取締役会の決議事項と報告事項|決めるべき事項一覧と手続き

  • 2026/6/11

「この案件は取締役会で決議が必要なのか」「取締役に任せてもいい事項はどこまでか」——取締役会の運営において、どの事項を取締役会で決議しなければならないかは、経営者が最も悩むポイントの一つです。取締役会の決議事項は会社法で定められており、これを個々の取締役に委任することはできません。決議が必要な事項を取締役会に諮らずに進めてしまうと、その行為が無効になるリスクがあります。本記事では、取締役会の決議事項と報告事項の違い、法定の決議事項一覧、決議要件、決議に瑕疵がある場合のリスクまで、実務に即して詳しく解説します。

取締役会の決議事項とは

決議事項と報告事項の違い

取締役会で扱う事項は、大きく「決議事項」と「報告事項」に分けられます。

区分 内容 対応
決議事項 取締役会での決議(承認・否決)が必要な事項 出席取締役の過半数で決定
報告事項 取締役会で報告すれば足りる事項 報告を行い、質疑応答を経て完了

決議事項は取締役会の合議で決定しなければならず、代表取締役や個々の取締役に委任することができません。一方、報告事項は情報共有と監督が目的であり、決議は不要です。

取締役会の3つの職務

会社法362条2項は、取締役会の職務として以下の3つを定めています。

  1. 業務執行の決定
  2. 取締役の職務執行の監督
  3. 代表取締役の選定および解職

このうち「業務執行の決定」について、一定の重要事項は必ず取締役会で決議しなければならないとされています。

法定の必須決議事項一覧

会社法362条4項に基づき、以下の事項は取締役会で必ず決議しなければなりません。個々の取締役への委任は禁止されています。

重要な業務執行に関する決議事項

# 決議事項 条文 具体例
1 重要な財産の処分および譲受け 362条4項1号 不動産の売却、高額な設備の購入、重要な知的財産の譲渡
2 多額の借財 362条4項2号 金融機関からの多額の借入れ、社債の発行
3 支配人その他の重要な使用人の選任・解任 362条4項3号 支店長、工場長などの重要ポスト人事
4 支店その他の重要な組織の設置・変更・廃止 362条4項4号 支店の新設・廃止、事業部の設置・統廃合
5 社債の募集に関する重要事項 362条4項5号 社債の発行条件の決定
6 内部統制システムの構築に関する決定 362条4項6号 コンプライアンス体制、リスク管理体制の整備
7 役員等の責任の一部免除 362条4項7号 定款の定めに基づく取締役の責任免除

「重要な」の判断基準

「重要な財産の処分」や「多額の借財」における「重要」「多額」の基準は、会社法に具体的な金額は定められていません。判例では、以下の要素を総合的に考慮して判断するとされています。

  • 当該財産の会社の総資産に占める割合
  • 当該財産の保有目的
  • 処分行為の日常性(通常の営業活動の範囲内か)
  • 会社の経営状態

実務上は、取締役会規則(取締役会の運営に関する内部規定)を策定し、「〇〇万円以上の取引は取締役会決議事項とする」など、具体的な金額基準を設けておくことが推奨されます。

その他の法定決議事項

上記以外にも、会社法の各条文で取締役会の決議が求められる事項があります。

代表取締役・業務執行に関する事項

  • 代表取締役の選定・解職(会社法362条2項3号)
  • 業務執行取締役の選定(会社法363条1項2号)

株主総会に関する事項

  • 株主総会の招集の決定(会社法298条4項)
  • 株主総会に提出する議案の決定

利益相反・競業に関する事項

  • 競業取引の承認(会社法365条1項)
  • 利益相反取引の承認(会社法365条1項)

計算・配当に関する事項

  • 中間配当の決定(会社法454条5項)※定款に定めがある場合
  • 計算書類の承認(会社法436条3項)

取締役会の開催方法については、『取締役会の開催方法と運営の流れ』をご覧ください。議事録の記載方法については、『取締役会議事録の作成方法と保管義務』で詳しく解説しています。

→ M&Aで必要となる取締役会決議については『M&Aの流れと手続き|検討開始からクロージングまでの全体像』もご覧ください。

取締役会の報告事項

職務執行の報告

代表取締役および業務執行取締役は、3ヶ月に1回以上、自己の職務の執行状況を取締役会に報告しなければなりません(会社法363条2項)。

この報告義務は、取締役会による監督機能を実効的にするためのものです。報告を受けた他の取締役は、質問や意見を述べることで、業務執行の適正性をチェックします。

重要なのは、この職務執行の報告は書面決議(みなし決議)では省略できないということです。実際に取締役会を開催して報告を行う必要があり、これが取締役会を最低3ヶ月に1回開催すべき法的根拠となっています。

