委託事業者の4つの義務|3条書面・支払期日・書類保存のポイント
「外注先への発注は口頭で済ませている」「支払いは月末締め翌々月末払いで運用している」——このような対応は、下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)に違反している可能性があります。
下請法の適用対象となる取引を行う委託事業者(親事業者。改正法では「委託事業者」)には、4つの義務が課されています。これらの義務は、中小受託事業者(下請事業者。改正法では「中小受託事業者」)の了解があっても免除されません。義務に違反した場合、公正取引委員会による改善指導や勧告(公正取引委員会が違反企業に対して行う行政措置)の対象となります。
この記事では、委託事業者が守るべき4つの義務について、具体的な実務対応とあわせて解説します。
INDEX
書面の交付義務(3条書面)
3条書面とは
3条書面(発注時に交付が義務付けられている書面)とは、委託事業者が中小受託事業者に発注する際に交付しなければならない書面です。下請法第3条に規定されていることから「3条書面」と呼ばれています。
発注の都度、直ちに交付する必要があり、口頭での発注や、書面の交付が遅れることは義務違反に該当します。
3条書面の記載事項
3条書面には、以下の事項を記載しなければなりません。
| 記載事項 | 内容 |
|---|---|
| 委託事業者・中小受託事業者の名称 | 正式な商号を記載 |
| 製造委託等をした日 | 発注日 |
| 中小受託事業者の給付の内容 | 委託する業務の具体的な内容・仕様 |
| 給付を受領する期日(納期) | 納品日または役務の提供期日 |
| 給付を受領する場所 | 納品場所 |
| 給付の内容について検査する場合の検査完了期日 | 検収日(検査がある場合) |
| 製造委託等代金の額 | 支払金額(算定方法でも可) |
| 製造委託等代金の支払期日 | 支払日 |
| 製造委託等代金の支払方法 | 振込・手形等の支払手段 |
| 手形の金額・満期(手形払いの場合) | 2026年改正で手形払いは原則禁止 |
| 有償支給する場合の品名・数量・対価・引渡期日・決済方法 | 原材料等を支給する場合 |
| 原材料等を自己から購入させる場合の品名・数量・対価 | 購入させる場合 |
記載事項が定まらない場合の対応
発注時点で代金額や仕様の詳細が確定していない場合は、確定している事項を記載した書面を先に交付し、未確定の事項は「内容が定められない理由」と「確定予定日」を記載します。その後、内容が確定した時点で速やかに補充書面を交付しなければなりません。
「仕様が固まっていないから書面は後で出す」という対応は認められません。確定していない事項がある場合でも、まずは確定している範囲で書面を交付することが必要です。
電磁的方法による交付
2026年1月施行の改正により、3条書面は中小受託事業者の事前承諾なしに電子メールやクラウドシステムなどの電磁的方法で交付できるようになりました。従来は中小受託事業者の事前承諾が必要でしたが、この要件が撤廃されています。
ただし、電磁的方法で交付する場合でも、記載事項に漏れがないことは同様に求められます。自社の発注書テンプレートが必須記載事項を網羅しているか確認しましょう。
→ 契約書と3条書面の整合性を確保する方法については「契約書の作成・リーガルチェック|企業を守る契約書サポート」もご覧ください。
支払期日を定める義務
60日以内ルール
委託事業者は、中小受託事業者から物品等を受領した日(役務の提供を受けた日)から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定めなければなりません(下請法第2条の2)。
この「60日」はカレンダー上の日数であり、営業日ではありません。また、検収の完了を待ってから起算するのではなく、受領した日が起算日です。検収に時間がかかることを理由に支払いを遅らせることはできません。
月末締め翌月末払いは適法か
実務で多い「月末締め翌月末払い」の場合、月初に受領した物品については最大約60日後の支払いとなるため、ギリギリで適法です。一方、月末に受領した物品は約30日後の支払いとなります。
ただし、「月末締め翌々月末払い」の場合は、月初に受領した物品が約90日後の支払いとなり、60日ルールに違反します。支払サイト90日で運用している企業は、早急に見直しが必要です。
| 支払条件 | 月初納品の場合 | 月末納品の場合 | 適法性 |
|---|---|---|---|
