社内規程・コンプライアンスマニュアルの策定方法|企業を守るルール作りの実務
コンプライアンス体制の整備において、社内規程やマニュアルの策定は欠かせないステップです。「コンプライアンスが大事だ」と社内で共有しても、具体的なルールがなければ、従業員は何をどう守ればよいのかわかりません。
2024年にはコンプライアンス違反による企業倒産が過去最多の320件に達しました。違反の多くは、「そもそもルールが明確でなかった」「規程はあったが周知されていなかった」といった体制の不備に起因しています。逆にいえば、社内規程を適切に策定・運用することで、違反リスクを大幅に低減できるということです。
本記事では、コンプライアンスに関連する社内規程の種類から、マニュアルの策定手順、盛り込むべき内容、就業規則との整合性、運用の定期見直しまで、中小企業の実務に即して解説します。
INDEX
コンプライアンス関連の社内規程とは
社内規程とは、企業が業務運営上のルールを文書化したものです。コンプライアンスに関連する社内規程は、企業の法令遵守と社会規範の遵守を担保する仕組みとして機能します。
中小企業が整備を検討すべき主なコンプライアンス関連規程は以下のとおりです。
| 規程名 | 目的・内容 | 優先度 |
|---|---|---|
| 行動規範(倫理規程) | 企業理念に基づく役員・従業員の行動指針を定める | 高 |
| コンプライアンスマニュアル | コンプライアンスの基本方針、違反時の対応手順を包括的にまとめる | 高 |
| 情報管理規程 | 個人情報・機密情報の取り扱いルールを定める | 高 |
| ハラスメント防止規程 | パワハラ・セクハラ等の定義、相談窓口、処分基準を定める | 高 |
| 内部通報規程 | 内部通報窓口の設置、通報手続き、通報者保護のルールを定める | 高 |
| 反社会的勢力排除規程 | 反社との関係遮断の方針、チェック手続きを定める | 中 |
| 贈収賄防止規程 | 接待・贈答の基準、公務員との取引ルールを定める | 中 |
| SNS・情報発信規程 | 業務上・私的なSNS利用のルール、炎上時の対応方針を定める | 中 |
すべての規程を一度に整備する必要はありません。自社の事業内容やリスクの大きさに応じて、優先度の高いものから段階的に策定していくアプローチが現実的です。
→ コンプライアンス体制の全体像については『コンプライアンス体制の構築方法|中小企業が取り組むべき実務ステップ』をご覧ください。
コンプライアンスマニュアルの策定手順
コンプライアンスマニュアルは、社内規程の中でも中心的な位置づけにあたります。個別の規程を横断的にまとめ、従業員が実務で参照できるガイドラインとして機能します。
策定の手順は、以下の6つのステップで進めます。
ステップ1:現状分析とリスクの洗い出し
まず自社の事業内容に関連する法令や業界規制を整理し、過去のトラブルやヒヤリハット事例を洗い出します。「どの分野で違反リスクが高いか」を把握することが、マニュアルの骨格を決めるうえで重要です。
具体的には、以下の観点で確認します。
- 関連する法令(労働基準法、個人情報保護法、下請法、税法等)
- 過去に発生した社内トラブルやクレーム
- 業界特有の規制やガイドライン
- 取引先から求められているコンプライアンス要件
ステップ2:骨子の作成
リスク分析の結果をもとに、マニュアルの構成(章立て)を決定します。一般的な構成は以下のとおりです。
- 基本方針(経営者メッセージ・コンプライアンスの定義)
- 適用範囲(役員・正社員・パート・派遣社員・委託先等)
- 遵守すべき法令・規範の一覧
- 具体的な行動基準(分野別)
- 違反時の報告ルートと対応手順
- 相談窓口・内部通報制度の案内
- 制裁規定(就業規則との連動)
- 改定手続き
ステップ3:各部門へのヒアリング
骨子をもとに、各部門の責任者や現場担当者にヒアリングを実施します。実際の業務で「判断に迷う場面」や「リスクが高い業務」を具体的に把握することで、机上の空論にならない実践的なマニュアルを策定できます。
ステップ4:ドラフトの作成
ヒアリング結果を反映し、マニュアルのドラフトを作成します。この段階で注意すべきポイントは、法律用語を多用しすぎないことです。コンプライアンスマニュアルは全従業員が読むものですから、平易な表現を心がけ、必要に応じて具体例やQ&Aを盛り込みます。
ステップ5:経営層の承認
ドラフトを経営層に提出し、承認を得ます。コンプライアンスマニュアルは経営者のコミットメントを示す文書でもあるため、冒頭に経営者のメッセージを掲載することをおすすめします。
ステップ6:全社への周知
承認後、全社員に周知します。単にマニュアルを配布するだけでなく、説明会の開催やeラーニングの実施など、内容を理解してもらうための施策も同時に行うことが重要です。「配っただけ」では形骸化のリスクがあります。
規程に盛り込むべき内容
コンプライアンス関連の規程を策定する際に、必ず盛り込むべき要素があります。以下の6項目は、どの規程にも共通して必要な基本項目です。
| 項目 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 目的 | 規程を制定する趣旨・背景 | 「なぜこの規程が必要か」を明確にする |
| 適用範囲 | 規程の対象者と適用場面 | 役員・正社員だけでなく、パート・派遣・委託先も含めるか検討 |
| 禁止行為 | 具体的に禁止される行為の一覧 | 抽象的な表現ではなく、具体的な行為で記載する |
| 報告義務 | 違反の発見時の報告先と報告手順 | 報告ルートを明確にし、報告しやすい環境を整える |
| 制裁規定 | 違反時の処分内容 | 就業規則の懲戒規定と整合させる |
| 相談窓口 | 疑問や不安を相談できる窓口の案内 | 社内窓口と外部窓口(弁護士等)の両方を設置 |
