取締役の責任追及と防御策|株主代表訴訟・D&O保険の活用法

  • 2026/6/11

「取締役として損害賠償を請求されることはあるのか」「株主代表訴訟を起こされたらどうなるのか」「責任リスクに備える方法はあるのか」——経営者にとって、取締役の責任追及は見過ごせないリスクです。取締役は、善管注意義務や忠実義務に違反して会社に損害を与えた場合、個人として損害賠償責任を負う可能性があります。しかし、適切な防御策を講じておくことで、リスクを大幅に軽減できます。本記事では、取締役が責任を追及されるケース、株主代表訴訟の仕組み、責任を軽減する方法(責任限定契約・D&O保険)まで、経営者が知っておくべき知識を詳しく解説します。

取締役が責任を追及されるケース

取締役が責任を追及される法的根拠は、大きく分けて以下の3つです。

会社に対する責任(会社法423条)

取締役がその任務を怠ったとき(任務懈怠)、これによって会社に生じた損害を賠償する責任を負います。いわゆる「任務懈怠責任」です。

具体的には以下のようなケースが該当します。

  • 取締役会の承認を得ずに行った利益相反取引で会社に損害が生じた場合
  • 経営判断を誤り、会社に多額の損失をもたらした場合(経営判断の原則に反する場合)
  • 他の取締役の不正行為を見逃した(監視義務違反の)場合
  • 法令・定款に違反する行為を行った場合

第三者に対する責任(会社法429条)

取締役がその職務を行うについて悪意または重大な過失があった場合、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います。

この責任は会社の債権者等に対するものであり、例えば、以下のようなケースで問われます。

  • 粉飾決算を行い、取引先に損害を与えた場合
  • 経営悪化を知りながら新たな借入れを行い、返済不能となった場合
  • 欠陥商品を故意に出荷し、消費者に損害を与えた場合

株主代表訴訟

株主代表訴訟(株主が会社に代わって取締役の責任を追及する訴訟)は、会社が取締役に対する損害賠償請求を行わない場合に、株主が会社に代わって訴訟を提起する制度です(会社法847条)。

取締役の善管注意義務・忠実義務の基本については、『取締役の責任と義務』で解説しています。

株主代表訴訟の仕組み

提訴の要件

株主代表訴訟を提起できるのは、以下の要件を満たす株主です。

  • 6ヶ月前から引き続き株式を保有していること(公開会社の場合)
  • 非公開会社では保有期間の制限なし
  • 1株でも保有していれば提訴可能

提訴の手続き

  1. 株主が会社に対し、取締役への訴訟提起を書面で請求
  2. 会社が請求の日から60日以内に訴訟を提起しない場合
  3. 株主自らが会社のために訴訟を提起

近年の傾向

株主代表訴訟は、かつては大企業を対象とするものが中心でしたが、近年は中小企業でも増加傾向にあります。特に、共同経営者間の紛争親族間の経営権争いの場面で、株主代表訴訟が利用されるケースが目立ちます。

中小企業の経営者にとって、株主代表訴訟は「他人事」ではなく、現実のリスクとして認識しておく必要があります。

会社法423条に基づく損害賠償責任

任務懈怠責任の構造

取締役の任務懈怠責任が成立するためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。

  1. 任務懈怠の事実: 取締役が法令・定款・善管注意義務に違反したこと
  2. 損害の発生: 会社に損害が生じたこと
  3. 因果関係: 任務懈怠と損害の間に因果関係があること
  4. 帰責事由: 取締役に故意または過失があること

経営判断の原則による保護

すべての経営判断の失敗が責任につながるわけではありません。「経営判断の原則」(合理的な判断過程を経た経営判断は尊重されるという考え方)により、以下の条件を満たす場合は責任を問われないとされています。

  • 判断の前提となる事実認識に不注意な誤りがない
  • 判断の過程・内容が著しく不合理でない

つまり、必要な情報を収集し、合理的な検討を経た上での判断であれば、結果として損失が生じても直ちに責任を問われるわけではありません。ただし、この原則に安易に依拠するのは危険です。

会社法429条に基づく第三者への責任

第三者に対する責任の特徴

会社法429条の責任は、通常の不法行為責任(民法709条)とは異なる特殊な法定責任です。

  • 悪意または重大な過失が要件(軽過失では責任を負わない)
  • 会社の債権者、取引先、従業員など広範な第三者が請求可能
  • 取締役個人の財産が対象(法人格の遮断に近い効果)

名目的取締役の責任

「名前だけの取締役」であっても、取締役として登記されている以上、善管注意義務や忠実義務を負います。名目的取締役が経営の監視を怠り、会社が第三者に損害を与えた場合、名目的取締役も損害賠償責任を負う可能性があります。

取締役の責任追及に関するお悩みは、早めに専門家へご相談されることをおすすめします。弁護士法人エースでは、経営者の視点に立った実践的なアドバイスを行っています。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