| 月末締め翌月末払い | 約60日 | 約30日 | 適法 |
| 月末締め翌々月末払い | 約90日 | 約60日 | 違反(月初納品分) |
| 20日締め翌月20日払い | 約50日 | 約20日 | 適法 |
下請代金の額が確定しない場合
代金額が未確定であっても、支払期日を60日以内に定める義務は免除されません。算定方法を3条書面に記載したうえで、実際の支払い時に確定額を支払います。
書類の作成・保存義務(5条書類)
5条書類とは
5条書類(取引記録として保存が義務付けられている書類)とは、委託事業者が中小受託事業者との取引に関して作成し、保存しなければならない書類です。下請法第5条に基づくことから「5条書類」と呼ばれています。
記載事項と保存期間
5条書類には、以下の事項を記載し、取引完了日から2年間保存しなければなりません。
- 中小受託事業者の名称
- 製造委託等をした日、中小受託事業者の給付の内容、給付を受領する期日
- 中小受託事業者の給付を受領した日(役務の提供を受けた日)
- 中小受託事業者の給付の内容について検査した場合の検査結果・検査完了日
- 製造委託等代金の額
- 製造委託等代金の支払日
- 代金の支払手段(振込・手形等)
- 製造委託等代金の額に変更があった場合の変更内容・理由
- 支払遅延があった場合の遅延利息の額
3条書面との関係
3条書面の写しを保存し、そこに記載のない事項(検査結果、実際の受領日、支払日など)を追記・別途作成する方法でも5条書類の要件を満たすことができます。実務上は、3条書面(発注書)のコピーに受領日・検収日・支払日を記録する運用が効率的です。
電子保存の可否
5条書類は電子データでの保存も認められています。クラウド型の購買管理システムや会計システムを導入している場合は、それらの記録が5条書類の要件を満たしているか確認しましょう。
公正取引委員会と中小企業庁は毎年、委託事業者と中小受託事業者の双方に書面調査を実施しています。この調査に正確に回答するためにも、5条書類の整備は欠かせません。
遅延利息の支払義務
年率14.6%の遅延利息
支払期日までに製造委託等代金(下請代金。改正法では「製造委託等代金」)を支払わなかった場合、委託事業者は受領日から60日を経過した日から実際に支払われた日までの期間について、年率14.6%の遅延利息を支払わなければなりません。
この遅延利息は、中小受託事業者が請求しなくても支払義務が発生します。「請求されていないから支払わなくてよい」という認識は誤りです。
遅延利息の計算方法
遅延利息の計算式は以下のとおりです。
遅延利息 = 未払金額 × 14.6% × 遅延日数 ÷ 365
たとえば、代金100万円の支払いが30日間遅延した場合の遅延利息は以下のとおりです。
100万円 × 14.6% × 30日 ÷ 365日 = 12,000円
遅延利息の起算日に注意
遅延利息の起算日は「支払期日の翌日」ではなく、受領日から60日を経過した日の翌日です。支払期日を60日以内に定めていたとしても、実際の支払いが受領日から60日を超えた場合は遅延利息が発生します。
また、支払期日そのものが60日を超えて設定されている場合は、支払期日より前であっても、受領日から60日を過ぎた時点で遅延利息の対象となります。
義務を確実に履行するための実務対応
4つの義務を日常の業務フローに組み込むことが、違反を防ぐための最も効果的な方法です。
発注時のチェックリスト
発注の都度、以下の項目を確認しましょう。
- 3条書面の交付:口頭発注にしていないか。必須記載事項に漏れがないか
- 納期の設定:給付を受領する期日(納期)を明確に定めているか
- 代金額の記載:金額が確定していない場合、算定方法と確定予定日を記載しているか
- 有償支給:原材料等を有償支給する場合、その条件を書面に記載しているか
支払い時のチェックリスト
支払い処理を行う際には、以下を確認しましょう。
- 60日以内の支払い:受領日から60日以内に支払えているか
- 代金の全額支払い:一方的な減額をしていないか。振込手数料を差し引いていないか
- 遅延利息の有無:支払い遅延が発生していた場合、年率14.6%の遅延利息を加算しているか
発注書テンプレートの整備
3条書面の記載漏れを防ぐには、法定の必須項目をすべて盛り込んだ発注書テンプレートを作成しておくことが有効です。担当者が変わっても記載事項に漏れが出ないよう、テンプレートに入力欄を設けておきましょう。
5条書類の保存ルール
書類の保存については、以下のルールを社内で統一しておくと管理がスムーズです。
