動向、中小企業が実務で取り組むべきポイント、法的リスクと弁護士を活用するメリットまで解説します。

CSR・ESG情報開示とは?求められる背景

CSR・ESG情報開示とは、企業が財務諸表には表れない環境対策・社会貢献・ガバナンスへの取り組み状況を、ステークホルダー(利害関係者)に対して報告・公開することをいいます。

従来、企業の価値は売上や利益といった財務情報で評価されてきました。しかし、気候変動リスクの顕在化、人権問題への関心の高まり、コーポレートガバナンスの強化などを背景に、投資家・取引先・消費者が「企業が社会的責任をどう果たしているか」を重視するようになっています。

CSR・ESG情報開示が求められる主な背景は以下のとおりです。

背景 具体的な動き
投資家の意識変化 ESG投資の拡大。投資判断に非財務情報を組み込む機関投資家が増加
法規制の強化 有価証券報告書への記載義務化(日本)、CSRD(EU)など各国で法制化が進行
サプライチェーン管理 大企業が取引先に対しCSR情報の提供・開示を要請する流れが加速
消費者・人材の意識変化 企業のCSR活動を重視する消費者・求職者が増加し、企業ブランドに直結

→ ESG(環境・社会・ガバナンス)の基本と中小企業の取り組み方については『ESG経営とは?中小企業が実践すべき取り組みとメリット』をご覧ください。

主な開示基準・フレームワーク

CSR・ESG情報の開示にはさまざまな基準やフレームワークが存在します。それぞれの特徴を把握し、自社に適した基準を選択することが重要です。

GRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)

GRI(Global Reporting Initiative)スタンダードは、世界で最も広く利用されているサステナビリティ報告基準です。経済・環境・社会の3分野にわたる開示項目を体系的に定めており、企業規模を問わず利用できる点が特徴です。「ダブルマテリアリティ」の考え方に基づき、企業が環境・社会に与える影響と、環境・社会が企業に与える影響の双方を報告することを求めています。

ISSB/IFRSサステナビリティ開示基準

ISSB(International Sustainability Standards Board:国際サステナビリティ基準審議会)が策定したIFRS S1(サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項)およびIFRS S2(気候関連開示)は、投資家を主な利用者として、サステナビリティ情報を財務報告と結びつけて開示することを求める基準です。日本のSSBJ基準はこのISSB基準をベースに策定されています。

EU CSRD・ESRS

CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:EU企業サステナビリティ報告指令)は、EUが2024年度から段階的に適用している開示規制です。開示にはESRS(欧州サステナビリティ報告基準)を使用し、ダブルマテリアリティに基づく詳細な報告が求められます。EU域内に一定規模以上の子会社や売上高を有する日本企業も対象となる可能性があります。なお、2025年に採択されたオムニバス法案(Stop the Clock修正案)により、第二・第三段階の適用企業については報告開始時期が2年延期されています。

TCFD提言

TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言は、気候変動が企業の財務に与える影響を「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの柱で開示することを推奨するものです。日本の有価証券報告書におけるサステナビリティ開示もこの4つの柱を基本構造として採用しています。

各基準の比較

基準 策定主体 主な利用者 マテリアリティ 特徴
GRI GRI 幅広いステークホルダー ダブル 世界で最も普及。企業規模を問わず利用可能
ISSB(IFRS S1/S2) ISSB 投資家 シングル(財務) 財務情報との統合を重視。SSBJ基準の基盤
CSRD/ESRS EU 幅広いステークホルダー ダブル EU域内企業に法的義務。第三国企業も対象となりうる
TCFD FSB 投資家 シングル(財務) 気候変動に特化。日本の有報開示の基本構造

日本における非財務情報開示の法的動向

日本でも非財務情報の開示に関する法規制は年々強化されています。企業が把握すべき主な動向を時系列で整理します。

2023年3月期〜:有価証券報告書への記載義務化

2023年1月の「企業内容等の開示に関する内閣府令」改正により、有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設されました。有価証券報告書を提出するすべての上場企業が対象です。

