支払督促・少額訴訟・民事訴訟の使い分け|債権回収の法的手続き
「内容証明郵便を送ったのに支払ってもらえない」「催促しても応じてくれない取引先がある」——任意の交渉で解決できない場合、次のステップは裁判所を利用した法的手続きです。
しかし、法的手続きにはいくつかの選択肢があり、それぞれ特徴が異なります。債権額や相手方の態度によって最適な手続きは変わるため、「どの手続きを選ぶか」が回収の成否を左右するといっても過言ではありません。
この記事では、支払督促・少額訴訟・通常訴訟(民事訴訟)・民事調停の特徴と使い分けの判断基準を、中小企業の経営者の方に向けて分かりやすく解説します。
INDEX
債権回収における法的手続きの全体像
債権回収の法的手続きとは、裁判所の手続きを通じて債権の回収を図る方法です。電話や書面での催促、内容証明郵便の送付といった任意交渉で解決できなかった場合に、法的手段へ移行します。
主な法的手続きは以下の4つです。
| 手続き | 概要 | 対象金額 | 裁判所出頭 | 期間目安 |
|---|---|---|---|---|
| 支払督促 | 書類審査のみで支払命令を出す手続き | 上限なし | 原則不要 | 1〜2か月 |
| 少額訴訟 | 原則1回の審理で判決を出す簡易な訴訟 | 60万円以下 | 1回 | 1〜2か月 |
| 通常訴訟 | 証拠に基づく本格的な裁判手続き | 上限なし | 複数回 | 6か月〜1年以上 |
| 民事調停 | 裁判所での話し合いによる解決 | 上限なし | 複数回 | 2〜3か月 |
どの手続きを選ぶかは、債権額、相手方が争う可能性があるか、回収のスピード、費用対効果を総合的に判断して決めることになります。
→ 法的手続きの前段階として有効な内容証明郵便の活用については「内容証明郵便で債権回収|書き方・効果・送付後の対応を解説」をご覧ください。
支払督促の手続きと特徴
支払督促とは
支払督促(しはらいとくそく)とは、裁判所を通じた支払い命令の申立てのことで、書類審査のみで裁判所から相手方に支払いを命じてもらう手続きです。裁判のように法廷に出向く必要がなく、書面のやり取りだけで進行するのが最大の特徴です。
金銭の支払いを求める場合に利用でき、請求金額の上限はありません。
手続きの流れ
- 申立て: 相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に申立書を提出
- 書記官の審査: 書類に問題がなければ、裁判所書記官が支払督促を発付
- 相手方への送達: 支払督促が相手方に届けられる
- 2週間の異議申立期間: 相手方が異議を申し立てなければ次のステップへ
- 仮執行宣言の申立て: 仮執行宣言付き支払督促を取得
- さらに2週間: 相手方が異議を申し立てなければ確定→強制執行が可能に
メリット
- 手続きが簡便: 申立書の作成が比較的容易で、裁判所に行く必要がない
- 費用が安い: 申立手数料は訴訟の半額(例:100万円の請求なら5,000円)
- 迅速: 相手方が異議を申し立てなければ、最短1か月程度で強制執行が可能
デメリット・注意点
- 相手方が異議を申し立てると通常訴訟に移行: 異議の申立てに理由は不要で、「異議があります」の一言で通常訴訟に移行してしまう
- 相手方の住所地の裁判所に申し立てる必要がある: 相手方が遠方の場合、移行後の訴訟対応が負担になることがある
- 相手方が行方不明の場合は利用できない: 支払督促は相手方に届く必要がある
適するケース
支払督促は、相手方が債務の存在や金額を争っていないが、支払いに応じない場合に特に有効です。典型的には、請求書を受け取っているのに支払わない取引先や、契約内容に争いがないケースが該当します。
少額訴訟の手続きと特徴
少額訴訟とは
少額訴訟とは、60万円以下の金銭の支払いを求める場合に利用できる簡易な訴訟手続きです。原則として1回の審理(期日)で判決が出るため、通常の訴訟よりも大幅に早く解決できます。
