M&Aの流れと手続き|検討開始からクロージングまでの全体像
「M&Aに興味はあるけれど、何から始めればいいかわからない」「手続きが複雑そうで不安」――M&Aを検討する中小企業の経営者から、このような声は少なくありません。M&Aの手続きは、準備段階からクロージング(最終的な取引実行・引き渡し)まで多くのステップがありますが、全体像を把握しておけば安心して進めることができます。この記事では、M&Aの流れと手続きを5つのフェーズに分けて、検討開始からPMI(Post Merger Integration:統合プロセス)まで、中小企業の経営者が押さえるべきポイントをわかりやすく解説します。
INDEX
M&Aの全体スケジュール|5つのフェーズと所要期間
M&Aのプロセスは、大きく5つのフェーズに分かれます。検討開始からクロージングまでの期間は、案件の規模や複雑さによって異なりますが、一般的に半年〜1年程度が目安です。
| フェーズ | 主な手続き | 期間の目安 |
|---|---|---|
| Phase 1:準備・検討 | 目的の明確化、企業価値評価、アドバイザー選定 | 1〜3ヶ月 |
| Phase 2:マッチング・交渉 | NDA締結、候補先選定、トップ面談、基本合意 | 2〜4ヶ月 |
| Phase 3:デューデリジェンス | 法務・財務・税務・労務などの調査 | 2週間〜1ヶ月 |
| Phase 4:最終契約・クロージング | 最終契約書締結、取締役会・株主総会決議、引き渡し | 1〜3ヶ月 |
| Phase 5:PMI(統合) | 組織・業務・制度の統合 | 3ヶ月〜1年 |
上記はあくまで目安であり、事業規模が大きい場合や許認可の取得が必要な場合は、さらに時間がかかることもあります。各フェーズで具体的にどのような手続きが必要になるのか、順に解説していきます。
Phase 1:準備・検討段階|M&Aの成功は準備で決まる
M&Aの最初のステップは、準備と検討です。この段階での判断が、M&A全体の方向性と成否を左右します。
目的の明確化
まず、M&Aの目的を明確にすることが重要です。
- 売り手の場合: 後継者不在の解決、事業の成長加速、オーナーのリタイア資金の確保など
- 買い手の場合: 事業領域の拡大、技術・人材の獲得、シナジー効果の実現など
目的によって最適なスキーム(株式譲渡か事業譲渡か)や交渉方針が変わるため、最初の段階で「なぜM&Aを行うのか」を整理しておきましょう。
→ M&A以外の承継方法との比較については『事業承継の3つの種類と選び方|親族内・社内・M&Aの比較』をご覧ください。
→ M&Aを活用した事業再生については『再生型M&Aとは?事業譲渡・会社分割による事業再生の方法』をご覧ください。
企業価値評価(バリュエーション)
自社の企業価値を適正に把握しておくことも欠かせません。中小企業の場合、上場企業のように市場価格がないため、以下のような方法で評価を行います。
- DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法): 将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価する方法
- 類似会社比準法: 類似する上場企業の株価指標を参考にする方法
- 純資産法: 会社の純資産をベースに評価する方法
企業価値の評価額は交渉の基礎となるため、専門家による客観的な評価を受けることをおすすめします。
アドバイザーの選定
M&Aでは法務・税務・財務など多岐にわたる専門知識が求められるため、信頼できるアドバイザーの存在が不可欠です。アドバイザーにはM&A仲介会社、ファイナンシャルアドバイザー(FA)、弁護士、税理士などがありますが、自社の利益を最優先に考えてくれる専門家を選ぶことがポイントです。
M&A仲介会社は売り手・買い手の双方から手数料を受け取る仕組みのため、構造的に利益相反のリスクがある点には注意が必要です。中小企業庁も2024年8月にM&Aトラブルに関する注意喚起を公表しており、アドバイザー選びは慎重に行いましょう。
Phase 2:マッチング・交渉段階|候補先の選定から基本合意まで
準備が整ったら、M&Aの相手探し(マッチング)と交渉に入ります。
NDA(秘密保持契約)の締結
M&Aの情報は極めてセンシティブです。情報漏洩は従業員の動揺や取引先の離反を招くリスクがあるため、候補先に自社の情報を開示する前に、必ずNDA(秘密保持契約)を締結しましょう。
→ NDAの作成ポイントについては『秘密保持契約書(NDA)とは?作成方法と重要条項を解説』をご覧ください。
候補先の選定とノンネームシート
