中小企業の株主総会と書面決議|みなし決議・簡略化の方法

  • 2026/6/11

「株主は自分1人だけなので、わざわざ株主総会を開催する必要があるのか」「毎年の株主総会が面倒で、つい省略してしまっている」——中小企業の経営者の方から、このようなご相談をいただくことは少なくありません。

株主総会は株式会社の最高意思決定機関であり、株主が1名の一人会社であっても、法律上は毎年開催が義務づけられています。しかし、会社法には株主総会を適法に簡略化する方法がいくつか用意されています。

この記事では、中小企業における株主総会の実態と法的リスク、書面決議(みなし決議)の仕組みと手続き、書面による議決権行使と委任状の違い、招集手続きの省略方法まで、中小企業の経営者が知っておくべき簡略化のポイントを解説します。

中小企業の株主総会の実態

中小企業の株主総会は、上場企業とは大きく異なる特徴があります。まずはその実態と、注意すべき法的リスクを確認しましょう。

株主=経営者のケース

中小企業では、代表取締役が100%の株式を保有する「一人会社」や、経営に携わるメンバーのみが株式を保有するケースが多く見られます。このような会社では、株主と経営者が同一であるため、株主総会を開催する実益が乏しいように感じられます。

しかし、たとえ株主が代表取締役1名であっても、以下の場面では適法な株主総会の手続き(またはその代替手続き)が必要です。

  • 毎年の計算書類の承認
  • 役員の任期満了に伴う再任(役員変更登記が必要)
  • 定款の変更
  • 役員報酬の決定・変更

形式的な開催の問題点

中小企業の中には、「形式的に議事録だけ作成しておけば問題ない」と考えている会社もあります。しかし、実際に株主総会を開催していないにもかかわらず議事録だけ作成する行為は、法的に重大なリスクを伴います。

未開催のリスク

株主総会を開催せずに議事録のみを作成した場合のリスクを整理します。

リスク 内容
決議不存在 決議が最初から存在しなかったものとして扱われ、登記や法的行為が無効になる
刑事責任 私文書偽造罪や公正証書原本不実記載罪に問われる可能性がある
登記の職権抹消 虚偽の議事録に基づく登記が職権で抹消される可能性がある
税務上の問題 株主総会で決議していない役員報酬を経費計上した場合、否認されるリスクがある

こうしたリスクを回避するために、会社法は中小企業でも活用しやすい簡略化の方法を用意しています。その代表が「書面決議(みなし決議)」です。

→ 通常の株主総会の手続きと進行については『株主総会の流れと手続き』をご覧ください。

書面決議(みなし決議)とは

書面決議(みなし決議)は、実際に株主総会を開催しなくても、一定の要件を満たすことで株主総会の決議があったものとみなす制度です。中小企業にとって最も活用しやすい簡略化の方法です。

会社法319条の仕組み

会社法319条1項では、以下の要件を満たした場合に、株主総会の決議があったものとみなすと規定しています。

  1. 取締役(または株主)が、株主総会の目的事項について提案を行うこと
  2. 議決権を行使できる株主全員が、その提案について書面または電磁的記録で同意の意思表示をすること

この制度のポイントは、株主全員の同意が必要であるという点です。1名でも反対する株主がいれば、書面決議は利用できず、実際に株主総会を開催する必要があります。

書面決議の対象

書面決議は、普通決議の事項だけでなく、特別決議や特殊決議の事項についても利用することができます。つまり、定款変更や合併の承認なども、株主全員が同意すれば書面決議で行うことが可能です。

書面決議のメリット

メリット 内容
開催が不要 実際に集まる必要がなく、時間と場所の制約がない
招集手続きが不要 招集通知の発送手続きを省略できる
適法性の確保 会社法に基づいた正当な手続きとして認められる
迅速な意思決定 同意書が揃い次第、決議の効力が発生する

株主総会の適法な簡略化でお悩みの場合は、弁護士法人エースにお気軽にご相談ください。経営者自身が複数の法人を経営する代表弁護士が、実務に即したアドバイスをいたします。初回相談は無料です。

