事業承継の税金と自社株評価|事業承継税制の活用ポイント

  • 2026/6/11

事業承継を検討する中小企業の経営者にとって、避けて通れないのが税金の問題です。親族内承継では贈与税や相続税、M&Aでは譲渡所得税や法人税など、承継方法によって発生する税金の種類も税額も大きく異なります。特に、自社株評価額が想定以上に高額になっている企業では、後継者に多額の税負担がのしかかり、承継そのものが困難になるケースも少なくありません。

この記事では、事業承継で発生する税金の全体像から、自社株評価の方法と評価額を下げる対策、事業承継税制(非上場株式等の贈与税・相続税の納税猶予制度)の活用ポイントまで、中小企業の経営者が知っておくべき税務知識を解説します。

事業承継にかかる税金の種類

事業承継で発生する税金は、承継の方法によって異なります。まずは全体像を把握しましょう。

贈与税

先代経営者が存命中に自社株式を後継者に無償で移転する場合、後継者に贈与税が課されます。贈与税は累進課税であり、評価額が高いほど税率も高くなります(最高税率55%)。暦年贈与の場合、年間110万円の基礎控除額を超えた部分が課税対象です。

相続税

先代経営者の死亡により自社株式を後継者が相続する場合、相続税が発生します。相続税も累進課税で最高税率は55%です。遺産総額から基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)を差し引いた部分が課税対象となります。

所得税(譲渡所得)

M&Aにおいて株式譲渡を行う場合、売り手(個人)に対して譲渡所得税が課されます。非上場株式の譲渡所得に対する税率は、所得税15.315%(復興特別所得税含む)+住民税5%の合計約20.315%です。贈与税・相続税と比べて税率が低い点がM&Aの税務上のメリットのひとつです。

法人税・消費税

事業譲渡の場合、譲渡益に対して法人税(実効税率約30%前後)が課されます。また、事業譲渡では土地・有価証券などを除き、譲渡対象資産に消費税がかかる点にも注意が必要です。

承継方法別の税金一覧

承継方法 主な税金 税率の目安
贈与による承継 贈与税 10%〜55%(累進課税)
相続による承継 相続税 10%〜55%(累進課税)
M&A(株式譲渡・個人) 所得税+住民税 約20.315%(分離課税)
M&A(事業譲渡・法人) 法人税+消費税 法人税実効税率 約30%

→ 承継方法の選び方については『事業承継の3つの種類と選び方|親族内・社内・M&Aの比較』をご覧ください。

自社株評価の方法と評価額を下げる対策

事業承継の税負担を考えるうえで、もっとも重要な要素が自社株評価です。非上場の中小企業の株式は市場価格が存在しないため、国税庁の定める財産評価基本通達に基づいて評価されます。

3つの評価方式

非上場株式の評価方法は、主に以下の3つです。会社の規模(従業員数・総資産額・売上高)によって適用される方式が異なります。

類似業種比準方式

上場している類似業種の株価をもとに、「1株あたりの配当金額」「1株あたりの年利益金額」「1株あたりの純資産価額」の3要素を比較して評価する方法です。大会社では原則としてこの方式が適用されます。

純資産価額方式

会社の保有する資産を相続税評価額で再評価し、負債を差し引いた純資産額をもとに株価を算定する方法です。小会社では原則としてこの方式が適用されます。

配当還元方式

年間配当金額をもとに株価を評価する方法です。少数株主(同族株主以外)が株式を取得する場合に適用されます。一般的に評価額が低くなりますが、事業承継の場面では原則として適用されません。

会社規模と評価方式の関係

会社規模 類似業種比準方式 純資産価額方式
大会社 100%
中会社の大 90% 10%
中会社の中 75% 25%
中会社の小 60% 40%
小会社 100%

※いずれの場合も、純資産価額方式で計算した金額を上限として選択できます。

評価額を下げる主な対策

自社株の評価額を合法的に引き下げることで、事業承継時の税負担を軽減できます。以下は代表的な対策です。

利益の圧縮

類似業種比準方式では「1株あたりの利益」が評価の重要な要素です。役員退職金の支給や設備投資の前倒しにより、一時的に利益を圧縮することで評価額を引き下げられる場合があります。