記載が求められる4つの柱は以下のとおりです。

記載義務 内容
ガバナンス 必須 サステナビリティに関する経営の意思決定体制
リスク管理 必須 サステナビリティ関連リスクの特定・評価・管理プロセス
戦略 重要性に応じて サステナビリティ関連のリスク・機会が事業に与える影響
指標及び目標 重要性に応じて 温室効果ガス排出量等の具体的指標と達成目標

2027年3月期〜:SSBJ基準の段階適用

SSBJ(Sustainability Standards Board of Japan:サステナビリティ基準委員会)は2025年3月にSSBJ基準を公表しました。2026年3月期から任意適用が可能となり、2027年3月期以降はプライム市場上場企業に段階的に適用されます。

対象企業 適用開始
時価総額3兆円以上 2027年3月期〜
時価総額1兆円以上3兆円未満 2028年3月期〜

適用開始年度とその翌年度は、二段階開示(翌期の半期報告書提出期限までに訂正報告書を提出)も認められる経過措置が設けられています。

中小企業への波及

現時点では、非上場の中小企業に直接的な法的義務はありません。しかし、上場企業がサプライチェーン全体の情報開示を求められる以上、取引先である中小企業にもCSR情報の提供が求められるケースは今後さらに増加すると考えられます。

中小企業に求められる情報開示の実務

法的義務のない中小企業であっても、以下の場面でCSR・ESG情報の開示や提供が求められることがあります。実務的な対応方法を解説します。

取引先からのCSR調査票・アンケートへの対応

大企業のCSR調達基準に基づき、取引先に対してCSR調査票やアンケートが送付されるケースが増えています。対応のポイントは以下のとおりです。

  • 求められている情報を正確に把握する: 調査票の項目を確認し、自社で回答可能な範囲を整理する
  • 社内の取り組みを「見える化」する: 環境対策、労働環境、コンプライアンス体制等、既に行っている取り組みを文書化する
  • 回答内容の正確性を担保する: 実態と異なる回答をすると、後述するグリーンウォッシュのリスクを招く

自社のCSR報告・情報発信

取引先からの要請がなくても、CSR情報を自主的に発信することで、企業の信頼性向上やブランディングに役立てることができます。

中小企業の場合、上場企業のような大規模な統合報告書を作成する必要はありません。自社のウェブサイトやパンフレットで、以下のような情報を簡潔にまとめて発信するだけでも効果があります。

  • 環境面: 省エネ・廃棄物削減・リサイクルなどの取り組み
  • 社会面: 従業員の働き方改革、地域貢献、ダイバーシティ推進
  • ガバナンス面: コンプライアンス体制、内部通報制度の整備状況

GRI等のフレームワークの活用

GRIスタンダードは企業規模を問わず利用可能であり、中小企業でも自社の取り組みをGRIの項目に沿って整理することで、体系的な情報開示が可能になります。すべての項目に対応する必要はなく、自社にとって重要度の高いテーマ(マテリアリティ)を特定して、そのテーマに関する情報を優先的に開示することが実務的です。

情報開示における法的リスクと注意点

CSR・ESG情報の開示には、以下のような法的リスクが伴います。

グリーンウォッシュのリスク

グリーンウォッシュとは、実態を伴わないにもかかわらず、環境に配慮しているかのように見せかける表示や広告のことです。近年、消費者や投資家の環境意識の高まりとともに、グリーンウォッシュに対する社会的批判は厳しさを増しています。

日本の法律上、グリーンウォッシュに該当する表示は以下の法令に抵触する可能性があります。

  • 景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法): 商品やサービスの品質・性能について、実際よりも著しく優良であると消費者に誤認させる表示は「優良誤認表示」として規制される
  • 不正競争防止法: 商品の品質や内容について誤認させるような表示は「品質誤認惹起行為」に該当する可能性がある