書面決議の手続きと流れ

書面決議を適法に行うための手続きを、ステップごとに解説します。

ステップ1:提案書の作成

取締役が、株主総会の目的事項について提案書を作成します。提案書には以下の事項を記載します。

  • 提案の日付
  • 提案者の氏名(通常は代表取締役)
  • 提案の内容(議案の具体的な内容)
  • 同意の期限(設定は任意ですが、実務上は期限を定めるのが一般的)

ステップ2:株主への提案書の送付

作成した提案書を、議決権を行使できる株主全員に送付します。送付方法は書面に限らず、メールなどの電磁的方法でも構いません。

ステップ3:同意書の取得

各株主から、提案内容に同意する旨の書面(同意書)を取得します。

同意書には以下の事項を記載します。

  • 提案の内容を特定する記載(「令和○年○月○日付提案書の内容に同意します」など)
  • 同意の日付
  • 株主の署名または記名押印

電子メールなど電磁的記録による同意も認められますが、証拠として保全するため、書面での取得が望ましいとされています。

ステップ4:議事録の作成

株主全員の同意が得られたら、議事録を作成します。書面決議の議事録には、通常の議事録とは異なる記載事項が定められています。

  • 株主総会の決議があったものとみなされた事項の内容
  • 上記事項の提案をした者の氏名
  • 株主総会の決議があったものとみなされた日
  • 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

→ 書面決議の議事録の具体的な書き方については『株主総会議事録の作成方法』をご覧ください。

ステップ5:書類の保管

提案書、同意書、議事録を本店に10年間保管します。登記申請の際には、議事録に加えて同意書の提出を求められる場合があります。

書面による議決権行使と委任状

書面決議(みなし決議)とは異なる制度として、「書面による議決権行使」と「委任状による議決権行使」があります。混同されやすいため、それぞれの違いを整理します。

書面による議決権行使(会社法311条)

株主が株主総会に出席しなくても、会社が送付した議決権行使書面に賛否を記入して返送することで、議決権を行使できる制度です。

  • 利用の前提: 株主総会の招集を決定する際に、書面投票を認める旨を定めること
  • 義務: 株主が1,000人以上の会社は書面投票制度の採用が義務(会社法298条2項)
  • 中小企業での利用: 株主数が少ない中小企業では、書面投票は任意。実務上はあまり利用されない

委任状による議決権行使(会社法310条)

株主が他の者(代理人)を代理人として株主総会に出席させ、議決権を行使させる制度です。

  • 代理人の資格: 定款で「株主に限る」と制限するケースが多い
  • 委任状の必要性: 代理権を証明する書面(委任状)を会社に提出する必要がある
  • 中小企業での利用: 配偶者や共同経営者を代理人として出席させるケースで活用される

3つの制度の比較

制度 株主総会の開催 全員の同意 根拠条文 中小企業での利用
書面決議(みなし決議) 不要 必要 会社法319条 最もよく利用される
書面による議決権行使 必要 不要 会社法311条 あまり利用されない
委任状による議決権行使 必要 不要 会社法310条 一部で利用される

中小企業にとっては、株主総会の開催自体が不要となる書面決議(みなし決議)が最も簡便で実用的な方法です。

招集手続きの省略(全員出席総会)

書面決議とは別に、実際に株主総会を開催するものの招集手続きを省略する方法もあります。

会社法300条の規定

会社法300条では、株主全員の同意がある場合は、招集手続きを経ずに株主総会を開催できると定めています。これを「全員出席総会」と呼びます。

全員出席総会の要件

  1. 株主全員が出席していること
  2. 株主全員が招集手続きの省略について異議を述べないこと

この2つの要件を満たせば、招集通知の発送などの手続きを省略して、その場で株主総会を開催・決議することができます。

全員出席総会のメリットと注意点

メリット:
– 招集通知の発送期間を待たずに、即時に株主総会を開催できる
– 緊急の議案に迅速に対応できる
– 中小企業では株主が少数のため、活用しやすい

注意点:
株主全員が出席する必要がある(1名でも欠席すれば全員出席総会は成立しない)
– 議事録に「株主全員が出席し、招集手続きの省略に同意した」旨を記載しておくことが望ましい
– 議事録の作成・保管義務は通常の株主総会と同様に適用される