配当政策の見直し

配当金額も評価の三要素のひとつです。配当を減らす(またはゼロにする)ことで、類似業種比準方式による評価額を下げる効果が期待できます。

会社規模の区分変更

従業員数や総資産額の増加により、小会社から中会社・大会社に区分が変わると、類似業種比準方式の比重が高まります。一般的に類似業種比準方式のほうが評価額が低くなるケースが多いため、会社規模の区分変更を検討する余地があります。

不動産の活用

含み損のある資産への組み替えや収益不動産の取得により、純資産価額を調整する手法もあります。

いずれの対策も税務上のリスクを伴う可能性があるため、具体的な実行にあたっては税理士・弁護士などの専門家に相談のうえ進めることをおすすめします。

事業承継税制(特例措置)の概要と要件

事業承継税制とは、後継者が先代経営者から非上場株式を贈与・相続により取得した際に、贈与税・相続税の納税が猶予され、一定の条件を満たせば免除される制度です。「一般措置」と「特例措置」の2種類がありますが、ここでは期間限定で大幅に有利な「特例措置」を中心に解説します。

一般措置と特例措置の比較

項目 一般措置 特例措置
対象株式数 発行済株式総数の2/3まで 全株式(上限なし)
納税猶予割合 贈与100%・相続80% 贈与・相続とも100%
後継者の人数 1人のみ 最大3人まで
雇用確保要件 5年平均で8割維持が必須 実質的に撤廃
適用期限 期限なし 2027年12月31日まで
事前計画の提出 不要 2027年9月30日まで

特例措置を利用すれば、贈与税・相続税の実質的な負担をゼロにすることが可能です。

特例措置の適用要件

特例措置の適用を受けるには、主に以下の要件を満たす必要があります。

会社の要件

  • 中小企業者であること(資本金・従業員数の基準あり)
  • 非上場会社であること
  • 風俗営業会社でないこと
  • 資産管理会社に該当しないこと

先代経営者の要件

  • 会社の代表者であったこと
  • 贈与時に代表者を退任すること(贈与の場合)

後継者の要件

  • 贈与時(相続時)に会社の代表者であること
  • 贈与時に18歳以上であること
  • 2025年改正により、従来必要だった「3年以上の役員就任実績」の要件は撤廃されています

申請手続きの流れ

  1. 特例承継計画の作成・提出: 認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けたうえで、本店所在地の都道府県庁に特例承継計画を提出(期限:2027年9月30日)
  2. 贈与・相続の実行: 計画に基づき、2027年12月31日までに株式の贈与・相続を実行
  3. 認定申請: 贈与・相続の実行後、都道府県庁に認定申請
  4. 税務申告: 認定を受けたうえで、納税猶予の適用を受ける旨を税務申告
  5. 事後報告: 当初5年間は毎年、6年目以降は3年に1回、都道府県庁および税務署に報告・届出

特例措置の注意点

特例措置は大きなメリットがある一方、以下の点に注意が必要です。

  • 取消リスク: 要件を満たさなくなった場合、猶予されていた税額の全額に利子税を加えて一括納付しなければなりません
  • 継続的な手続き負担: 猶予期間中は定期的な報告・届出が必要です
  • 期限の切迫: 特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、贈与・相続の期限は2027年12月31日と迫っています。検討中の方は早めの対応が重要です

このような事業承継の税金対策でお悩みの場合は、早めに専門家へご相談されることをおすすめします。弁護士法人エースでは、所属弁護士が全員通知税理士登録済みであり、法務と税務の両面から最適なアドバイスを行っています。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

承継方法別の税務上の注意点

事業承継の方法によって税金の種類だけでなく、実務上の注意点も大きく異なります。ここでは、主な承継方法ごとの税務ポイントを整理します。

親族内承継の税務ポイント

親族内承継では、贈与税または相続税が中心的な課題です。

生前贈与を活用する場合

  • 暦年贈与(年間110万円の非課税枠)で段階的に株式を移転する方法
  • 相続時精算課税制度を選択し、累計2,500万円まで贈与税を非課税にする方法(ただし相続時に精算)
  • 事業承継税制(特例措置)の適用で贈与税を実質ゼロにできる可能性

相続により承継する場合

  • 自社株の評価額が遺産総額を大きく押し上げ、相続税が高額になるリスクがある
  • 生前の株価引き下げ対策が重要
  • 遺留分への配慮(他の相続人との紛争防止)も欠かせない