- 3条書面のコピーを発注ごとに保管し、受領日・検収日・支払日を追記する
- 電子データで管理する場合は、検索性を確保する(取引先名・日付で検索可能にする)
- 保存期間は取引完了日から2年間(短縮は不可)
- 年次の書面調査への回答に備え、いつでも取り出せる状態にしておく
このような下請法の実務対応にお悩みの場合は、弁護士法人エースにお気軽にご相談ください。経営者目線での実務的なアドバイスをいたします。
義務違反があった場合のリスク
4つの義務に違反した場合、以下のリスクがあります。
行政上のリスク
- 改善指導: 公正取引委員会や中小企業庁から改善指導を受ける(2024年度は指導件数8,230件)
- 勧告・企業名公表: 重大な違反や改善が見られない場合、勧告を受け企業名と違反内容が公表される
刑事罰
3条書面の不交付および5条書類の不作成・不保存については、50万円以下の罰金が科される可能性があります。法人と個人の両方が罰則の対象となる両罰規定です。
レピュテーションリスク
企業名公表によるダメージは罰金額以上に深刻です。取引先からの信用低下、新規取引への影響、採用市場での評価低下など、企業経営全体に波及する可能性があります。
→ 違反時のペナルティの詳細は「下請法違反のペナルティ|勧告・公表・罰金と企業が受けるリスク」をご覧ください。
よくある違反パターン
公正取引委員会の調査で指摘されやすい違反パターンは以下のとおりです。
| 違反パターン | 該当する義務違反 |
|---|---|
| 口頭発注が常態化している | 3条書面の交付義務違反 |
| 発注書に代金額や納期が記載されていない | 3条書面の記載事項不備 |
| 支払サイトが60日を超えている | 支払期日を定める義務違反 |
| 取引記録を保存していない | 5条書類の保存義務違反 |
| 支払い遅延があったが遅延利息を支払っていない | 遅延利息の支払義務違反 |
公正取引委員会の書面調査は毎年実施されており、すべての委託事業者が対象になり得ます。「今まで指摘されなかったから大丈夫」ではなく、日常的に義務の履行状況を確認することが重要です。
→ 違反時のペナルティの詳細は「下請法違反のペナルティ|勧告・公表・罰金と企業が受けるリスク」をご覧ください。
まとめ
下請法における委託事業者の4つの義務は、すべての適用対象取引で遵守しなければなりません。ポイントを整理します。
- 3条書面の交付義務:発注時に直ちに書面を交付。必須記載事項(代金額、納期、支払期日など)に漏れがないか確認する
- 支払期日を定める義務:受領日から60日以内に支払期日を設定。月末締め翌々月末払いは違反の可能性あり
- 5条書類の保存義務:取引記録を作成し、2年間保存。年次の書面調査への対応にも必要
- 遅延利息の支払義務:支払い遅延があった場合、年率14.6%の遅延利息が発生。請求の有無にかかわらず支払いが必要
- 実務対応:発注書テンプレートの整備、支払い時のチェックリスト、保存ルールの統一で違反を防止
→ 下請法全般については「下請法(取適法)とは?企業が知るべきルールと対策を弁護士が解説」をご覧ください。
「口頭発注が多くて書面整備が追いついていない」「支払サイトの見直しが必要だが進め方がわからない」「公正取引委員会の書面調査への回答に不安がある」——このようなお悩みがある方は、早めに専門家にご相談ください。
弁護士法人エースでは、下請法に関するご相談を初回無料でお受けしています。発注書テンプレートの確認、支払条件の見直し、社内研修の講師まで、コンプライアンス体制の構築を幅広くサポートいたします。
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監修者プロフィール
弁護士法人エース 代表弁護士
竹内 省吾
- 経歴
-
慶應義塾大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2011)
弁護士登録(2012)
第一東京弁護士会・こども法委員会 委員(2020まで)
三田法曹会 会員
日本交通法学会 会員
東京都子供の権利擁護調査員(2020まで)
静岡県弁護士会 会員(2020から2023まで)
第一東京弁護士会 会員(2023)
監修者プロフィール
弁護士法人エース 代表弁護士
成田 翼
- 経歴
-
明治大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2012)
弁護士登録(2013)
神奈川県弁護士会 所属
刑事弁護委員会 委員
三田法曹会 会員