事業承継の3つの種類と選び方|親族内・社内・M&Aの比較
「事業承継を考えているが、どの方法を選べばよいかわからない」――多くの中小企業経営者が抱える悩みです。事業承継の方法は大きく分けて、親族内承継・親族外承継(社内承継)・M&A(第三者承継)の3つがあります。帝国データバンクの調査によると、2024年には社内承継(内部昇格)の割合が36.4%となり、初めて同族承継を上回りました。親族に継がせる時代から、自社に最適な方法を「選ぶ」時代へと変わりつつあります。
この記事では、事業承継の3つの種類それぞれのメリット・デメリットを詳しく解説し、自社に合った方法を選ぶためのポイントをお伝えします。
INDEX
事業承継とは?承継すべき3つの経営資源
事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことです。中小企業庁の「事業承継ガイドライン」では、承継すべき経営資源として以下の3つが挙げられています。
| 経営資源 | 内容 | 承継のポイント |
|---|---|---|
| 人(経営権) | 代表権・経営者の地位 | 後継者の選定と育成、関係者への周知 |
| 資産 | 自社株式・事業用不動産・設備・資金 | 株式の移転方法、税負担の最適化 |
| 知的資産 | 経営ノウハウ・技術・人脈・ブランド・顧客基盤 | マニュアル化・「見える化」、引き継ぎ期間の確保 |
特に中小企業では、経営者個人の信用や人脈で事業が成り立っている場合が多く、「知的資産」の承継が最も難しいとされています。どの承継方法を選ぶ場合でも、知的資産の引き継ぎには十分な準備期間を設けることが重要です。
会社設立の段階から将来の事業承継を意識しておくことも大切です。特に株主構成は、承継方法の選択肢に大きく影響します。
→ 詳しくは『会社設立時の株主・役員構成|共同経営・親族経営のリスク対策』をご覧ください。
親族内承継のメリット・デメリットと進め方
親族内承継とは、経営者の子どもや配偶者、きょうだいなどの親族に事業を引き継ぐ方法です。従来は最も一般的な承継方法でしたが、近年は後継者候補の不足や本人の意思により、選択される割合が減少傾向にあります。
メリット
- 社内外の理解を得やすい: 創業家が経営を継続することで、従業員・取引先・金融機関からの信頼を維持しやすい
- 後継者育成に時間をかけられる: 早期に後継者を決定すれば、実務経験を積ませる十分な期間を確保できる
- 承継のタイミングを柔軟に決められる: 贈与・相続の計画を長期的に立てることで、税負担を最適化できる
- 経営理念の継承がしやすい: 創業時からの理念や価値観を自然に共有できる
デメリット
- 後継者の経営能力が不確か: 親族であることと経営者としての資質は別問題。能力不足の場合、従業員のモチベーション低下を招くおそれがある
- 相続トラブルのリスク: 複数の相続人がいる場合、自社株や事業用財産の分配を巡って紛争が発生するケースがある
- 後継者本人の意思: 子どもが事業を継ぎたくないと考えるケースが増えている
進め方のポイント
- 後継者候補の意思確認: まずは親族に承継の意思があるか、率直に話し合う
- 後継者の育成計画: 社内の各部門を経験させる、他社での修行を経験させるなど
- 株式・財産の移転計画: 生前贈与・相続のどちらで株式を移転するか検討。事業承継税制(非上場株式等の贈与税・相続税の納税猶予制度)の活用も視野に入れる
→ 事業承継税制の詳細は『事業承継の税金と自社株評価|事業承継税制の活用ポイント』をご覧ください。
- 遺言書・遺留分対策: 他の相続人とのトラブルを防ぐため、遺言書の作成と遺留分に関する民法の特例活用を検討する
親族外承継(社内承継)のメリット・デメリットと進め方
親族外承継(社内承継)とは、親族以外の役員や従業員に事業を引き継ぐ方法です。MBO(Management Buyout:経営陣による買収)やEBO(Employee Buyout:従業員による買収)とも呼ばれます。
メリット
- 事業を熟知した人材に託せる: 社内で長年働いてきた人材であれば、事業内容・顧客・組織文化を深く理解している
- 人選の幅が広い: 親族に限らず、経営者としての資質や実績で後継者を選べる
- 経営方針の一貫性を保ちやすい: 社内の人間であれば、これまでの経営方針や企業文化を継承しやすい
- 従業員のモチベーション向上: 「頑張れば自分も経営者になれる」というキャリアパスを示すことができる
デメリット
- 株式取得のための資金調達が課題: 後継者個人が自社株を購入するための資金が不足するケースが多い。金融機関からの借入やファンドの活用が必要になる場合がある