書面決議との使い分け

場面 適した方法
株主が全員集まれる場合で、その場で議案を審議したい 全員出席総会
株主が遠方にいる場合や、集まる必要がない場合 書面決議
株主が1名(一人会社)の場合 書面決議がより簡便
事前に議案が確定しており、全員の同意が見込める場合 書面決議

中小企業が株主総会で注意すべきポイント

中小企業が株主総会に関して注意すべきポイントを整理します。

ポイント1:法的リスクの回避

「株主は自分だけだから大丈夫」という認識は危険です。以下のような場面で、過去の株主総会の適法性が問題になることがあります。

  • M&A(事業承継・売却): 買収側のデューデリジェンスで、過去の株主総会の手続きが確認される
  • 金融機関からの融資: 登記事項や議事録の提出を求められることがある
  • 株主構成の変更: 新たに株主が加わった際に、過去の手続きの不備を指摘されるリスクがある
  • 相続: 株式を相続した新株主が、過去の決議の有効性を争う可能性がある

ポイント2:記録の重要性

簡略化した手続きであっても、記録を残すことは極めて重要です。

  • 書面決議の場合: 提案書、同意書、議事録の3点セットを必ず保管する
  • 全員出席総会の場合: 議事録に出席者全員の氏名と招集手続き省略の同意があった旨を記載する
  • 保管期間: 本店に10年間の保管義務がある

ポイント3:定款の活用

中小企業は、定款の規定を活用することで株主総会の運営をさらに効率化できます。

  • 招集通知の発送期限の短縮: 非公開会社・取締役会非設置の場合、定款で1週間より短い期間に短縮可能
  • 普通決議の定足数の排除: 定款で定足数を排除すれば、出席株主数に関わらず決議可能
  • 議長の定め: 「代表取締役が議長となる」と定款に定めておくと、毎回の選任が不要

ポイント4:専門家への相談

株主総会の手続きに不安がある場合は、弁護士に相談することで適法な簡略化の方法を選択できます。特に以下のような場合は、専門家への相談をおすすめします。

  • 過去に株主総会を開催していなかった場合の是正方法
  • 書面決議の提案書・同意書のひな形の作成
  • 定款の見直しによる手続きの効率化

弁護士法人エースでは、LINEでの気軽なご相談にも対応しています。「書面決議のやり方がわからない」「議事録のひな形を確認したい」といったちょっとした疑問でも、担当弁護士にすぐに相談できます。

まとめ

中小企業であっても、株式会社である以上、株主総会は法律上の義務です。ただし、会社法は中小企業の実態に即した簡略化の方法を複数用意しています。この記事のポイントを整理します。

  • 株主総会の未開催は決議不存在や刑事責任のリスクがあり、避けるべき
  • 書面決議(みなし決議)は株主全員の書面同意で株主総会の開催を省略できる最も実用的な方法
  • 全員出席総会は株主全員が出席・同意すれば招集手続きを省略できる
  • 書面による議決権行使委任状による議決権行使は株主総会の開催を前提とした別の制度
  • 記録の保管は簡略化した場合でも必須であり、提案書・同意書・議事録を10年間保管する

→ 株主総会全般については『株主総会の基礎知識と運営ガイド』をご覧ください。

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監修者プロフィール

成田 翼

弁護士法人エース 代表弁護士

竹内 省吾

経歴
慶應義塾大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2011)
弁護士登録(2012)
第一東京弁護士会・こども法委員会 委員(2020まで)
三田法曹会 会員
日本交通法学会 会員
東京都子供の権利擁護調査員(2020まで)
静岡県弁護士会 会員(2020から2023まで)
第一東京弁護士会 会員(2023)

監修者プロフィール

成田 翼

弁護士法人エース 代表弁護士

成田 翼

経歴
明治大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2012)
弁護士登録(2013)
神奈川県弁護士会 所属
刑事弁護委員会 委員
三田法曹会 会員

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