NDA締結後、まずは企業名を伏せた概要資料(ノンネームシート)を候補先に提示し、関心の有無を確認します。関心を示した候補先には、より詳細な企業情報(IM:企業概要書)を開示して検討を進めます。
トップ面談
書面だけでは伝わらない経営者の人柄や経営理念、企業文化を確認するために、売り手と買い手の経営者が直接面談します。中小企業のM&Aでは、経営者同士の信頼関係がM&Aの成否を大きく左右します。
LOI(意向表明書)と基本合意
トップ面談を経て買い手が買収の意向を固めたら、LOI(Letter of Intent:意向表明書)を提出します。その後、主要な取引条件について合意に達した段階で基本合意書(MOUとも呼ばれます)を締結します。
基本合意書には、通常以下の事項が含まれます。
- 譲渡価格の目安(DDの結果により変動する旨を明記)
- 取引スキーム(株式譲渡か事業譲渡か)
- デューデリジェンスの実施に関する合意
- 独占交渉権の付与
- 秘密保持義務
基本合意書の段階では、譲渡価格は法的拘束力を持たない条項とするのが一般的です。独占交渉権や秘密保持義務など、一部の条項のみに法的拘束力を持たせるケースが多いです。
Phase 3:デューデリジェンス(DD)|リスクを見抜く企業調査
基本合意の締結後、買い手側が行うのがデューデリジェンス(DD)です。DDとは、売り手企業の法務・財務・税務・労務などを詳細に調査する「買収監査」のことで、M&Aの成否を左右する極めて重要なプロセスです。
DDの主な種類と調査内容
| DDの種類 | 主な調査内容 |
|---|---|
| 法務DD | 契約関係、訴訟・紛争リスク、許認可、コンプライアンス |
| 財務DD | 財務諸表の正確性、簿外債務、資金繰り |
| 税務DD | 税務申告の適正性、過去の税務リスク |
| 労務DD | 雇用契約、未払い残業代、ハラスメント問題 |
| ビジネスDD | 事業計画の妥当性、市場環境、競合状況 |
DDの期間は一般的に2週間〜1ヶ月程度です。DDで発見されたリスクは、譲渡価格の減額交渉や契約条件への反映(表明保証条項・補償条項)という形で対処します。
DDを省略・軽視すると、買収後に簿外債務や未払い残業代、許認可の問題などが発覚し、想定外の損失につながるおそれがあります。コストがかかっても、DDは確実に実施することをおすすめします。
→ DDの種類ごとの調査内容やチェックポイントの詳細は『デューデリジェンス(DD)とは?種類・進め方・チェックポイント』をご覧ください。
このようなM&Aの手続きでお悩みの場合は、早めに専門家へご相談されることをおすすめします。弁護士法人エースでは、経営者の視点に立った実践的なアドバイスを行っています。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
Phase 4:最終契約・クロージング|M&Aの完了手続き
DDの結果を踏まえた最終交渉を経て、いよいよM&Aの完了に向けた手続きに入ります。
最終契約書の締結
DDの結果に基づいて最終条件を確定し、株式譲渡契約書(SPA)または事業譲渡契約書(APA)を締結します。最終契約書には以下のような重要条項が含まれます。
- 譲渡価格・価格調整条項: 最終的な譲渡額とクロージング時の調整方法
- 表明保証条項: 売り手・買い手がそれぞれ一定の事実を「表明」し、その正確性を「保証」するもの
- 誓約事項: クロージングまでの義務(事業の通常運営継続など)
- 補償条項: 表明保証違反があった場合の損害賠償の取り決め
- クロージング条件: M&A実行の前提条件
→ 契約書の各条項の詳細については『M&A・事業承継の契約書|株式譲渡契約・事業譲渡契約の重要条項』で解説しています。
取締役会・株主総会の決議
M&Aの実行には、会社法上の手続きとして取締役会決議や株主総会決議が必要になる場合があります。
- 株式譲渡の場合: 譲渡制限株式であれば、取締役会(または株主総会)の譲渡承認決議が必要
- 事業譲渡の場合: 事業の全部または重要な一部を譲渡するときは、株主総会の特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成)が必要
決議の手続きに不備があるとM&A自体が無効になるリスクがあるため、法的手続きは慎重に進める必要があります。
→ 決議の種類や要件については『取締役会の決議事項と報告事項|決めるべき事項一覧と手続き』や『株主総会の決議の種類と要件|普通決議・特別決議・特殊決議の違い』をご覧ください。
クロージング
クロージングとは、最終契約書に基づいて株式や事業の引き渡しと対価の支払いを行う最終手続きです。クロージング当日には以下の手続きが行われます。
- 株式の名義書換(株式譲渡の場合)または資産・権利の移転(事業譲渡の場合)