- 個人保証の引き継ぎ: 中小企業の経営者は金融機関からの借入に対して個人保証を提供していることが多く、後継者がこれを引き受けることへの心理的ハードルが高い
- 経営者の親族との関係調整: 株主としての親族と、新経営者との間で利害対立が生じる可能性がある
進め方のポイント
- 後継者候補の選定: 経営能力・リーダーシップ・社内外からの信頼度を総合的に評価する
- 株式の移転方法の検討: MBOの場合、SPC(特別目的会社)を設立して資金調達するスキームが一般的。経営承継円滑化法に基づく金融支援も活用できる
- 段階的な権限移譲: いきなり全権を移譲するのではなく、一定期間をかけて意思決定の範囲を広げていく
- 経営者保証の解除・見直し: 「経営者保証に関するガイドライン」を活用し、金融機関と個人保証の解除・軽減を交渉する
M&A(第三者承継)のメリット・デメリットと進め方
M&A(Mergers and Acquisitions:合併・買収)による第三者承継とは、親族にも社内にも後継者がいない場合に、社外の第三者に会社や事業を譲渡する方法です。
株式譲渡と事業譲渡の違い
M&Aの主な方式には「株式譲渡」と「事業譲渡」があります。中小企業のM&Aでは株式譲渡が最も多く採用されますが、それぞれの特徴を理解しておくことが大切です。
| 項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 譲渡対象 | 会社の株式(会社全体) | 特定の事業・資産 |
| 法人格 | 会社はそのまま存続 | 譲渡元の会社も存続 |
| 契約・許認可 | 原則としてそのまま引き継ぎ | 個別に移転手続きが必要 |
| 従業員 | 雇用契約はそのまま継続 | 転籍の同意が必要 |
| 負債 | 簿外債務も含め引き継ぐリスクあり | 譲渡対象の負債のみ引き継ぐ |
| 手続きの簡便さ | 比較的シンプル | 資産・契約の個別移転が必要 |
| 税金(売り手側) | 株主個人に所得税(約20%) | 会社に法人税+消費税 |
メリット
- 後継者がいなくても事業を存続できる: 従業員の雇用や取引先との関係を維持しつつ、事業を継続できる
- 譲渡対価を得られる: 経営者は株式(事業)の売却益を引退資金や次の事業の資金として活用できる
- シナジー効果が期待できる: 買い手の経営資源(資金・技術・販路)と組み合わせることで、事業がさらに成長する可能性がある
- 個人保証から解放される: 株式譲渡の場合、クロージング(最終的な取引実行・引き渡し)時に経営者の個人保証が解除されるのが一般的
デメリット
- 希望条件の買い手が見つからない可能性: 業種・規模・業績によっては、マッチングが難航する場合がある
- 企業文化・雇用条件の変化: 買い手の経営方針により、従業員の待遇や社風が変わるおそれがある
- 情報漏洩のリスク: M&Aの検討段階で情報が漏れると、従業員の動揺や取引先の不安を招く
- M&A仲介会社の利益相反リスク: 仲介会社は売り手・買い手の双方から手数料を受け取る構造のため、依頼者の利益が最大化されない可能性がある
進め方のポイント
- 信頼できるアドバイザーの選定: M&A仲介会社・弁護士・公認会計士など、自社の利益を守ってくれる専門家を早めに選ぶ
- 企業価値の把握: 自社の適正な企業価値を事前に評価しておくことで、交渉を有利に進められる
- 秘密保持の徹底: 検討段階では関係者を最小限に絞り、NDA(秘密保持契約)を必ず締結する
- デューデリジェンス(DD)への対応準備: 買い手による調査に備えて、財務・法務・労務の書類を整備しておく
→ M&Aの手続き全体の流れについては『M&Aの流れと手続き|検討開始からクロージングまでの全体像』で詳しく解説しています。
事業承継の方法を選ぶポイント|比較表で解説
3つの方法にはそれぞれ一長一短があり、「どの方法が最善か」は企業の状況によって異なります。以下の比較表を参考に、自社に合った方法を検討しましょう。
3つの方法の総合比較
| 項目 | 親族内承継 | 親族外承継(社内承継) | M&A(第三者承継) |
|---|---|---|---|
| 後継者の候補 | 子・親族 | 役員・従業員 | 社外の第三者(企業) |
| 準備期間の目安 | 5〜10年 | 3〜5年 | 半年〜2年 |
| 株式移転の方法 | 贈与・相続 | MBO・EBO | 株式譲渡・事業譲渡 |
| 主な税金 | 贈与税・相続税 | 所得税(譲渡所得) | 所得税(譲渡所得)・法人税 |
| 経営者の売却益 | なし(資産移転) | 株式の売却益 | 株式の売却益(大きい) |