有価証券報告書の虚偽記載リスク

上場企業がサステナビリティ情報を有価証券報告書に記載する場合、その内容に虚偽があると金融商品取引法上の虚偽記載に該当し、刑事罰や課徴金の対象となります。

情報の正確性・一貫性の確保

CSR報告書やウェブサイトで公表した情報と、取引先への調査票の回答内容が矛盾していると、企業の信頼性を大きく損ないます。開示情報は正確な事実に基づき、社内で一元管理する体制を整えることが重要です。

弁護士に依頼するメリット

CSR・ESG情報開示は、法規制の理解、リスク管理、文書作成など、法務的な判断が求められる場面が多くあります。弁護士のサポートを受けることで、以下のようなメリットがあります。

  • 法規制の正確な把握: 景品表示法、不正競争防止法、金融商品取引法など、情報開示に関連する法令を正確に把握し、法的リスクを回避できる
  • 開示内容のリーガルチェック: CSR報告書やウェブサイトの記載内容が法令に抵触しないか、グリーンウォッシュに該当しないかを事前に確認できる
  • 社内体制の構築支援: 情報収集・管理・開示の社内プロセスを整備し、正確で一貫性のある開示体制を構築できる
  • 取引先からの要請への対応: CSR調査票やアンケートへの回答内容について、法的観点から適切な助言を受けられる

弁護士法人エースでは、以下の強みを活かしたCSR・ESG情報開示支援を行っています。

  • 経営者視点のアドバイス: 代表弁護士自身が複数法人を運営する経営者であり、開示のコストと経営メリットのバランスを踏まえた実践的な助言が可能
  • 労務・税務のワンストップ対応: グループ内に社労士法人を保有し、弁護士全員が通知税理士登録済み。社会面(労務)や税務面の情報もまとめて対応
  • 複数担当制: 複数の弁護士・パラリーガルがチームで対応し、迅速なレスポンスを実現
  • LINEでの気軽な相談: 「この表現はグリーンウォッシュに当たらないか?」といった日常的な疑問にもすぐに対応

まとめ

CSR・ESG情報開示は、大企業だけのテーマではなく、サプライチェーンを通じて中小企業にも広がりつつある重要な経営課題です。

主なポイントを整理します。

  • 非財務情報開示の法制化が加速: 日本では2023年3月期から有価証券報告書への記載が義務化され、2027年3月期からはSSBJ基準の段階適用が開始
  • 国際基準を把握する: GRI、ISSB、EU CSRDなど複数のフレームワークが存在し、それぞれ特徴が異なる。自社に適した基準を選択することが重要
  • 中小企業も実務的な対応が必要: 取引先からのCSR調査票への対応や、自社のCSR情報の発信など、規模に応じた情報開示を進めるべき
  • グリーンウォッシュに注意: 実態を伴わない表示は景品表示法や不正競争防止法に抵触するリスクがある。開示情報の正確性と一貫性の確保が不可欠
  • 弁護士の活用: 法規制の把握、開示内容のリーガルチェック、社内体制の構築まで、専門家のサポートで効率的に進められる

→ CSR(企業の社会的責任)の全体像については『CSR(企業の社会的責任)とは?中小企業が知るべきESG・SDGsの基本と法務対応』をご覧ください。

弁護士法人エースでは、CSR・ESGに関する法務相談を初回無料でお受けしています。

  • 複数弁護士・パラリーガルによる迅速対応
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お問い合わせ 電話相談受付:0120-419-155(年中無休 8:00〜22:00)

監修者プロフィール

成田 翼

弁護士法人エース 代表弁護士

竹内 省吾

経歴
慶應義塾大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2011)
弁護士登録(2012)
第一東京弁護士会・こども法委員会 委員(2020まで)
三田法曹会 会員
日本交通法学会 会員
東京都子供の権利擁護調査員(2020まで)
静岡県弁護士会 会員(2020から2023まで)
第一東京弁護士会 会員(2023)

監修者プロフィール

成田 翼

弁護士法人エース 代表弁護士

成田 翼

経歴
明治大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2012)
弁護士登録(2013)
神奈川県弁護士会 所属
刑事弁護委員会 委員
三田法曹会 会員

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