特に重要なのは、禁止行為をできるだけ具体的に記載することです。「法令を遵守する」という抽象的な記載だけでは、従業員が実際の業務場面で適切に判断できません。「取引先から接待を受ける場合は1万円以上の場合に事前申告が必要」「個人のSNSで業務に関連する情報を発信してはならない」のように、具体的な基準を示すことで実効性が高まります。
→ 内部通報制度の規程整備については『内部通報制度の整備と公益通報者保護法|2026年改正対応の実務ポイント』をご覧ください。
就業規則との整合性
コンプライアンス関連の社内規程は、就業規則との整合性を確保しなければなりません。特に重要なのが懲戒規定との連動です。
懲戒規定との連動が必要な理由
コンプライアンス違反に対して懲戒処分(けん責・減給・出勤停止・懲戒解雇等)を行うためには、就業規則の懲戒事由に該当する必要があります。コンプライアンスマニュアルで「禁止」としていても、就業規則の懲戒事由に含まれていなければ、懲戒処分を行うことは困難です。
具体的には、以下のような対応が必要です。
- 就業規則の懲戒事由に「コンプライアンス規程への違反」を追加する
- コンプライアンス規程の制裁規定に「就業規則の懲戒規定に基づき処分する」旨を明記する
- 違反行為の重大度に応じた処分の目安(処分基準表)を作成する
労基署への届出
就業規則を変更した場合は、労働基準監督署への届出が必要です(常時10人以上の従業員がいる事業所)。コンプライアンス規程の策定に伴って就業規則を改定する際は、届出を忘れずに行いましょう。また、就業規則の変更には従業員代表の意見聴取も必要です。
就業規則とコンプライアンス規程の整合性については、労務の専門家と連携して整備することをおすすめします。
→ 契約書の作成や取引関連規程の整備については『契約書の作成・リーガルチェック|企業を守る契約書サポート』をご覧ください。
規程の運用と定期見直し
社内規程は「作って終わり」ではなく、運用と定期的な見直しを行ってこそ実効性を持ちます。策定後の運用において押さえるべきポイントを整理します。
法改正への対応
コンプライアンスに関連する法令は頻繁に改正されます。特に2026年12月施行の改正公益通報者保護法では、通報者保護の範囲拡大や罰則強化が盛り込まれており、内部通報規程の見直しが急務です。
法改正情報を定期的にチェックし、規程の改定が必要な場合は速やかに対応する体制を整えましょう。顧問弁護士と契約していれば、法改正の情報提供や規程改定のアドバイスを継続的に受けることができます。
年次レビューの実施
法改正の有無にかかわらず、少なくとも年1回は規程の見直しを行うことをおすすめします。以下のチェック項目で確認します。
- 規程の内容が現在の事業内容・組織体制に合っているか
- 新たに発生したリスクに対応できているか
- 違反事案やヒヤリハット事例を踏まえた改善点はないか
- 従業員からの意見やフィードバックを反映すべき点はないか
- 関連法令に改正がないか
改定手続きの明確化
規程の改定手続き(起案→審査→承認→施行→周知)をあらかじめ定めておきましょう。改定のたびに手続きを一から検討するのは非効率ですし、承認なく規程が変更されるリスクも防げます。
→ CSR(企業の社会的責任)との関連については『CSR(企業の社会的責任)とは?中小企業が知るべきESG・SDGsの基本と法務対応』をご覧ください。
まとめ
社内規程・コンプライアンスマニュアルは、コンプライアンス体制の根幹をなす「ルールの文書化」です。規程がなければ従業員は何を守るべきかわからず、違反が発生しても適切な対応ができません。
主なポイントを整理します。
- コンプライアンス関連規程は段階的に整備: 行動規範・コンプライアンスマニュアル・情報管理規程・ハラスメント防止規程など、自社のリスクに応じて優先順位をつけて策定する
- 策定は6つのステップで進める: 現状分析→骨子作成→各部門ヒアリング→ドラフト作成→経営層承認→全社周知
- 禁止行為は具体的に記載: 抽象的な規定ではなく、従業員が実務で判断できる基準を示す
- 就業規則との整合性を確保: 懲戒規定との連動がなければ、規程違反に対する処分が困難になる
- 策定後の運用と定期見直しが不可欠: 法改正対応と年次レビューにより、規程の実効性を維持する
社内規程の策定や見直しは、法令知識と実務経験が求められる作業です。弁護士法人エースでは、コンプライアンスに関するご相談を初回無料でお受けしています。
- 代表弁護士自身が複数法人を経営する経営者視点でのアドバイス
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規程の新規策定・改定から運用支援まで、経営者のパートナーとしてサポートいたします。
お問い合わせ 電話相談受付:0120-419-155(年中無休 8:00〜22:00)
→ コンプライアンスの全体像については『コンプライアンスとは?中小企業が知るべき法令遵守の基本と体制構築ガイド』をご覧ください。
監修者プロフィール
弁護士法人エース 代表弁護士
竹内 省吾
- 経歴
-
慶應義塾大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2011)
弁護士登録(2012)
第一東京弁護士会・こども法委員会 委員(2020まで)
三田法曹会 会員
日本交通法学会 会員
東京都子供の権利擁護調査員(2020まで)
静岡県弁護士会 会員(2020から2023まで)
第一東京弁護士会 会員(2023)
監修者プロフィール
弁護士法人エース 代表弁護士
成田 翼
- 経歴
-
明治大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2012)
弁護士登録(2013)
神奈川県弁護士会 所属
刑事弁護委員会 委員
三田法曹会 会員