手続きの流れ
- 訴状の提出: 簡易裁判所に訴状と証拠書類を提出
- 審理期日: 原則1回の期日で、双方の主張を聞き、証拠を調べる
- 判決: 当日または直後に判決が言い渡される
- 強制執行: 判決確定後、相手方が支払わなければ強制執行が可能
メリット
- 迅速: 原則1回の期日で終了するため、申立てから1〜2か月で解決
- 手続きが分かりやすい: 通常訴訟より簡易で、定型の訴状用紙が用意されている
- 分割払いや支払猶予の判決も可能: 相手方の事情を考慮した柔軟な判決が出ることもある
デメリット・注意点
- 60万円を超える債権には利用できない: 請求額の上限が60万円
- 同じ裁判所での利用は年10回まで: 債権回収業務を大量に行う場合には制約がある
- 相手方が通常訴訟への移行を申し立てることがある: 相手方が移行を希望すれば通常訴訟になる
- 控訴ができない: 判決に不服がある場合は「異議申立て」のみ可能で、同じ裁判所で審理がやり直される
適するケース
少額訴訟は、60万円以下の売掛金で、契約書や請求書などの証拠がしっかり揃っている場合に適しています。例えば、未払いの業務委託費50万円を回収したい場合などが典型例です。
通常訴訟(民事訴訟)の手続きと特徴
通常訴訟とは
通常訴訟は、裁判所で証拠に基づく審理を行い、判決を得る最も正式な法的手続きです。請求金額の上限がなく、相手方が債権の存在や金額を争っている場合でも、証拠によって権利を認めてもらうことができます。
請求額が140万円以下の場合は簡易裁判所に、140万円を超える場合は地方裁判所に訴訟を提起します。
手続きの流れ
- 訴状の提出: 管轄裁判所に訴状と証拠を提出
- 口頭弁論: 月1回程度の期日で、双方が主張・反論を繰り返す
- 証拠調べ: 書証の取り調べ、証人尋問などを行う
- 和解勧試: 裁判所から和解(話し合いでの解決)を勧められることも多い
- 判決: 最終的に裁判所が判決を言い渡す
メリット
- 金額の上限がない: 数百万円〜数千万円の高額な債権でも対応できる
- 証拠に基づく公正な判断: 相手方が争っても、証拠によって権利が認められる
- 確定判決は強力な効力: 確定判決は「債務名義(強制執行の根拠となる公的な文書)」として、強制執行が可能になる
デメリット・注意点
- 時間がかかる: 一般的に6か月〜1年、複雑な事案では2年以上かかることもある
- 費用が高い: 裁判所手数料に加え、弁護士費用がかかる(弁護士に依頼する場合)
- 手続きが複雑: 訴状作成、準備書面の作成、証拠の整理など、専門的な対応が必要
適するケース
通常訴訟は、以下のような場合に適しています。
- 高額な債権(数百万円以上)を回収したい場合
- 相手方が債務の存在や金額を争っている場合
- 少額訴訟や支払督促で対応できない場合(金額超過・異議申立てなど)
民事調停による解決
民事調停とは、裁判所で調停委員を交えて話し合い、双方合意のうえで解決を目指す手続きです。裁判のように勝敗をつけるのではなく、歩み寄りによる解決を目的とする点が特徴です。
メリット
- 非公開: 訴訟と異なり、調停の内容は公開されない
- 柔軟な解決: 分割払いや支払条件の変更など、柔軟な合意が可能
- 取引関係の維持: 話し合いによる解決のため、取引関係を大きく損なわずに済む可能性がある
- 調停調書は判決と同じ効力: 合意が成立すると調停調書が作成され、これは確定判決と同一の効力を持つ
デメリット
- 合意できなければ終了: 相手方が調停に応じない場合や合意に至らない場合は、別途訴訟を提起する必要がある
- 拘束力がない段階での手続き: 調停を申し立てても、相手方に出頭義務はない(正当な理由なく出頭しない場合は5万円以下の過料)
適するケース
