定款の作成と記載事項|会社の憲法を正しく作るポイント
「定款には何を書けばいいのかわからない」「テンプレートをそのまま使っても大丈夫?」「定款の不備で会社設立がやり直しになったと聞いたことがある」——会社設立を進める経営者の方から、定款(会社の基本ルールを定めた文書)に関するご相談を多くいただきます。定款は「会社の憲法」とも呼ばれ、会社の存続期間を通じて経営のあり方を規定する最も重要な書類です。記載事項の不備や考慮不足があると、設立手続きが無効になったり、将来の経営トラブルの原因となったりします。本記事では、定款の作成方法、記載事項の種類と重要ポイント、よくある失敗事例、そして弁護士に依頼するメリットについて解説します。
定款とは
定款とは、会社の目的、組織、運営に関する基本的な規則を定めた文書です。「会社の憲法」とも呼ばれるように、会社のあらゆる活動がこの定款に基づいて行われます。
定款の役割
定款は、以下のような場面で必要になります。
会社設立時
株式会社を設立する場合、公証役場で定款の認証を受ける必要があります。定款認証を経て初めて、法務局への設立登記に進むことができます。合同会社の場合は公証人の認証は不要ですが、定款の作成は必須です。
融資・許認可の申請時
銀行から融資を受ける際や、各種許認可を申請する際に、定款の提出を求められることがあります。事業目的が定款に記載されていなければ、許認可を取得できない場合もあります。
株主・取引先への説明時
投資家や取引先から、会社の組織体制や運営ルールについて説明を求められた際、定款は会社の基本情報を示す重要な資料となります。
→ 会社設立の全体の流れは『会社設立の流れと手続き|株式会社・合同会社の違いと選び方』をご覧ください。
絶対的記載事項(会社法27条)
定款の記載事項は、その重要度によって「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」の3種類に分けられます。
絶対的記載事項とは、会社法27条で定められた、定款に必ず記載しなければならない事項です。これらのうち1つでも記載が欠けていると、定款全体が無効となり、会社設立ができません。
絶対的記載事項の一覧
| 記載事項 | 内容 |
|---|---|
| 目的 | 会社が行う事業内容 |
| 商号 | 会社名(「株式会社」を含む) |
| 本店の所在地 | 会社の本店所在地 |
| 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額 | 資本金の額 |
| 発起人の氏名または名称および住所 | 設立時の出資者情報 |
| 発行可能株式総数 | 会社が発行できる株式の上限 |
各記載事項のポイント
目的
事業目的は、許認可との関連で特に注意が必要です。例えば、建設業の許可を取得するには「建設業」に関する目的が定款に記載されている必要があります。将来行う可能性のある事業も含めて、幅広く記載しておくことが一般的です。ただし、あまりにも広範囲すぎると、何の事業をしている会社かわからなくなるため、主たる事業は明確に記載しましょう。
→ 知的財産に関連する事業目的については『知的財産権の種類と企業を守る活用法』もご参考ください。
商号
株式会社の場合は「株式会社」を商号に含める必要があります。「〇〇株式会社」(前株)でも「株式会社〇〇」(後株)でも構いません。また、同一住所に同一商号の会社は登記できませんので、事前に類似商号を確認しておくことをお勧めします。
本店の所在地
定款には最小行政区画(東京都〇〇区、〇〇県〇〇市など)まで記載すれば足ります。詳細な番地は登記の際に決定します。将来の本店移転を見据えて、定款には最小行政区画のみ記載しておくと、同一市区町村内での移転時に定款変更が不要になります。
発行可能株式総数
これは会社が発行できる株式の上限を定めるものです。設立時に発行する株式数は、発行可能株式総数の4分の1以上でなければなりません(公開会社の場合)。将来の増資を見据えて、ある程度余裕を持った数を設定しておくことが重要です。
相対的記載事項
相対的記載事項(記載しないと効力が生じない事項)とは、定款に記載しなくても定款自体は有効ですが、記載しないとその事項の効力が発生しないものです。中小企業にとって特に重要な事項を解説します。
株式の譲渡制限
中小企業にとって最も重要な相対的記載事項が、株式の譲渡制限です。これは「株式を他人に譲渡する場合は、会社(株主総会または取締役会)の承認が必要」という制限を設けるものです。
譲渡制限を定款に定めておかないと、株主が第三者に株式を自由に譲渡でき、見知らぬ第三者が株主として経営に口を出してくる事態が生じ得ます。中小企業では、ほぼすべての会社がこの譲渡制限を設けており、非公開会社(譲渡制限株式会社)として運営しています。
→ 株式譲渡制限や議決権に関する詳細は『会社設立時の株主・役員構成|共同経営・親族経営のリスク対策』をご覧ください。
取締役の任期
