強制執行・差押えの進め方|財産調査から回収完了までの流れ
「裁判で勝訴したのに、相手が支払ってくれない」「判決を得ても回収できないのではないか」——裁判で勝訴判決や支払督促を得ても、相手方が任意に支払わないケースは珍しくありません。
このような場合に利用するのが、強制執行(裁判所の力で強制的に回収する手続き)です。令和2年(2020年)の民事執行法改正により、相手方の財産を調査する手段が大幅に強化され、強制執行の実効性が高まっています。
この記事では、強制執行の種類から財産調査の方法、具体的な手続きの流れ、成功させるためのポイントまで、中小企業の経営者の方に向けて解説します。
強制執行とは
強制執行とは、確定判決などの「債務名義」に基づいて、裁判所を通じて相手方の財産を差し押さえ、強制的に債権を回収する手続きです。
強制執行に必要な条件
強制執行を行うには、以下の条件が必要です。
1. 債務名義があること
債務名義(強制執行の根拠となる公的な文書)には、以下のようなものがあります。
- 確定判決: 訴訟で得た判決が確定したもの
- 仮執行宣言付き判決: 確定前でも強制執行が可能な判決
- 仮執行宣言付き支払督促: 支払督促(裁判所を通じた支払い命令の申立て)が確定したもの
- 和解調書: 裁判上の和解が成立した場合の調書
- 調停調書: 民事調停が成立した場合の調書
- 公正証書: 執行認諾文言のある公正証書(公証人が作成する公文書)
2. 執行文の付与
債務名義に「執行文」(この文書に基づき強制執行できることを証明する文言)を付与してもらう必要があります。裁判所の書記官に申立てを行います。
3. 債務名義の送達証明
債務名義が相手方に送達されたことの証明書が必要です。
→ 法的手続きの選び方については「支払督促・少額訴訟・民事訴訟の使い分け|債権回収の法的手続き」をご覧ください。
強制執行の前に必要な財産調査
強制執行を成功させるためには、相手方のどの財産を差し押さえるかを事前に特定する必要があります。財産を特定できなければ、差し押さえることはできません。
自力でできる財産調査
- 登記情報の確認: 法務局で相手方名義の不動産登記を確認
- 商業登記の確認: 相手方の法人情報(本店所在地、役員構成など)を確認
- 取引情報の確認: これまでの取引で把握している相手方の銀行口座、取引先情報
財産開示手続(令和2年改正で強化)
財産開示手続とは、裁判所が相手方を呼び出し、保有する財産の情報を開示させる手続きです。
令和2年(2020年)の民事執行法改正により、大幅に強化されました。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 罰則 | 30万円以下の過料 | 6か月以下の懲役または50万円以下の罰金 |
| 申立てできる債務名義 | 確定判決等に限定 | 公正証書等にも拡大 |
改正により罰則が大幅に強化されたため、相手方が財産開示を拒否したり、虚偽の陳述をしたりするリスクが大きくなり、手続きの実効性が高まっています。
第三者からの情報取得手続(令和2年改正で新設)
令和2年の改正で最も注目されるのが、第三者からの情報取得手続です。これは、相手方本人ではなく、金融機関や公的機関から相手方の財産情報を直接取得できる制度です。
| 情報の種類 | 照会先 | 財産開示の前置 |
|---|---|---|
| 預貯金・上場株式等 | 銀行、証券会社 | 不要 |
| 不動産 | 法務局(登記所) | 必要 |
| 給与債権(勤務先) | 市町村、日本年金機構 | 必要 |
特に、預貯金の情報取得は財産開示手続の前置が不要であるため、比較的迅速に相手方の銀行口座を特定することが可能になりました。これにより、「口座が分からないから差し押さえができない」というハードルが大きく下がっています。
債権執行(銀行口座・売掛金の差押え)
最も利用される強制執行
債権執行は、相手方が第三者に対して持っている債権(預金、売掛金など)を差し押さえる手続きで、強制執行の中で最も多く利用されています。手続きの負担が比較的軽く、回収の確実性が高いのが特徴です。
銀行口座の差押え
銀行口座の差押えでは、差押命令が銀行に届いた時点の口座残高が差し押さえの対象になります。
手続きの流れは以下のとおりです。
- 差押命令の申立て: 裁判所に申立書を提出(銀行名・支店名を特定)
- 差押命令の発令: 裁判所が差押命令を発令し、銀行と相手方に送達
- 銀行からの回答: 銀行が口座残高を裁判所に回答
- 取立て: 差押命令送達から1週間経過後、債権者が銀行から直接取り立て
注意点: 差押えは申立て時点の残高のみが対象です。残高が少なければ、全額の回収ができない場合があります。複数の銀行口座がある場合は、それぞれ別途差押えの申立てが必要です。
売掛金の差押え
相手方が取引先に対して持っている売掛金も差押えの対象になります。例えば、相手方の主要取引先を把握している場合、その取引先に対する売掛金を差し押さえることで回収を図ることができます。
このような強制執行の手続きでお困りの場合は、弁護士法人エースにお気軽にご相談ください。経験豊富な弁護士が、経営者の視点に立って最適な回収方法をご提案いたします。
不動産執行
不動産執行とは、相手方が所有する不動産を差し押さえ、競売(裁判所が行う売却手続き)にかけて、その売却代金から債権を回収する手続きです。