民事調停は、継続的な取引関係を維持したい場合や、相手方にも一定の言い分がある場合に適しています。全面的に争うのではなく、落としどころを見つけたいケースで有効です。
このような法的手続きの選択でお悩みの場合は、早めに専門家へご相談されることをおすすめします。弁護士法人エースでは、経営者の視点に立った実践的なアドバイスを行っています。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
仮差押えの活用——訴訟前の財産保全
法的手続きと合わせて知っておきたいのが、仮差押え(訴訟前に相手の財産を仮に差し押さえる手続き)です。
仮差押えの必要性
訴訟には時間がかかります。その間に相手方が財産を処分・隠匿してしまうと、せっかく勝訴判決を得ても回収できないという事態になりかねません。仮差押えは、訴訟の判決が出る前に、相手方の銀行口座や不動産などの財産を仮に押さえて、処分できないようにする手続きです。
仮差押えの要件
仮差押えが認められるには、以下の2つの要件を裁判所に疎明(一応の証明)する必要があります。
- 被保全権利の存在: 請求する債権が存在すること
- 保全の必要性: 仮差押えをしなければ将来の強制執行が困難になるおそれがあること
また、裁判所から担保金の提供(法務局への供託)を求められます。担保金は、請求額の10〜30%程度が目安です。
仮差押えの効果
仮差押えには、財産保全の効果に加えて、心理的なプレッシャーの効果もあります。銀行口座が仮差押えされると取引に支障が出るため、相手方が任意の支払いに応じるケースも少なくありません。
手続きの選び方——判断基準と使い分けフローチャート
「どの手続きを選べばよいか」を判断するために、以下のフローチャートを参考にしてください。
判断基準
| 判断ポイント | 支払督促 | 少額訴訟 | 通常訴訟 | 民事調停 |
|---|---|---|---|---|
| 債権額 | 上限なし | 60万円以下 | 上限なし | 上限なし |
| 相手が争う可能性 | 低い場合◎ | 低い場合◎ | 高い場合◎ | 協議余地あり◎ |
| スピード | ◎ | ◎ | △ | ○ |
| 費用 | ◎(最安) | ○ | △ | ○ |
| 取引関係の維持 | △ | △ | × | ◎ |
| 強制執行力 | ○(確定後) | ○ | ◎ | ○(調停成立後) |
使い分けの目安
ケース1:相手が争わない見込みで、早く回収したい
→ 支払督促がおすすめ。費用が安く、手続きも簡便です。
ケース2:60万円以下の債権で、証拠が揃っている
→ 少額訴訟がおすすめ。1回の審理で解決でき、迅速です。
ケース3:高額債権、または相手が金額・内容を争っている
→ 通常訴訟を選択。証拠に基づいてしっかり主張できます。必要に応じて仮差押えも検討しましょう。
ケース4:取引先との関係を維持したい、柔軟な解決を望む
→ 民事調停を検討。歩み寄りによる解決で、取引関係への影響を最小限にできます。
ケース5:相手方が財産を隠すおそれがある
→ 訴訟と並行して仮差押えを活用。判決前に財産を確保できます。
→ 弁護士費用の具体的な相場については「債権回収の弁護士費用|費用相場と費用倒れを防ぐポイント」をご覧ください。
法的手続きの費用の目安
法的手続きを選ぶ際は、費用対効果の観点も重要です。主な費用の目安は以下のとおりです。
| 手続き | 裁判所手数料(100万円の場合) | 弁護士費用の目安 |
|---|---|---|
| 支払督促 | 5,000円 | 10万〜20万円程度 |
| 少額訴訟 | 10,000円(60万円の場合6,000円) | 10万〜20万円程度 |
| 通常訴訟 | 10,000円 | 着手金20万〜50万円+報酬金 |
| 民事調停 | 5,000円 | 10万〜30万円程度 |
| 仮差押え | 2,000円 | 20万〜30万円程度+担保金 |