- 譲渡対価の支払い
- 役員の選任・退任手続き
- 各種届出書類の作成・提出
最終契約書の締結からクロージングまでは、通常1〜3ヶ月の準備期間を設けます。許認可の取得や届出が必要な場合は、さらに期間を要することもあります。
Phase 5:PMI(統合プロセス)|M&A成功の鍵
M&Aはクロージングで終わりではありません。むしろ、M&Aの真の成否はPMI(統合プロセス)にかかっているといっても過言ではありません。
PMIで取り組むべき主な事項
経営面の統合
– 経営理念・ビジョンの共有
– 経営体制の構築(キーパーソンの役割明確化)
– 統合後の事業計画の策定
業務面の統合
– 業務プロセスの統一
– ITシステムの統合
– 取引先・顧客への対応方針の決定
人事・制度面の統合
– 従業員への説明と不安の解消
– 人事評価制度・給与体系の調整
– 就業規則の整備
100日プランの重要性
PMIは「100日プラン」と呼ばれるスケジュールで進めるのが一般的です。クロージング後の最初の100日間で優先課題を洗い出し、スピード感を持って実行します。
特に中小企業のM&Aでは、従業員への丁寧な説明が成功の鍵です。「会社が売られた」という不安から退職者が続出するケースも少なくありません。早期の情報共有と信頼関係の構築を心がけましょう。
M&Aの手続きを弁護士に依頼するメリット
M&Aの手続きには、法務・税務・財務の高度な専門知識が必要です。弁護士にM&Aを依頼するメリットを紹介します。
依頼者の利益を最優先に守れる
弁護士には依頼者の利益を最優先にする法的義務があります。M&A仲介会社とは異なり、売り手・買い手どちらかの立場に立って、最善の条件を引き出すための交渉をサポートします。
各フェーズで専門的な対応が可能
NDAの作成からDD、最終契約書の交渉・作成、取締役会・株主総会の手続きまで、M&Aの全プロセスにおいて法的なサポートを受けることができます。
弁護士法人エースの強み
- 経営者目線でのアドバイス: 代表弁護士は複数法人の代表を兼任しており、経営者としての実体験を踏まえた助言が可能です
- 法務・税務・労務のワンストップ対応: 弁護士全員が通知税理士登録済み。グループ内社労士法人との連携により、法務DD・税務DD・労務DDをまとめて対応できます
- 複数担当制: M&Aはスピードが重要。複数の弁護士・パラリーガルがチームで対応し、迅速なレスポンスを実現します
- LINEでの気軽な相談: 担当弁護士にLINEで直接連絡でき、ちょっとした疑問もすぐに解消できます
まとめ
M&Aの手続きは、準備・検討からPMIまで多くのステップがありますが、全体の流れを理解しておけば着実に進めることができます。
- M&Aは5つのフェーズで進行: 準備→マッチング→DD→最終契約→PMI。全体で半年〜1年が目安
- 準備段階が重要: 目的の明確化・企業価値評価・信頼できるアドバイザーの選定が成功の鍵
- DDは省略しない: 買収後のリスクを事前に把握するために不可欠なプロセス
- 法的手続きに注意: 取締役会決議や株主総会特別決議など、会社法上の手続きに不備があればM&A自体が無効になるリスクがある
- PMIが真の成功を左右: クロージング後の経営統合を計画的に進めることが重要
→ M&A・事業承継全般については『M&A・事業承継の基礎知識|中小企業の後継者問題を解決する方法』をご覧ください。
→ 費用相場や相談先の選び方については『事業承継・M&Aの弁護士費用と相談先の選び方』をご覧ください。
弁護士法人エースでは、M&A・事業承継の手続きに関するご相談を初回無料でお受けしています。
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監修者プロフィール
弁護士法人エース 代表弁護士
竹内 省吾
- 経歴
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慶應義塾大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2011)
弁護士登録(2012)
第一東京弁護士会・こども法委員会 委員(2020まで)
三田法曹会 会員
日本交通法学会 会員
東京都子供の権利擁護調査員(2020まで)
静岡県弁護士会 会員(2020から2023まで)
第一東京弁護士会 会員(2023)
監修者プロフィール
弁護士法人エース 代表弁護士
成田 翼
- 経歴
-
明治大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2012)
弁護士登録(2013)
神奈川県弁護士会 所属
刑事弁護委員会 委員
三田法曹会 会員