| 企業文化の継続性 | 高い | 高い | 変化の可能性あり |
| 従業員への影響 | 小さい | 小さい | 中〜大 |
| 費用 | 税対策費用・専門家費用 | 資金調達コスト | 仲介手数料・DD費用 |
自社に合った方法を選ぶための判断基準
親族内承継が適しているケース
– 後継者にふさわしい親族がいて、本人に承継の意思がある
– 創業家として経営を続けることに価値がある(ブランド・取引先との関係性)
– 長期的な準備期間を確保できる
親族外承継(社内承継)が適しているケース
– 親族に後継者候補がいないが、社内に有能な人材がいる
– 経営の継続性を重視したい
– 後継者候補に株式取得の資金を手当てできる見込みがある
M&A(第三者承継)が適しているケース
– 親族にも社内にも適切な後継者がいない
– 経営者が引退資金を確保したい
– 事業のさらなる成長(シナジー効果)を期待したい
– 比較的短期間で事業承継を完了させたい
このような事業承継の方法選びでお悩みの場合は、早めに専門家へご相談されることをおすすめします。弁護士法人エースでは、経営者の視点に立った実践的なアドバイスを行っています。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
事業承継を弁護士に相談するメリット
事業承継は法務・税務・労務が複雑に絡み合う経営課題です。方法の選択から実行まで、弁護士に相談することで以下のメリットがあります。
方法選択の段階から相談できる
「親族に継がせるべきか、M&Aを検討すべきか」という根本的な判断から、弁護士はサポートできます。弁護士法人エースでは、代表弁護士自身が複数法人の代表を兼任する経営者としての実体験を持っているため、法律論だけでなく「経営判断として最適か」という視点でアドバイスを行います。
親族間・株主間の紛争を予防できる
親族内承継では相続トラブル、社内承継では株主と新経営者の対立など、事業承継にはさまざまな紛争リスクがあります。弁護士が関与することで、遺言書の作成・株主間契約の締結・遺留分対策などを通じて、紛争を未然に防ぐことができます。
法務・税務・労務のワンストップ対応
弁護士法人エースでは、所属弁護士が全員通知税理士登録済みで、事業承継税制や自社株評価にも対応可能です。また、グループ内に社労士法人を擁しているため、従業員の引き継ぎに関する労務問題も一括して対応できます。
→ 顧問弁護士として継続的にサポートを受けることも可能です。詳しくは『顧問弁護士とは?役割・費用・選び方を企業法務の専門家が解説』をご覧ください。
まとめ
事業承継の3つの方法について、改めてポイントを整理します。
- 親族内承継: 社内外の理解を得やすく、育成に時間をかけられるが、後継者の意思・能力の問題や相続トラブルのリスクがある
- 親族外承継(社内承継): 事業を熟知した人材に託せるが、株式取得の資金調達と個人保証の引き継ぎが課題
- M&A(第三者承継): 後継者がいなくても事業を存続でき、売却益も得られるが、企業文化の変化や情報漏洩のリスクに注意が必要
- 最適な方法は企業ごとに異なる: 後継者候補の有無、準備期間、経営者の希望などを総合的に判断することが大切
- 専門家への早めの相談が成功の鍵: 法務・税務・労務が絡む複雑な問題だからこそ、弁護士のサポートが有効
→ M&A・事業承継全般については『M&A・事業承継の基礎知識|中小企業の後継者問題を解決する方法』をご覧ください。
弁護士法人エースでは、事業承継に関するご相談を初回無料でお受けしています。
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監修者プロフィール
弁護士法人エース 代表弁護士
竹内 省吾
- 経歴
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慶應義塾大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2011)
弁護士登録(2012)
第一東京弁護士会・こども法委員会 委員(2020まで)
三田法曹会 会員
日本交通法学会 会員
東京都子供の権利擁護調査員(2020まで)
静岡県弁護士会 会員(2020から2023まで)
第一東京弁護士会 会員(2023)
監修者プロフィール
弁護士法人エース 代表弁護士
成田 翼
- 経歴
-
明治大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2012)
弁護士登録(2013)
神奈川県弁護士会 所属
刑事弁護委員会 委員
三田法曹会 会員