社内承継(MBO・EBO)の税務ポイント

役員や従業員が株式を買い取るMBO(経営陣による買収)・EBO(従業員による買収)では、以下のポイントに注意が必要です。

  • 株式取得資金の調達方法によって税務上の取り扱いが変わる
  • 後継者個人が買い取る場合と、新設法人を設立して買い取る場合で課税関係が異なる
  • 適正な株価での取引が必須(時価と大きく異なる価格での取引は、みなし贈与課税のリスクがある)

M&A(第三者承継)の税務ポイント

株式譲渡の場合

  • 売り手(個人)には譲渡所得税(約20.315%)が課される
  • 贈与税・相続税と比べて税率が低く、手取り額を予測しやすい
  • 譲渡対価の算定方法(DCF法・純資産法・マルチプル法など)の選択が重要

事業譲渡の場合

  • 譲渡益に対して法人税が課される
  • 一部の譲渡対象資産には消費税がかかる
  • のれん(営業権)の税務上の取り扱いに注意が必要

→ M&Aの手続き全体については『M&Aの流れと手続き|検討開始からクロージングまでの全体像』で解説しています。

事業承継の税務を弁護士・税理士に相談するメリット

事業承継の税務は制度が複雑で、判断を誤ると多額の追加負担が生じるリスクがあります。専門家に相談することで、以下のメリットが得られます。

法務と税務の両面からの最適解

事業承継には、税金の問題だけでなく、株主間の合意形成、契約書の作成、会社法上の手続きなど、法務面の課題も密接に絡みます。弁護士法人エースでは、所属弁護士が全員通知税理士登録済みであり、法務と税務を一体で対応できます。「税金は安くなるが法的リスクが残る」といった片手落ちの対策を防ぎ、経営者にとっての最適解を提案します。

経営者視点でのアドバイス

代表弁護士は複数法人の代表を兼任しており、経営者としての実体験に基づくアドバイスが可能です。「税務上は有利だが経営判断としては得策ではない」といった観点からも助言を行います。

労務面もワンストップで対応

事業承継では、従業員の雇用条件や退職金制度など労務面の整理も必要です。弁護士法人エースはグループ内に社労士法人を擁しており、法務・税務・労務をワンストップでサポートします。

まとめ

事業承継にかかる税金は、承継方法によって種類も税額も大きく異なります。この記事のポイントを整理します。

  • 承継方法で税金が変わる: 贈与税・相続税(親族内承継)、譲渡所得税(M&A株式譲渡)、法人税・消費税(事業譲渡)と、方法ごとに課税関係が異なる
  • 自社株評価が税負担の鍵: 類似業種比準方式・純資産価額方式を理解し、計画的な評価額の引き下げ対策が重要
  • 事業承継税制(特例措置)の活用を検討: 贈与税・相続税の実質ゼロが可能だが、特例承継計画の提出期限(2026年3月31日)が迫っている
  • 専門家への早めの相談が重要: 税務・法務の両面から最適な承継プランを設計するために、弁護士・税理士への相談をおすすめする

→ M&A・事業承継全般については『M&A・事業承継の基礎知識|中小企業の後継者問題を解決する方法』をご覧ください。

弁護士法人エースでは、M&A・事業承継に関するご相談を初回無料でお受けしています。

  • 所属弁護士全員が通知税理士登録済み(法務×税務のワンストップ対応)
  • グループ内社労士法人との連携(労務面も一貫サポート)
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電話相談受付:0120-419-155(年中無休 8:00〜22:00)

監修者プロフィール

成田 翼

弁護士法人エース 代表弁護士

竹内 省吾

経歴
慶應義塾大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2011)
弁護士登録(2012)
第一東京弁護士会・こども法委員会 委員(2020まで)
三田法曹会 会員
日本交通法学会 会員
東京都子供の権利擁護調査員(2020まで)
静岡県弁護士会 会員(2020から2023まで)
第一東京弁護士会 会員(2023)

監修者プロフィール

成田 翼

弁護士法人エース 代表弁護士

成田 翼

経歴
明治大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2012)
弁護士登録(2013)
神奈川県弁護士会 所属
刑事弁護委員会 委員
三田法曹会 会員

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