下請法の適用対象と判断基準|自社の取引が該当するか確認する方法

  • 2026/6/11

「外注先への発注は下請法の対象になるのか」「2026年の法改正で新たに該当することになったのか」——自社の取引が下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)の適用対象かどうかは、企業のコンプライアンスにおいて最初に確認すべきポイントです。2026年1月の改正で取適法(中小受託取引適正化法)に改称され、従来の資本金基準に加えて従業員数基準が新設されたことで、適用対象は大きく拡大しています。この記事では、下請法が適用される取引の種類、資本金基準・従業員基準の詳細、判断の手順までを分かりやすく解説します。


下請法が適用される4つの取引類型

下請法の対象となるかどうかは、まず「取引の内容」と「当事者の規模」の2つの条件で判断します。取引の内容については、以下の4つの類型が定められています。

製造委託

物品の製造や加工を外部に委託する取引です。自社で販売する製品の部品製造を外注する場合や、受注した製品の組立工程を他社に委託する場合が該当します。

具体例
– 自動車メーカーが部品の製造を中小の部品工場に発注する
– 食品メーカーが包装資材の製造を外注する

修理委託

機械・設備などの修理を外部に委託する取引です。なお、定期的な点検やメンテナンスは「修理」には該当せず、役務提供委託に分類される点に注意が必要です。

具体例
– 電気機器メーカーが顧客から受けた修理対応の一部を下請業者に委託する

情報成果物作成委託

ソフトウェア、デザイン、映像コンテンツなどの「情報成果物」の作成を外部に委託する取引です。IT業界やクリエイティブ業界で多く発生する類型であり、中小企業でも該当するケースが少なくありません。

具体例
– IT企業がシステム開発やアプリケーション制作を外注する
– 広告代理店がデザイン制作を外部デザイナーに発注する
– ソフトウェア会社が自社用の経理システムの開発を他社に委託する

役務提供委託

サービスの提供を受託した事業者が、その全部または一部を他の事業者に再委託する取引です。運送、ビルメンテナンス、コールセンター業務などが代表例です。

具体例
– 貨物利用運送事業者が請け負った運送の一部を他の運送会社に委託する
– ビルメンテナンス会社が清掃業務を別の業者に再委託する

2026年改正で追加:特定運送委託

2026年1月の改正では、上記4類型に加えて「特定運送委託」が新たに対象に加わりました。これは、荷主(発荷主)が製造した物品等の運送を運送事業者に委託する取引で、物流業界において適用対象が広がっています。


資本金基準による適用範囲

下請法の適用対象かどうかは、取引類型に加えて、委託事業者(親事業者(改正法では「委託事業者」))と中小受託事業者(下請事業者(改正法では「中小受託事業者」))の資本金の額の関係で判断します。単に「資本金が○○円以上なら該当する」というわけではなく、発注側と受注側の資本金の相対的な関係がポイントです。

製造委託・修理委託・特定運送委託等の場合

委託事業者(発注側) 中小受託事業者(受注側)
資本金3億円超 資本金3億円以下(個人含む)
資本金1,000万円超〜3億円以下 資本金1,000万円以下(個人含む)

※情報成果物作成委託・役務提供委託のうち、プログラム作成、運送、物品の倉庫保管、情報処理に係るものも同じ基準が適用されます。

その他の情報成果物作成委託・役務提供委託の場合

委託事業者(発注側) 中小受託事業者(受注側)
資本金5,000万円超 資本金5,000万円以下(個人含む)
資本金1,000万円超〜5,000万円以下 資本金1,000万円以下(個人含む)

デザイン制作、コンテンツ制作、ビルメンテナンスなどが該当し、基準となる資本金額が低くなっているため、中小企業同士の取引でも適用される可能性があります。

資本金基準の注意点

資本金基準は登記上の資本金の額で判断します。実態として大企業並みの売上規模があっても、資本金が基準を下回っていれば従来は適用されませんでした。この点を補うために、2026年改正で従業員基準が新設されています。


【2026年改正】従業員基準の新設

2026年1月の改正で最も注目すべき変更の一つが、従業員数基準の新設です。「資本金が小さいから下請法は関係ない」と考えていた企業でも、従業員数によって新たに適用対象となるケースが出ています。