取締役の任期は、原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結時までです。ただし、非公開会社(株式譲渡制限会社)では、定款で最長10年まで延長できます。
任期を短く設定するメリットは、取締役の交代を柔軟に行えることです。一方、任期を長く設定すれば、重任登記の手間と費用(登録免許税1万円)を削減できます。会社の状況に応じて適切な任期を設定しましょう。
株主総会の招集期間の短縮
株主総会は原則として2週間前までに招集通知を発送する必要がありますが、非公開会社では定款で1週間前までに短縮できます。さらに、株主全員の同意があれば招集手続き自体を省略できます。中小企業では、機動的な意思決定のために招集期間を短縮しておくケースが多いです。
取締役会・監査役の設置
株式会社は、取締役会や監査役を設置するかどうかを定款で定めます。非公開会社では取締役1名のみで運営することも可能で、小規模な会社では取締役会を設置しない方がシンプルな運営ができます。
その他の相対的記載事項
- 現物出資(金銭以外の財産を出資する場合の記載)
- 財産引受(設立後に特定の財産を譲り受ける契約)
- 株券の発行(原則は不発行、発行する場合のみ記載)
- 役員の責任免除(取締役等の会社に対する責任の一部免除)
任意的記載事項
任意的記載事項とは、法律上の制約がなく、定款に記載するかどうかが会社の自由に委ねられている事項です。定款に記載すると、変更には株主総会の特別決議が必要になるため、重要事項について経営の安定性を高める効果があります。
主な任意的記載事項
事業年度
会社の決算期を定めます。例えば「毎年4月1日から翌年3月31日まで」のように規定します。定款に記載しなくても有効ですが、実務上は定款に記載するのが一般的です。
株主総会の議長
「株主総会の議長は代表取締役がこれに当たる」などと定めておくことで、総会運営がスムーズになります。
役員報酬の決定方法
「取締役の報酬は株主総会の決議をもって定める」など、報酬決定の手続きを明確にします。
公告の方法
会社が公告を行う方法(官報、日刊新聞、電子公告など)を定めます。定款に定めがない場合は官報公告となります。
定款作成の注意点・よくある失敗
定款作成で失敗すると、設立手続きのやり直しや、将来の経営トラブルにつながります。弁護士として多くの相談を受けてきた中で、よくある失敗事例を紹介します。
失敗事例1:事業目的の記載ミス
事例:IT企業を設立したAさんは、「ソフトウェアの開発」を目的として会社を設立しました。その後、派遣事業を始めようとしたところ、定款の目的に「労働者派遣事業」が含まれていなかったため、派遣業の許可申請ができませんでした。定款変更の株主総会特別決議と変更登記が必要となり、事業開始が2か月遅れました。
対策:将来行う可能性のある事業は、設立時点で目的に含めておきましょう。特に許認可が必要な事業(建設業、不動産業、人材派遣業など)を予定している場合は、必要な文言を確認してから定款を作成してください。
失敗事例2:株式譲渡制限の記載漏れ
事例:Bさんは、ひな形を使って定款を作成しましたが、株式譲渡制限の条項を入れ忘れていました。共同経営者との関係が悪化した際、その共同経営者が第三者に株式を譲渡してしまい、見知らぬ投資家が株主として現れる事態になりました。
対策:中小企業では、株式譲渡制限は必須といえます。ひな形を使う場合も、この条項が含まれているか必ず確認してください。
失敗事例3:取締役の任期設定ミス
事例:Cさんは、コスト削減を重視して取締役の任期を10年に設定しました。しかし、設立から3年後に取締役を解任したいと考えた際、任期途中の解任は正当な理由がなければ損害賠償請求の対象になることを知りました。結局、残り7年分の役員報酬相当額を支払って和解することになりました。
対策:任期を長く設定するとコスト削減になりますが、解任時のリスクも考慮する必要があります。特に共同経営の場合は、任期を短めに設定しておく方が安全です。
失敗事例4:発起設立と募集設立の混同
事例:Dさんは、友人数名から出資を募って会社を設立しようとしました。発起設立(発起人のみが株式を引き受ける設立方法)の手続きで進めてしまい、発起人以外の友人を株主として登記できず、やり直しになりました。
対策:設立時に発起人以外からも出資を受ける場合は「募集設立」の手続きが必要です。発起人だけで設立し、後から増資して友人を株主に加える方法もあります。設立方法は事前に専門家に相談することをお勧めします。
共同経営や株主構成でお悩みの場合は、弁護士法人エースにお気軽にご相談ください。設立後のトラブルを見据えた定款設計をご提案いたします。
定款変更の手続き
会社を運営していると、事業内容の追加、本店移転、役員構成の変更などにより、定款を変更する必要が生じることがあります。
定款変更の原則
定款の変更には、株主総会の特別決議が必要です。特別決議とは、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要な決議です。