責任を軽減する方法

取締役の責任リスクに備えるため、会社法はいくつかの軽減制度を用意しています。

責任の一部免除(株主総会決議)

株主総会の特別決議により、取締役の責任を一部免除することができます(会社法425条)。ただし、免除後の責任額は以下の最低責任限度額を下回ることはできません。

役職 最低責任限度額
代表取締役 報酬等の6年分
代表取締役以外の業務執行取締役 報酬等の4年分
社外取締役・非業務執行取締役 報酬等の2年分

責任限定契約

非業務執行取締役(社外取締役等)は、あらかじめ会社との間で責任限定契約を締結しておくことで、損害賠償責任の限度額を定めることができます(会社法427条)。

責任限定契約の要件は以下のとおりです。

  • 定款に責任限定契約を締結できる旨の定めがあること
  • 契約の対象は非業務執行取締役に限られること
  • 限度額は定款で定めた額と最低責任限度額のいずれか高い方

社外取締役に就任してもらう際の交渉材料としても、責任限定契約の制度は重要です。

取締役会決議による免除

定款に定めがある場合、取締役会の決議によって取締役の責任を一部免除することもできます(会社法426条)。ただし、この制度は株主からの異議申述の手続きが必要です。

D&O保険(会社役員賠償責任保険)の活用

D&O保険とは

D&O保険(会社役員賠償責任保険)とは、取締役等の役員がその職務の執行に関して損害賠償責任を負った場合に、賠償金や争訟費用(弁護士費用等)を補償する保険です。

補償の対象

補償対象 内容
損害賠償金 法律上の賠償責任を負った場合の賠償金
争訟費用 弁護士費用、裁判所手数料、調査費用
対象外 罰金、過料、故意の不法行為による賠償金

保険料の目安

D&O保険の保険料は、会社の規模、業種、付保額(補償限度額)等によって異なりますが、中小企業の場合は年間数十万円程度から加入できるケースが多いです。

2021年改正会社法によるD&O保険の規定

2021年施行の改正会社法により、D&O保険に関する規定が新設されました(会社法430条の3)。主なポイントは以下のとおりです。

  • D&O保険の内容は取締役会の決議(取締役会非設置会社では株主総会の決議)で決定
  • 社外取締役が選任されている場合、社外取締役の意見を聴くことが望ましい

D&O保険加入の流れ

  1. 保険会社に見積もりを依頼
  2. 補償内容・限度額・保険料を比較検討
  3. 取締役会で加入を決議
  4. 保険契約を締結

D&O保険は、取締役の就任リスクを軽減し、優秀な人材を社外取締役として招聘するための前提条件としても機能します。

弁護士に取締役の責任問題を相談するメリット

予防法務のサポート

弁護士法人エースでは、取締役の責任リスクを未然に防ぐための予防法務をサポートしています。取締役会の運営体制の整備、議事録作成の適正化、内部統制システムの構築など、責任追及を受けにくい経営体制の構築をお手伝いします。

経営者としての実体験に基づくアドバイス

代表弁護士は複数法人の代表を兼任する経営者でもあります。「法的には正しいが経営的には得策ではない」といった場面でも、経営と法律の両面からバランスの取れたアドバイスが可能です。

ワンストップ対応

グループ内に社労士法人を持ち、所属弁護士は全員が通知税理士登録済みです。労務問題に起因する取締役の責任追及(未払い残業代問題等)や、税務関連の責任問題についても、ワンストップで対応できます。

まとめ

取締役の責任追及と防御策について解説しました。本記事のポイントを整理します。

  • 取締役の責任:会社に対する責任(423条)、第三者への責任(429条)、株主代表訴訟
  • 株主代表訴訟は中小企業でも増加傾向(共同経営者間の紛争等)
  • 経営判断の原則により、合理的なプロセスを経た判断は保護される
  • 責任軽減の方法:責任の一部免除責任限定契約D&O保険
  • D&O保険は年間数十万円程度から加入可能、取締役会決議が必要
  • 名目的取締役も責任を負うことに注意

→ 取締役会全般については『取締役会とは?設置義務・運営方法・決議事項を弁護士が解説』をご覧ください。

弁護士法人エースでは、取締役の責任問題に関するご相談を初回無料でお受けしています。

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電話相談受付:0120-419-155(年中無休 8:00〜22:00)

監修者プロフィール

成田 翼

弁護士法人エース 代表弁護士

竹内 省吾

経歴
慶應義塾大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2011)
弁護士登録(2012)
第一東京弁護士会・こども法委員会 委員(2020まで)
三田法曹会 会員
日本交通法学会 会員
東京都子供の権利擁護調査員(2020まで)
静岡県弁護士会 会員(2020から2023まで)
第一東京弁護士会 会員(2023)

監修者プロフィール

成田 翼

弁護士法人エース 代表弁護士

成田 翼

経歴
明治大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2012)
弁護士登録(2013)
神奈川県弁護士会 所属
刑事弁護委員会 委員
三田法曹会 会員

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