下請法の禁止行為と違反事例|買いたたき・減額・受領拒否を防ぐ方法
「年度末のコスト見直しで外注先に値下げをお願いしただけなのに、下請法違反と指摘された」——このような事態は決して珍しくありません。下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)には委託事業者(親事業者)がやってはならない禁止行為が詳細に定められており、知らないうちに違反しているケースが後を絶ちません。
令和6年度(2024年度)には公正取引委員会による勧告が21件、指導が8,230件にのぼり、過去最多の勧告件数を記録しています。さらに2026年1月の改正(取適法への移行)では新たな禁止行為も追加されました。この記事では、下請法の禁止行為の全容と具体的な違反事例、そして違反を防ぐための実務対策を解説します。
INDEX
下請法で禁止される11の行為
下請法では、委託事業者(親事業者(改正法では「委託事業者」))に対して以下の11の禁止行為が定められています。いずれも中小受託事業者(下請事業者(改正法では「中小受託事業者」))の利益を不当に害する行為として禁止されるものです。
代金・支払いに関する禁止行為
| 禁止行為 | 内容 |
|---|---|
| 支払遅延 | 物品等の受領日から60日以内に定めた支払期日までに代金を支払わない |
| 代金の減額 | 発注時に決定した代金を、発注後に一方的に減額する |
| 買いたたき(通常の対価に比べて著しく低い代金での発注) | 通常支払われる対価に比べて著しく低い代金を不当に定める |
| 有償支給原材料等の早期決済 | 有償支給した原材料等の対価を、製品代金の支払いより早く決済する |
| 割引困難な手形の交付 | 一般の金融機関で割り引くことが困難な手形を交付する |
物品・役務に関する禁止行為
| 禁止行為 | 内容 |
|---|---|
| 受領拒否 | 中小受託事業者に責任がないのに、発注した物品等の受領を拒否する |
| 返品 | 受領した物品等を不当に返品する |
| 不当なやり直し等 | 費用を負担せずに、やり直しや追加作業を要求する |
その他の禁止行為
| 禁止行為 | 内容 |
|---|---|
| 購入・利用強制 | 指定する製品の購入や、保険・リース等の利用を強制する |
| 不当な経済上の利益の提供要請 | 金銭、役務等を不当に提供させる |
| 報復措置 | 公正取引委員会等への通報を理由に不利益な扱いをする |
これら11の禁止行為は、取引の相手方である中小受託事業者の同意や了解があったとしても違反となります。形式的な「同意書」を取得していても免責にはなりません。
【2026年改正】新設された禁止行為
2026年1月1日に施行された取適法(中小受託取引適正化法)への改正では、従来の11の禁止行為に加えて、以下の行為が新たに禁止されました。
一方的な代金決定の禁止
中小受託事業者から原材料費や人件費の上昇を理由とする価格協議の申し入れがあった場合に、協議に応じない、または必要な説明・情報提供を行わずに一方的に代金を決定する行為が禁止されました。
従来は「買いたたき」として規制されていた行為の中でも、特に価格転嫁の協議に応じないケースを明確に違反として位置づけたものです。中小企業が賃上げの原資を確保できるよう、サプライチェーン全体での適正な価格転嫁を実現する狙いがあります。
振込手数料の差引き禁止
代金の支払い時に、振込手数料を中小受託事業者の負担として差し引く行為が明確に禁止されました。
従来から代金の減額として指導の対象ではありましたが、改正により条文上も明文化されています。振込手数料を差し引いて支払っていた企業は、すでに施行済みのため早急な対応が求められます。
手形払いの原則禁止
手形による支払いが原則として禁止されました。現金払いまたは電子記録債権への移行が必要です。
→ 改正全体の詳細については「2026年改正で下請法が取適法に|変更点と企業が取るべき対応」をご覧ください。
よくある違反事例と公正取引委員会の勧告事例
公正取引委員会は毎年、委託事業者と中小受託事業者の双方に対して書面調査を実施し、違反行為の是正を図っています。ここでは、代表的な違反パターンと実際の勧告事例を紹介します。
代金の減額による違反
事例:ビックカメラ(2025年2月勧告)