一人株主の会社であれば問題ありませんが、複数の株主がいる場合は、定款変更への同意を得る必要があります。株主間で対立がある場合、定款変更が困難になることもあります。
変更登記が必要なケース
定款を変更した場合、変更内容によっては法務局への変更登記が必要です。
登記が必要な変更事項
– 商号の変更
– 目的の変更
– 本店の移転
– 発行可能株式総数の変更
– 役員に関する事項の変更
登記が不要な変更事項
– 事業年度の変更
– 株主総会の招集期間の変更
– 取締役会の設置・廃止(登記事項に影響しない範囲で)
変更登記には登録免許税(3万円〜)がかかります。複数の変更をまとめて行うことで、費用を節約できる場合もあります。
定款変更が必要になる典型的なケース
- 新規事業を始める(事業目的の追加)
- オフィスを移転する(本店所在地の変更)
- 取締役を増員する(取締役会の設置)
- 監査役を廃止する(機関設計の変更)
- 増資を行う(発行可能株式総数の変更)
弁護士に依頼するメリット
定款作成は、司法書士に依頼するケースが多いですが、弁護士に依頼することで得られるメリットがあります。
法的リスクの事前チェック
弁護士は、定款の記載内容だけでなく、その記載が将来どのような法的効果を生むかを予測し、リスクを事前に指摘できます。例えば、株式譲渡制限の条項一つとっても、承認機関を「株主総会」にするか「取締役会」にするか、「代表取締役」にするかで、実務上の使い勝手が大きく異なります。
将来の紛争を見据えた条項設計
特に共同経営や親族経営の場合、将来の紛争リスクを考慮した定款設計が重要です。取締役の任期、株主総会の決議要件、役員報酬の決定方法など、一見些細に見える規定が、紛争時に大きな意味を持つことがあります。
他士業との違い
登記手続きは司法書士でも対応できますが、紛争リスクの分析や、株主間契約との整合性を考慮した条項設計は、弁護士の専門領域です。特に以下のような場合は、弁護士への相談をお勧めします。
- 共同経営者がいる場合
- 親族から出資を受ける場合
- 将来の株式公開や事業承継を見据えている場合
- 投資家から出資を受ける予定がある場合
弁護士法人エースの強み
経営者視点のアドバイス
代表弁護士は複数法人の代表を兼任しており、経営者としての実体験を持っています。法律論だけでなく、実際の経営においてどのような問題が起こりやすいかを踏まえたアドバイスが可能です。
士業連携によるワンストップ対応
グループ内に社労士法人を保有し、所属弁護士は全員が通知税理士登録済みです。定款作成から設立登記、設立後の届出までワンストップで対応できます。
LINEでの気軽な相談
顧客との連絡にLINEを活用しており、ちょっとした疑問もすぐに相談できる環境を整えています。
まとめ
定款は「会社の憲法」であり、設立後の経営を左右する重要な書類です。本記事のポイントをまとめます。
絶対的記載事項は必ず押さえる
目的、商号、本店所在地、資本金、発起人情報、発行可能株式総数——これらが1つでも欠けると定款は無効です。
相対的記載事項で将来のリスクを予防
株式譲渡制限は中小企業の必須事項です。取締役の任期、株主総会の招集期間なども、会社の実情に合わせて検討しましょう。
事業目的は許認可を意識して設定
将来行う可能性のある事業も含めて、幅広く記載しておくことが重要です。
定款変更には株主総会特別決議が必要
設立後の変更は手間がかかるため、設立時に将来を見据えた設計をすることが大切です。
会社設立全般については『会社設立の法律相談|弁護士に依頼するメリットと手続きの流れ』をご覧ください。
弁護士法人エースでは、会社設立に関するご相談を初回無料でお受けしています。定款の作成・チェック、設立後のリスク管理まで、経営者のパートナーとして一貫してサポートいたします。LINE・電話・メールでお気軽にお問い合わせください。
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監修者プロフィール
弁護士法人エース 代表弁護士
竹内 省吾
- 経歴
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慶應義塾大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2011)
弁護士登録(2012)
第一東京弁護士会・こども法委員会 委員(2020まで)
三田法曹会 会員
日本交通法学会 会員
東京都子供の権利擁護調査員(2020まで)
静岡県弁護士会 会員(2020から2023まで)
第一東京弁護士会 会員(2023)
監修者プロフィール
弁護士法人エース 代表弁護士
成田 翼
- 経歴
-
明治大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2012)
弁護士登録(2013)
神奈川県弁護士会 所属
刑事弁護委員会 委員
三田法曹会 会員