従業員基準の内容

取引類型 委託事業者(発注側) 中小受託事業者(受注側)
製造委託・修理委託・特定運送委託等 従業員300人超 従業員300人以下
情報成果物作成委託・役務提供委託(上記以外) 従業員100人超 従業員100人以下

資本金基準と従業員基準はいずれか一方に該当すれば適用されます。たとえば資本金が同額の企業同士であっても、委託側の従業員が300人を超え、受託側が300人以下であれば下請法の対象となります。

「常時使用する従業員」のカウント方法

従業員基準における「従業員」は、労働基準法に基づく賃金台帳に記載された人数で算定します。

  • 含まれる: 正社員、契約社員、パート、アルバイト、1か月を超えて継続して使用される日雇い労働者
  • 含まれない: 派遣社員(派遣元の従業員としてカウントされるため)

判定のタイミングは、原則として発注時点の従業員数です。なお、2か月前の賃金台帳上の人数を用いて判定することも認められています。

具体例で見る従業員基準の影響

ケース:資本金1,000万円・従業員350人の製造業が部品製造を外注

  • 旧制度(資本金基準のみ):委託側の資本金1,000万円 → 3億円超の基準も1,000万円超〜3億円以下の基準も満たさず → 適用外
  • 新制度(従業員基準を追加):委託側の従業員350人(300人超) → 受注側が300人以下であれば → 適用対象

このように、改正により新たに適用対象となった企業は相当数にのぼると見込まれています。

→ 改正の全体像について詳しくは「2026年改正で下請法が取適法に|変更点と企業が取るべき対応」をご覧ください。


適用対象の判断フローチャート

自社の取引が下請法の適用対象かどうかは、以下の手順で判断できます。

ステップ1:取引の内容を確認する

発注しようとしている取引が、以下のいずれかに該当するかを確認します。

  • 製造委託(物品の製造・加工の外注)
  • 修理委託(修理の外注)
  • 情報成果物作成委託(ソフトウェア・デザイン等の外注)
  • 役務提供委託(サービスの再委託)
  • 特定運送委託(物品の運送の委託)

いずれにも該当しない場合は、下請法の適用対象外です。

ステップ2:資本金基準を確認する

取引類型ごとに、自社と取引先の資本金の関係が基準に該当するかを確認します。

ステップ3:従業員基準を確認する

資本金基準に該当しない場合でも、自社と取引先の従業員数の関係が基準に該当すれば適用対象です。

ステップ4:適用対象の場合の対応

いずれかの基準に該当すると判断された場合、委託事業者として3条書面(発注時に交付が義務付けられている書面)の交付をはじめとする4つの義務を遵守し、禁止行為に抵触しないよう取引条件を確認する必要があります。

→ 委託事業者の義務について詳しくは「委託事業者の4つの義務|3条書面・支払期日・書類保存のポイント」をご覧ください。

→ 禁止行為について詳しくは「下請法の禁止行為と違反事例|買いたたき・減額・受領拒否を防ぐ方法」をご覧ください。


注意すべきグレーゾーン

適用対象の判断は、実際にはシンプルにいかないケースもあります。特に注意すべきポイントを整理します。

関連会社間取引とトンネル会社規制

資本金の小さい子会社を介して発注することで下請法の適用を免れようとする「トンネル会社」の利用は、法律で規制されています(取適法第2条10項)。実質的に親会社の指示で子会社が発注を行っている場合は、親会社が委託事業者として下請法の適用を受けます。

業務委託契約との関係

業務委託契約を締結しているからといって、下請法の適用が除外されるわけではありません。業務委託の内容が4つの取引類型のいずれかに該当し、資本金基準または従業員基準を満たせば、下請法が適用されます。業務委託契約の作成にあたっては、下請法上の義務を踏まえた条項設計が重要です。