ビックカメラは中小受託事業者51社に対し、「拡売費」「販売支援金」などの名目で約5億5,746万円を一方的に代金から減額していました。約1年間にわたり継続していた行為が、代金減額の禁止に該当するとして勧告を受けました。
この事例が示すように、「値引き」「協力金」「リベート」などの名目であっても、発注後に一方的に代金を差し引く行為は下請法違反に該当します。
事例:ナイス株式会社(2024年10月勧告)
ナイス株式会社は「仕入割引」の名目で中小受託事業者34社の代金から合計約2,320万円を減額し、勧告を受けました。
買いたたきによる違反
事例:KADOKAWA(2024年勧告)
大手出版社KADOKAWAと子会社は、雑誌の記事作成や写真撮影を担当する中小受託事業者に対して、十分な協議を行わずに発注単価を最大約39.4%引き下げました。買いたたき(通常の対価に比べて著しく低い代金での発注)に該当するとして勧告されています。
不当な経済上の利益の提供要請による違反
事例:カヤバ株式会社(2025年4月勧告)
カヤバ株式会社は、中小受託事業者167社に対して5,756品番の金型等を無償で保管させていたとして勧告を受けました。金型の無償保管は、不当な経済上の利益の提供要請に該当します。
令和6年度には同様の金型無償保管に関する勧告が11件に達しており、製造業において特に注意が必要な違反パターンです。
受領拒否による違反
事例:シャトレーゼ(2025年3月勧告)
洋菓子メーカーのシャトレーゼは、中小受託事業者11社に対し約2,383万円分の製品を正当な理由なく受領せず、さらに無償での商品保管を求めていたとして勧告を受けました。
このような下請法の禁止行為でお悩みの場合は、早めに専門家へご相談されることをおすすめします。弁護士法人エースでは、経営者の視点に立った実践的なアドバイスを行っています。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
→ 違反時のペナルティの詳細は「下請法違反のペナルティ|勧告・公表・罰金と企業が受けるリスク」をご覧ください。
「中小受託事業者の了解があっても違反」に注意
下請法の禁止行為で最も誤解されやすいのが、中小受託事業者の了解や同意があっても違反が成立するという点です。
なぜ同意があっても違反になるのか
下請法は、委託事業者と中小受託事業者の間に構造的な力の格差があることを前提としています。取引の継続を望む中小受託事業者は、不利な条件であっても受け入れざるを得ないケースが多いため、形式的な「同意」では保護が不十分だと考えられているのです。
注意が必要な具体的ケース
- 「取引先も了承済みだから問題ない」: 合意書や覚書を交わしていても、代金の減額や買いたたきが認められれば違反です
- 「お互い了解のうえで振込手数料を差し引いている」: 事前の合意の有無にかかわらず、振込手数料の差引きは禁止です
- 「下請事業者から値下げの申し出があった」: 発注者側からの事実上の圧力がなかったか、実態に即して判断されます
- 「業界の商慣習だから」: 商慣習であっても、下請法に違反する行為は認められません
公正取引委員会は「取引先の同意を得ている」「慣行だった」との主張を理由に違反を免れることはできないという立場を一貫して取っています。自社の取引慣行を見直す際には、この点を十分に認識しておくことが重要です。
禁止行為を防ぐための実務対策
下請法違反は意図的な不正行為だけでなく、社内の認識不足や慣行によって「気づかないうちに違反していた」というケースが多いのが実態です。以下の実務対策を講じることで、違反リスクを低減できます。
取引基本契約書・発注書の見直し
禁止行為の多くは、取引条件の設定段階で防ぐことができます。
- 代金の決定方法が適正か(買いたたきに該当しないか)
- 支払条件が60日以内のルールに適合しているか
- 振込手数料の負担について下請法に適合した条項になっているか
- 返品や受領拒否に関する条件が適切に定められているか
→ 取引基本契約書の見直しについては「取引基本契約書の作成・見直しガイド|自社を守るポイント」をご覧ください。
発注フローのチェックポイント整備
日常の発注業務において、以下のチェックポイントを設けることが有効です。
- 発注時: 代金額は通常の対価と比較して適正か、一方的に決定していないか