※弁護士費用は目安であり、事案の内容や弁護士事務所によって異なります。
少額の債権では、弁護士費用が回収額を上回る「費用倒れ」のリスクもあります。弁護士に相談する際は、回収の見込みと費用対効果を率直に確認することが大切です。
法的手続きを弁護士に依頼するメリット
支払督促や少額訴訟は、法律上は本人(自社)でも申し立てることが可能です。しかし、弁護士に依頼することで以下のメリットがあります。
1. 最適な手続きの選択
債権額、相手方の態度、証拠の状況、取引関係の有無など、さまざまな要素を考慮して最適な法的手続きを選択するには、専門的な判断が必要です。弁護士は、費用対効果まで含めた経営判断としてのアドバイスが可能です。
2. 手続きの確実な遂行
書類の不備による却下や、期限の徒過(とか)による不利益を防ぐことができます。特に通常訴訟では、主張の組み立てや証拠の提出方法が結果を大きく左右します。
3. 相手方との交渉力
弁護士が代理人として就くことで、訴訟中の和解交渉でも有利に進められる可能性が高まります。相手方も弁護士が出てくることで、真剣に対応せざるを得なくなります。
4. 本業への影響を最小限に
法的手続きには、書類の作成、裁判所への出頭、期日の管理など、多くの時間と労力が必要です。弁護士に任せることで、経営者の方は本業に集中できます。
弁護士法人エースでは、複数担当制による迅速な対応で、債権回収の法的手続きをフルサポートしています。「どの手続きを選べばよいか分からない」というご相談から、手続きの申立て、相手方との交渉、強制執行まで一貫して対応いたします。
→ 強制執行の具体的な手続きについては「強制執行・差押えの進め方|財産調査から回収完了までの流れ」をご覧ください。
まとめ
債権回収の法的手続きには、支払督促・少額訴訟・通常訴訟・民事調停の4つの選択肢があります。回収を成功させるためには、以下のポイントを押さえておきましょう。
- 支払督促: 相手が争わない場合に最も簡便・低コスト
- 少額訴訟: 60万円以下で証拠が揃っていれば迅速に解決
- 通常訴訟: 高額債権や相手が争う場合の正攻法
- 民事調停: 取引関係の維持を重視する場合に有効
- 仮差押え: 財産隠しのおそれがある場合は訴訟と並行して検討
- 費用対効果: 回収見込みと費用のバランスを事前に確認
大切なのは、「とにかく裁判を起こす」のではなく、状況に応じた最適な手続きを選ぶことです。判断に迷ったら、弁護士に相談して費用対効果も含めたアドバイスを受けることをおすすめします。
→ 債権回収の全体像については「債権回収とは?方法・流れ・弁護士活用のポイントを解説」をご覧ください。
弁護士法人エースでは、債権回収の法的手続きに関するご相談を初回無料でお受けしています。LINE・電話・メールでお気軽にお問い合わせください。経営者のパートナーとして、最適な法的手続きの選択から回収完了まで一貫してサポートいたします。
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監修者プロフィール
弁護士法人エース 代表弁護士
竹内 省吾
- 経歴
-
慶應義塾大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2011)
弁護士登録(2012)
第一東京弁護士会・こども法委員会 委員(2020まで)
三田法曹会 会員
日本交通法学会 会員
東京都子供の権利擁護調査員(2020まで)
静岡県弁護士会 会員(2020から2023まで)
第一東京弁護士会 会員(2023)
監修者プロフィール
弁護士法人エース 代表弁護士
成田 翼
- 経歴
-
明治大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2012)
弁護士登録(2013)
神奈川県弁護士会 所属
刑事弁護委員会 委員
三田法曹会 会員