→ 業務委託契約書と下請法の関係については「業務委託契約書の作成ポイント|トラブルを防ぐ条項と注意点」もご覧ください。

フリーランス保護新法(フリーランス・事業者間取引適正化等法)との違い

2024年11月に施行されたフリーランス保護新法と下請法は、いずれも委託取引を規制する法律ですが、適用範囲が異なります。

項目 下請法(取適法) フリーランス保護新法
発注側の要件 資本金または従業員数の基準あり 資本金要件なし(従業員を使用する事業者等)
受注側の対象 中小受託事業者(法人を含む) フリーランス(従業員を使用しない個人等)
対象取引 単発取引も含む 継続的な業務委託(1か月以上)
就業環境の保護 なし あり(ハラスメント防止・育児介護配慮等)

中小受託事業者がフリーランスにも該当する場合は、原則としてフリーランス保護新法が優先適用されます。自社の取引先が法人か個人か、従業員を雇用しているかどうかによって、適用される法律が異なるため注意が必要です。

このような下請法の適用判断でお悩みの場合は、早めに専門家へご相談されることをおすすめします。弁護士法人エースでは、経営者の視点に立った実践的なアドバイスを行っています。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。


自社が該当する場合に取るべき対応

下請法の適用対象であると判断された場合、まず以下の点を確認・対応しましょう。

1. 取引先の規模を把握する

資本金基準と従業員基準の両面で、自社と取引先の関係を整理します。取引先の従業員数を正確に把握できない場合は、下請法に準拠して対応することが望まれるとされています。

2. 既存の取引条件を点検する

現在の発注プロセスが、3条書面の交付義務や支払期日のルール(受領日から60日以内)を満たしているかを確認します。口頭発注が常態化している場合は、早急に書面化が必要です。

3. 契約書・発注書のテンプレートを見直す

下請法の適用を前提とした契約条項が盛り込まれているかを確認します。特に取引基本契約書の内容が禁止行為に抵触していないかの点検が重要です。

4. 社内研修の実施

購買・調達部門の担当者を中心に、下請法の基本ルールと禁止行為についての研修を実施します。「知らなかった」では済まされないのが下請法の特徴です。

5. 弁護士への相談

適用対象の判断自体が難しいケースや、既存の取引条件に問題がないかの確認は、企業法務に詳しい弁護士に相談するのが確実です。弁護士法人エースでは、代表弁護士が経営者でもある視点から、法律論だけでなく経営判断としてのアドバイスを提供しています。複数弁護士・パラリーガルによるチーム体制で、レスポンスの早い対応が可能です。


まとめ

下請法の適用対象かどうかは、「取引の内容(4類型+特定運送委託)」と「当事者の規模(資本金基準または従業員基準)」の組み合わせで判断します。2026年1月の改正で従業員基準が新設されたことにより、従来は適用対象外だった企業も新たに該当する可能性があります。

  • 4類型+特定運送委託: 自社の取引がいずれかに該当するか確認する
  • 資本金基準: 取引類型ごとの2段階基準(3億円/1,000万円、5,000万円/1,000万円)で判断
  • 従業員基準: 製造委託等は300人、役務提供委託等は100人が分かれ目
  • 両基準はOR条件: いずれか一方に該当すれば適用対象
  • フリーランス保護新法との違い: 受注側が個人フリーランスの場合は適用法が異なる

適用対象であるにもかかわらず義務を遵守していない場合、公正取引委員会の書面調査で指摘を受けたり、勧告・企業名公表に至るリスクがあります。まずは自社の取引を洗い出し、該当するかどうかを確認するところから始めましょう。

→ 下請法全般については「下請法(取適法)とは?企業が知るべきルールと対策を弁護士が解説」をご覧ください。

弁護士法人エースでは、下請法・取適法に関するご相談を初回無料でお受けしています。

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監修者プロフィール

成田 翼

弁護士法人エース 代表弁護士

竹内 省吾

経歴
慶應義塾大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2011)
弁護士登録(2012)
第一東京弁護士会・こども法委員会 委員(2020まで)
三田法曹会 会員
日本交通法学会 会員
東京都子供の権利擁護調査員(2020まで)
静岡県弁護士会 会員(2020から2023まで)
第一東京弁護士会 会員(2023)

監修者プロフィール

成田 翼

弁護士法人エース 代表弁護士

成田 翼

経歴
明治大学法学部卒業(2009)
慶應義塾大学法科大学院卒業(2012)
弁護士登録(2013)
神奈川県弁護士会 所属
刑事弁護委員会 委員
三田法曹会 会員

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