手続きの流れ
- 強制競売の申立て: 裁判所に申立書と必要書類を提出
- 開始決定: 裁判所が競売開始決定を行い、差押えの登記がされる
- 評価・売却準備: 不動産の評価、物件明細書の作成
- 入札・売却: 期間入札により買受人が決まる
- 配当: 売却代金から債権者に配当
メリットと注意点
不動産は一般的に価値が高いため、高額な債権の回収に適しています。ただし、以下の点に注意が必要です。
- 手続きに時間がかかる: 申立てから配当まで6か月〜1年以上
- 費用が高い: 予納金(裁判所に事前に納める費用)として60万〜100万円程度が必要
- 抵当権がある場合: 先順位の抵当権者がいる場合、その者が優先的に配当を受けるため、回収額が減る可能性がある
- 無剰余取消し: 売却代金で先順位の担保権者の債権を弁済できない場合、競売手続きが取り消されることがある
動産執行
動産執行とは、相手方が所有する動産(機械設備、商品、什器備品など)を差し押さえて売却し、その代金から債権を回収する手続きです。
手続きの流れ
- 動産執行の申立て: 裁判所の執行官に申立て
- 執行官による差押え: 執行官が相手方の事業所等を訪問し、動産を差し押さえる
- 売却: 差し押さえた動産を競売等で売却
- 配当: 売却代金から債権者に配当
実務上の限界
動産執行は、実務上は回収手段としての効果は限定的です。
- 動産は価値が低いことが多い: 中古の什器備品や機械設備は、売却しても高額にならないケースが大半
- 差押禁止財産がある: 生活に必要な動産は差押えが禁止されている
- 心理的プレッシャーとしての効果: 執行官が事業所を訪問すること自体が相手方への強いプレッシャーとなり、任意の支払いにつながることがある
動産執行は、単独での回収手段としてよりも、他の執行手段と組み合わせる、あるいは心理的プレッシャーをかける手段として活用するケースが多いです。
強制執行を成功させるポイント
1. 財産調査を徹底する
強制執行の成否は、相手方の財産を的確に特定できるかどうかにかかっています。令和2年改正で導入された第三者からの情報取得手続を積極的に活用し、預貯金口座や不動産の情報を収集しましょう。
2. タイミングを見極める
強制執行は、相手方に知られる前に迅速に行うことが重要です。相手方が強制執行を予測して財産を移動・隠匿する前に手続きを進める必要があります。訴訟と並行して仮差押え(訴訟前に相手の財産を仮に差し押さえる手続き)を活用することも有効です。
3. 複数の手段を組み合わせる
銀行口座の差押えだけでは回収しきれない場合、売掛金の差押え、不動産執行などを組み合わせることで、回収の可能性が高まります。
4. 弁護士に依頼する
強制執行は、財産の特定、申立書の作成、関係機関との調整など、専門的な知識と実務経験が不可欠な手続きです。特に、第三者からの情報取得手続や仮差押えの活用には、弁護士のサポートがほぼ必須といえます。
弁護士法人エースでは、複数担当制による迅速な対応で、財産調査から強制執行まで一貫してサポートしています。所属弁護士は全員が通知税理士登録済みのため、回収不能と判断した場合の貸倒損失の計上など、税務面のアドバイスもワンストップで対応可能です。
まとめ
強制執行は、債権回収の最終手段として非常に重要な手続きです。令和2年の民事執行法改正により、財産調査の手段が強化され、以前よりも実効性が高まっています。以下のポイントを押さえておきましょう。
- 債務名義が必要: 確定判決、支払督促、公正証書などが強制執行の前提
- 財産調査が鍵: 財産開示手続・第三者からの情報取得手続を積極的に活用
- 債権執行が最も有効: 銀行口座や売掛金の差押えが実務上最も多い
- 不動産執行は高額債権向け: 手続きに時間と費用がかかるが、高額回収が可能
- タイミングと迅速さが重要: 財産の移動・隠匿を防ぐため、素早く手続きを進める
- 弁護士のサポートがほぼ必須: 専門的な手続きのため、弁護士への依頼が効果的
→ 債権回収の全体像については「債権回収とは?方法・流れ・弁護士活用のポイントを解説」をご覧ください。
弁護士法人エースでは、強制執行を含む債権回収に関するご相談を初回無料でお受けしています。LINE・電話・メールでお気軽にお問い合わせください。経営者のパートナーとして、財産調査から回収完了まで一貫してサポートいたします。
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監修者プロフィール
弁護士法人エース 代表弁護士
竹内 省吾
- 経歴
-
慶應義塾大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2011)
弁護士登録(2012)
第一東京弁護士会・こども法委員会 委員(2020まで)
三田法曹会 会員
日本交通法学会 会員
東京都子供の権利擁護調査員(2020まで)
静岡県弁護士会 会員(2020から2023まで)
第一東京弁護士会 会員(2023)
監修者プロフィール
弁護士法人エース 代表弁護士
成田 翼
- 経歴
-
明治大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2012)
弁護士登録(2013)
神奈川県弁護士会 所属
刑事弁護委員会 委員
三田法曹会 会員