競業取引・利益相反取引の事後報告

競業取引や利益相反取引について取締役会の承認を受けた取締役は、取引後遅滞なく、取引の重要な事実を取締役会に報告しなければなりません(会社法365条2項)。

その他の報告事項

  • 監査役による取締役の不正行為の報告(会社法382条)
  • 会計監査人による会計監査報告

決議要件と特別利害関係人

普通決議の要件

取締役会の決議は、以下の2つの要件を満たす必要があります(会社法369条1項)。

  1. 定足数: 議決に加わることができる取締役の過半数が出席
  2. 議決数: 出席取締役の過半数が賛成

この要件は定款で引き上げることはできますが、引き下げることはできません。

特別利害関係人の排除

決議事項について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができません(会社法369条2項)。典型例は以下のとおりです。

決議事項 特別利害関係人
利益相反取引の承認 当該取引を行おうとする取締役
競業取引の承認 競業取引を行おうとする取締役
代表取締役の解職 解職対象の代表取締役
取締役の責任免除 責任を免除される取締役

特別利害関係人は定足数の算定からも除外されます。例えば、取締役5名のうち1名が特別利害関係人の場合、残り4名が議決に加わることができる取締役となり、その過半数(3名以上)の出席が必要です。

取締役会の機関設計や運営でお悩みの場合は、早めに専門家へご相談されることをおすすめします。弁護士法人エースでは、経営者の視点に立った実践的なアドバイスを行っています。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

決議に瑕疵がある場合のリスク

決議が無効になるケース

以下のような場合、取締役会の決議が無効となるリスクがあります。

  • 定足数を満たしていない: 出席取締役の人数が過半数に達していなかった場合
  • 特別利害関係人が議決に参加した: 排除すべき取締役が決議に加わった場合
  • 招集手続きに重大な瑕疵がある: 一部の取締役に招集通知を発しなかった場合

善意の第三者への影響

取締役会決議に基づいて行われた取引について、決議に瑕疵があった場合でも、取引の相手方(第三者)が善意(瑕疵を知らなかった)であれば、その取引の効力が直ちに否定されるわけではありません。ただし、相手方が瑕疵を知っていた場合は、取引が無効となる可能性があります。

実務上の対策

  • 取締役会規則を策定し、決議事項の範囲を明確化
  • 決議事項チェックリストを作成し、漏れを防止
  • 議事録に出席者数、賛否の数を明記し、定足数・議決数の充足を記録

弁護士に取締役会の決議について相談するメリット

「決議が必要か」の判断サポート

「この案件は取締役会決議が必要か、代表取締役の判断で進めてよいか」——弁護士法人エースでは、こうした日常的な判断について、LINEで気軽にご相談いただけます。代表弁護士は自身も経営者として取締役会を運営しており、法律と経営実務の両面からアドバイスが可能です。

取締役会規則の策定支援

決議事項の基準(金額、内容)を明確にした取締役会規則の策定をサポートします。グループ内に社労士法人を持ち、所属弁護士は全員が通知税理士登録済みのため、労務・税務関連の決議事項についてもワンストップで対応が可能です。

まとめ

取締役会の決議事項と報告事項について解説しました。本記事のポイントを整理します。

  • 決議事項は取締役会の合議で決定する必要があり、個々の取締役への委任は不可
  • 法定の必須決議事項:重要な財産の処分、多額の借財、重要な人事、組織変更、内部統制など
  • 報告事項は3ヶ月に1回以上の職務執行報告が代表的(書面決議で省略不可)
  • 特別利害関係人は議決に参加できない
  • 決議に瑕疵があると無効になるリスクがある
  • 取締役会規則を策定し、決議事項の基準を明確にしておくことが重要

→ 取締役会全般については『取締役会とは?設置義務・運営方法・決議事項を弁護士が解説』をご覧ください。

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監修者プロフィール

成田 翼

弁護士法人エース 代表弁護士

竹内 省吾

経歴
慶應義塾大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2011)
弁護士登録(2012)
第一東京弁護士会・こども法委員会 委員(2020まで)
三田法曹会 会員
日本交通法学会 会員
東京都子供の権利擁護調査員(2020まで)
静岡県弁護士会 会員(2020から2023まで)
第一東京弁護士会 会員(2023)

監修者プロフィール

成田 翼

弁護士法人エース 代表弁護士

成田 翼

経歴
明治大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2012)
弁護士登録(2013)
神奈川県弁護士会 所属
刑事弁護委員会 委員
三田法曹会 会員

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