- 仕様変更時: 追加費用を負担する体制になっているか
- 納品時: 合理的な理由なく受領を拒否していないか
- 支払時: 当初の代金額から不当に減額していないか、振込手数料を差し引いていないか
社内研修の実施
購買・調達部門を中心に、下請法の禁止行為に関する社内研修を定期的に実施しましょう。特に、以下の点は現場の担当者に周知することが重要です。
- 「了解があっても違反」であること
- 名目を問わず代金から差し引く行為は減額に該当し得ること
- 取引先への値下げ要請が買いたたきに該当する可能性があること
→ 社内体制の構築やコンプライアンス研修の進め方については「下請法の社内体制構築と弁護士活用|コンプライアンス強化の実務ガイド」をご覧ください。
中小受託事業者(下請側)の保護と対応
下請法は委託事業者に対する規制だけでなく、中小受託事業者を保護する仕組みも設けています。取引先から不当な要求を受けている場合には、以下の手段を活用できます。
公正取引委員会への申告
委託事業者の禁止行為について、公正取引委員会に直接申告することができます。申告は書面だけでなくオンラインでも可能です。
下請法には報復措置の禁止が定められており、申告したことを理由に取引の停止や発注量の減少といった不利益な扱いをすることは禁止されています。
下請かけこみ寺の活用
中小企業庁が設置する「下請かけこみ寺」では、取引に関する相談を無料で受け付けています。全国48か所に拠点があり、弁護士等の専門家が対応します。相談内容は秘密厳守で、取引先に知られることなく相談できます。
書面調査への正確な回答
公正取引委員会は毎年、中小受託事業者に対しても書面調査を実施しています。実態を正確に回答することが、自社の権利を守ることにつながります。
中小受託事業者として不当な要求を受けている場合にも、弁護士に相談することで適切な対応方法を検討できます。弁護士法人エースでは、委託する側・受託する側の両方の立場から、下請法に関するアドバイスを行っています。
まとめ
下請法の禁止行為は、企業が日常的な取引の中で無意識に違反してしまうリスクがある重要なテーマです。この記事のポイントを整理します。
- 11の禁止行為: 代金減額・買いたたき・受領拒否・返品・支払遅延など、委託事業者がやってはならない行為が定められている
- 2026年改正の追加: 一方的な代金決定の禁止、振込手数料の差引き禁止、手形払いの原則禁止が新設された
- 了解があっても違反: 中小受託事業者の同意や商慣習は免責の理由にならない
- 勧告件数の増加: 令和6年度は勧告21件・指導8,230件と取り締まりが強化されている
- 実務対策が重要: 取引基本契約書の見直し、発注フローのチェック、社内研修の実施が有効
- 中小受託事業者の保護: 公正取引委員会への申告や下請かけこみ寺の活用で権利を守ることができる
「自社の取引条件が禁止行為に該当しないか不安」「公正取引委員会からの調査にどう対応すべきかわからない」——このようなお悩みがある方は、早めに専門家にご相談ください。
→ 下請法全般については「下請法(取適法)とは?企業が知るべきルールと対策を弁護士が解説」をご覧ください。
弁護士法人エースでは、下請法の禁止行為に関するご相談を初回無料でお受けしています。
- 複数弁護士・パラリーガルによる迅速対応
- LINE・電話・メールでいつでも相談可能
- 経営者のパートナーとして伴走
お問い合わせ
電話相談受付:0120-419-155(年中無休 8:00〜22:00)
監修者プロフィール
弁護士法人エース 代表弁護士
竹内 省吾
- 経歴
-
慶應義塾大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2011)
弁護士登録(2012)
第一東京弁護士会・こども法委員会 委員(2020まで)
三田法曹会 会員
日本交通法学会 会員
東京都子供の権利擁護調査員(2020まで)
静岡県弁護士会 会員(2020から2023まで)
第一東京弁護士会 会員(2023)
監修者プロフィール
弁護士法人エース 代表弁護士
成田 翼
- 経歴
-
明治大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2012)
弁護士登録(2013)
神奈川県弁護士会 所属
刑事弁護委員会 委員
三田法曹会 会員